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Ⅰ
試験前
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それから数日経って、試験の時期が近づいてきた。
それまでは休み時間の教室は家のことやそれぞれの興味あること、もしくは宿題のことばかりだったが試験が近づいてくると話題は試験のことだけになってくる。
そしてそれは私とクリフの間でも同じだった。
「試験が近いけどリアナは調子はどうだ?」
「私はまあまあかな」
私は日頃からまあまあ勉強しているからそこまで慌てることもない。いつもよりちょっと勉強時間を増やすぐらいでどうにかなるだろう。
むしろ私はクリフのことが心配だった。前に宿題をそのまま写していたことからも分かるように、彼が自力で勉強をしている様子はほぼない。授業中ですら上の空であることが多い。
恐らく彼は私が「クリフこそどう?」と訊き返すことを期待してその話題を振って来たのではないか、と私は邪推している。
それは分かったし、どんな答えが返ってくるのかも分かっていたが、それでも私は訊いてあげることにする。
「クリフはどう?」
「それが、俺は今回かなりやばそうなんだ……勉強教えてくれないか?」
「仕方ないなあ。これからはちゃんと日頃から勉強するんだよ?」
「ああ、そうするよ」
そうは言うものの似たようなやりとりは今まで何度もしたことがあるような気もするけど。
その後彼が勉強への向き合い方を変えた様子はないし、何なら入学したばかりのころの方がまだ真面目だった気がする。
とはいえ、勉強を教えている間は私たちは一緒にいることが出来る。それに勉強を教えるという行為自体は嫌いではない。
「じゃあ放課後カフェテリアに行こうか」
「分かった」
基本的に放課後になると運動や特別な活動をしている生徒以外は帰ってしまうことが多いため、昼間は混んでいるカフェテリアもがらんとしている。
図書館や自習室もあるが、そこではしゃべると迷惑になるので教える時はカフェテリアにしよう……と思ってカフェテリアに行くと、そこでは数人グループの生徒たちが至るところにいて小さな勉強会が無数に開かれていた。所詮学生が考えることなど皆同じということらしい。
私たちはその一角に座り、教科書を広げる。
「じゃあまずは何からにする?」
「……歴史で」
歴史は確かクリフにとってまだ得意な教科だったような気がする。確かにいきなり苦手な教科から始めるとやる気が削がれてしまうかもしれない。
とりあえず私はクリフの今の知識がどのくらいかを確認することにする。
「じゃあまずはどのくらい覚えてるのか確認ね。ここスターリッジ王国が建国する前にこの地を支配していた王国は?」
「え?」
クリフが首をかしげる。いや、「え?」じゃないけど。
最初だから絶対分かりそうな問題を出したつもりだったのに。
私たちの間に気まずい沈黙が流れる。
少しして彼は根負けしたように言った。
「ヒント、ヒントをくれ」
「いや、名前だからヒントとかないし……じゃあうちの初代国王が建国の際に倒した相手は? その国の国王なんだけど」
「えーっと……暴帝メルギルだっけ」
「その人が治めていた国だけど」
ちなみに暴帝メルギルは国民から重税を搾り取り、酒池肉林の限りを尽くしていた典型的な暴君であり、その怒りにより決起した者たちがスターリッジ王国の祖である。子供のころに「言うことを聞かないとメルギルにとって食われるぞ」などと言われることもあり、子供でも知っている名前だ。だから彼が王だった国も誰でも知っていると思ったんだけど。
クリフはしばらく頭を捻っていたが、やがて観念した。
「うーん……思い出せない」
それを聞いて私は嘆息する。
前に勉強を教えたときはここまで酷くなかった気がするのに何でこうなってしまったのだろうか。やはり私が甘やかしてしまったのが原因だろうか。
そう思った私は勇気を振り絞って言う。
「あの、厳しいことを言うけどこれは結構まずいって自覚した方がいいと思う」
「そんなこと言わないでくれよ」
クリフは情けない声で言う。
「じゃあこれからは心を入れ替えて勉強してね」
「うーん」
だが、クリフは微妙そうな顔をするだけだった。
せめて返事だけでも「頑張る」と言えないのだろうか、と呆れてしまう。これでは付け焼刃で勉強を教えて試験を乗り切っても、またすぐに似たようなことになってしまうだろう。
その後私は基本的なことから順に教えていったが、何分クリフが分かっていないことが多すぎて全然進まなかった。
そのため私はクリフに明日も勉強しようと言って門限ぎりぎりにカフェテリアを出るのだった。
それまでは休み時間の教室は家のことやそれぞれの興味あること、もしくは宿題のことばかりだったが試験が近づいてくると話題は試験のことだけになってくる。
そしてそれは私とクリフの間でも同じだった。
「試験が近いけどリアナは調子はどうだ?」
「私はまあまあかな」
私は日頃からまあまあ勉強しているからそこまで慌てることもない。いつもよりちょっと勉強時間を増やすぐらいでどうにかなるだろう。
むしろ私はクリフのことが心配だった。前に宿題をそのまま写していたことからも分かるように、彼が自力で勉強をしている様子はほぼない。授業中ですら上の空であることが多い。
恐らく彼は私が「クリフこそどう?」と訊き返すことを期待してその話題を振って来たのではないか、と私は邪推している。
それは分かったし、どんな答えが返ってくるのかも分かっていたが、それでも私は訊いてあげることにする。
「クリフはどう?」
「それが、俺は今回かなりやばそうなんだ……勉強教えてくれないか?」
「仕方ないなあ。これからはちゃんと日頃から勉強するんだよ?」
「ああ、そうするよ」
そうは言うものの似たようなやりとりは今まで何度もしたことがあるような気もするけど。
その後彼が勉強への向き合い方を変えた様子はないし、何なら入学したばかりのころの方がまだ真面目だった気がする。
とはいえ、勉強を教えている間は私たちは一緒にいることが出来る。それに勉強を教えるという行為自体は嫌いではない。
「じゃあ放課後カフェテリアに行こうか」
「分かった」
基本的に放課後になると運動や特別な活動をしている生徒以外は帰ってしまうことが多いため、昼間は混んでいるカフェテリアもがらんとしている。
図書館や自習室もあるが、そこではしゃべると迷惑になるので教える時はカフェテリアにしよう……と思ってカフェテリアに行くと、そこでは数人グループの生徒たちが至るところにいて小さな勉強会が無数に開かれていた。所詮学生が考えることなど皆同じということらしい。
私たちはその一角に座り、教科書を広げる。
「じゃあまずは何からにする?」
「……歴史で」
歴史は確かクリフにとってまだ得意な教科だったような気がする。確かにいきなり苦手な教科から始めるとやる気が削がれてしまうかもしれない。
とりあえず私はクリフの今の知識がどのくらいかを確認することにする。
「じゃあまずはどのくらい覚えてるのか確認ね。ここスターリッジ王国が建国する前にこの地を支配していた王国は?」
「え?」
クリフが首をかしげる。いや、「え?」じゃないけど。
最初だから絶対分かりそうな問題を出したつもりだったのに。
私たちの間に気まずい沈黙が流れる。
少しして彼は根負けしたように言った。
「ヒント、ヒントをくれ」
「いや、名前だからヒントとかないし……じゃあうちの初代国王が建国の際に倒した相手は? その国の国王なんだけど」
「えーっと……暴帝メルギルだっけ」
「その人が治めていた国だけど」
ちなみに暴帝メルギルは国民から重税を搾り取り、酒池肉林の限りを尽くしていた典型的な暴君であり、その怒りにより決起した者たちがスターリッジ王国の祖である。子供のころに「言うことを聞かないとメルギルにとって食われるぞ」などと言われることもあり、子供でも知っている名前だ。だから彼が王だった国も誰でも知っていると思ったんだけど。
クリフはしばらく頭を捻っていたが、やがて観念した。
「うーん……思い出せない」
それを聞いて私は嘆息する。
前に勉強を教えたときはここまで酷くなかった気がするのに何でこうなってしまったのだろうか。やはり私が甘やかしてしまったのが原因だろうか。
そう思った私は勇気を振り絞って言う。
「あの、厳しいことを言うけどこれは結構まずいって自覚した方がいいと思う」
「そんなこと言わないでくれよ」
クリフは情けない声で言う。
「じゃあこれからは心を入れ替えて勉強してね」
「うーん」
だが、クリフは微妙そうな顔をするだけだった。
せめて返事だけでも「頑張る」と言えないのだろうか、と呆れてしまう。これでは付け焼刃で勉強を教えて試験を乗り切っても、またすぐに似たようなことになってしまうだろう。
その後私は基本的なことから順に教えていったが、何分クリフが分かっていないことが多すぎて全然進まなかった。
そのため私はクリフに明日も勉強しようと言って門限ぎりぎりにカフェテリアを出るのだった。
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