1 / 38
パーシーとミア
しおりを挟む
「パーシー、私は最近楽器の練習をしているの。父上がうちに高名なピアノ先生を呼んでくれたから一緒に習おうと思って」
「そうか、ピアノか。でも指だけでいいからダンスとかよりも簡単そうだな」
向かい合って座っているパーシーの言葉に私は内心溜め息をつきます。
今日は私の屋敷に彼が来てくれて、二人でお茶を楽しんでいます。
パーシーは何というか、婚約者である私からは言いにくいのですが、しばしばこういう……何というか、デリカシーのないところがあります。
そのため私は彼と二人きりで話すのがどうにも得意ではありません。
「いえ、ピアノも結構大変だわ。そもそも楽譜を覚えるのからして大変で……」
「そうか、でもどうせ覚えるのが大変なら魔法の方が役に立っていいんじゃないか?」
パーシーはテイラー伯爵家の跡取りで、文武両道、眉目秀麗で次代の当主として周囲の期待を一心に集めています。
私の父上はそんなパーシーの評判を聞き、将来のために私の婚約者に選んだらしいです。
そしてパーシーとの婚約が決まった時は、私は随分羨ましがられたものです。
しかし婚約して実際に向かい合って話してみると、少し正直すぎるというか、配慮のない物言いが目立っています。
「ほら、ハミルトン家の誰だっけ……忘れたけどご令嬢も魔法が使えることで有名だし、それに君の妹のリリーだって魔力がいっぱいあって将来を期待されているだろう? あんな怪我をしたのにそこまでになるなんてすごいじゃないか」
「でもそれはその、向き不向きもありますし」
他家のご令嬢はまだいいですが、リリーの名前を出されて私は心がざわつくのを感じます。
しかしそのことをパーシーに悟られてはならない、とどうにか表情が変わらないようにします。
「まあそれはそうだが、向き不向きを理由に努力を諦めるのはもったいないと思うな。僕だって最初は勉強が嫌いだったけど、あれは八歳のある冬の日のことだった。いつものように勉強を嫌がっている僕に父上が……」
そこから突然パーシーの自分語りが始まります。
この時パーシーは父親に「騙されたと思って一か月だけ勉強を真面目にやってみろ。もし結果が出なかったら何でも好きな物を買ってやる。ただそれはお前が本気でやった場合だ」と言われ、その時欲しい物があったパーシーは奮起して頑張ったところ勉強も出来るようになったという話が続きます。
いい話と言えばいい話ですが、もう何度か聞いているので、私は適当に聞き流します。
そして聞き流しながら考えます。一応私がピアノの話を振ったのに、それには全く興味を示さずに他人の話を出して、挙句もう何度も話した自分語りを始めるのはいかがなものでしょうか。
せめて社交辞令でも、「うまくなったら一曲弾いてくれ」ぐらい言ってくれてもいいのに。
きっとパーシーにとってピアノは本当に興味のないジャンルなのでしょう。彼が武術と学問を両方頑張ったのは認めますが、そのせいなのか元々の性格のせいなのか、芸事には全く興味を持ってくれません。
それなら確かに私がパーシーの言う通り魔法を頑張れば良いのかもしれませんが、実は私が魔法をあまりやっていないのには理由があります。
「そうか、ピアノか。でも指だけでいいからダンスとかよりも簡単そうだな」
向かい合って座っているパーシーの言葉に私は内心溜め息をつきます。
今日は私の屋敷に彼が来てくれて、二人でお茶を楽しんでいます。
パーシーは何というか、婚約者である私からは言いにくいのですが、しばしばこういう……何というか、デリカシーのないところがあります。
そのため私は彼と二人きりで話すのがどうにも得意ではありません。
「いえ、ピアノも結構大変だわ。そもそも楽譜を覚えるのからして大変で……」
「そうか、でもどうせ覚えるのが大変なら魔法の方が役に立っていいんじゃないか?」
パーシーはテイラー伯爵家の跡取りで、文武両道、眉目秀麗で次代の当主として周囲の期待を一心に集めています。
私の父上はそんなパーシーの評判を聞き、将来のために私の婚約者に選んだらしいです。
そしてパーシーとの婚約が決まった時は、私は随分羨ましがられたものです。
しかし婚約して実際に向かい合って話してみると、少し正直すぎるというか、配慮のない物言いが目立っています。
「ほら、ハミルトン家の誰だっけ……忘れたけどご令嬢も魔法が使えることで有名だし、それに君の妹のリリーだって魔力がいっぱいあって将来を期待されているだろう? あんな怪我をしたのにそこまでになるなんてすごいじゃないか」
「でもそれはその、向き不向きもありますし」
他家のご令嬢はまだいいですが、リリーの名前を出されて私は心がざわつくのを感じます。
しかしそのことをパーシーに悟られてはならない、とどうにか表情が変わらないようにします。
「まあそれはそうだが、向き不向きを理由に努力を諦めるのはもったいないと思うな。僕だって最初は勉強が嫌いだったけど、あれは八歳のある冬の日のことだった。いつものように勉強を嫌がっている僕に父上が……」
そこから突然パーシーの自分語りが始まります。
この時パーシーは父親に「騙されたと思って一か月だけ勉強を真面目にやってみろ。もし結果が出なかったら何でも好きな物を買ってやる。ただそれはお前が本気でやった場合だ」と言われ、その時欲しい物があったパーシーは奮起して頑張ったところ勉強も出来るようになったという話が続きます。
いい話と言えばいい話ですが、もう何度か聞いているので、私は適当に聞き流します。
そして聞き流しながら考えます。一応私がピアノの話を振ったのに、それには全く興味を示さずに他人の話を出して、挙句もう何度も話した自分語りを始めるのはいかがなものでしょうか。
せめて社交辞令でも、「うまくなったら一曲弾いてくれ」ぐらい言ってくれてもいいのに。
きっとパーシーにとってピアノは本当に興味のないジャンルなのでしょう。彼が武術と学問を両方頑張ったのは認めますが、そのせいなのか元々の性格のせいなのか、芸事には全く興味を持ってくれません。
それなら確かに私がパーシーの言う通り魔法を頑張れば良いのかもしれませんが、実は私が魔法をあまりやっていないのには理由があります。
16
お気に入りに追加
3,038
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します
ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。
濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……
もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。
婚約は破棄なんですよね?
もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
妹の方がいいと婚約破棄を受けた私は、辺境伯と婚約しました
天宮有
恋愛
婚約者レヴォク様に「お前の妹の方がいい」と言われ、伯爵令嬢の私シーラは婚約破棄を受けてしまう。
事態に備えて様々な魔法を覚えていただけなのに、妹ソフィーは私が危険だとレヴォク様に伝えた。
それを理由に婚約破棄したレヴォク様は、ソフィーを新しい婚約者にする。
そして私は、辺境伯のゼロア様と婚約することになっていた。
私は危険で有名な辺境に行くことで――ゼロア様の力になることができていた。
未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します
もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。
事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。
しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。
だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。
しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。
呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。
婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。
その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。
故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。
ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。
程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。
典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。
ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。
彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる