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「クレアは最近どう?」
「どうって何が?」
「女子同士で話している時にどうって訊いたらそれはもう……決まってるでしょ」
「ああ、そういう……こんなところだとちょっと話せないかな」
「えぇ~!?」

 そんな風に他愛のないことを話すのは私と幼馴染のクレア。
 彼女は私の質問に、恥ずかしそうに頬を赤らめている。

 私たちは現在王宮で行われた大きなパーティーに出席していた。確か今日は王国が建国された日で、毎年この日に盛大なパーティーが行われている。
 基本的にこの国で一番大きなパーティーだから国中の貴族やその一族が集まり、そこかしこでたくさんの人たちが話している。

 私、ローラ・ケレットはしがない子爵家の生まれで今年で十五になる。
 本当はパーティーと言えど外交の場であるから出来る限りたくさんの家に挨拶しなければいけない、のだがうちのようなあまり大きくない貴族であれば挨拶出来る相手もたかが知れている。

 そのため、同じ子爵家であるダグラス子爵家出身のクレアと他愛のない雑談に花を咲かせていた。クレアとは実家の爵位も年も近いため幼いころから仲がよく、遠慮なく話せる数少ない相手であった。
 基本的に貴族の一族同士で話すと、どうしても外交とか駆け引きばかりになってしまうので、そういうのを抜きに話すことが出来る存在というのはとても貴重だ。

 そんなクレアにはジャックという婚約者がいて、彼も私たちと同じ子爵家の跡継ぎである。クレアが彼とうまくやっているのか尋ねたところ、急に顔を赤くしてもじもじし始めたので私は驚いてしまった。
 一体二人の関係はどこまで進んでしまっているんだろう。

「ここで話せないことって……まだ二人とも婚約者だよね?」
「えぇ……でも、この前一緒にお出かけしたとき、何とジャックったらいきなり……」
「いきなり?」

 私はごくりと唾を飲み込む。

「私の手を握ってきたの!」
「……そ、それはすごいね」

 限りなく棒読みでそう答えながら私は内心溜め息をつく。

 そうだ、そう言えばクレアは実家でどういう教育を受けて育ったのか、やたら男女の交際に関して無知なのだ。手を握られただけでそんなに恥ずかしがる必要はないと思うんだけど。そんな調子ではジャックの方もどうしていいか分からず大変だろう、と勝手にジャックの心配までしてしまう。

 私が内心引いているのをばれないといいけど、という心配をしていると、彼女は一人で恥ずかしがっているせいか私の反応がおかしいことには一向に気づく様子がなかった。

 もっとも、そういうピュアなところも私がクレアのことを好きな理由の一つでもあるのだけど。

 そんな時だった。
 突然人垣をかき分けて一際派手な格好をした女が現れる。
 そして私たちを見ると、まるで恰好な獲物を見つけた、とでも言いたげな目つきをして口を開く。

「そこのお二方、ごきげんよう」

 それを見て私は面倒な人物に絡まれたな、と思うのだった。
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