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シーモア商会の陰謀

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「バート様、オルメタ鉱石を手配しておきました」
「おお、こんなにたくさん」

 あれから約一か月後、バートは屋敷に運び込まれる大量の鉱石を見て驚く。元々オルメタ鉱石はそんなにたくさん流通しているものでもなく、運ぶのも楽でもないのにこんなにたくさん用意出来てしまうとは。

「ではこちら私どもで倉庫に運んでおきますね」
「何から何まで助かる」

 そんなバートを横目で見ながらレベッカは商会の者たちに命じて鉱石をオレット家の倉庫に運び込ませる。
 馬車数台分の鉱石を運び込むのは大変だったが、オレット家の広大な倉庫にどうにか収めることが出来た。

 が、レベッカがそんな作業を指揮していると、バートの視線はだんだん作業ではなくレベッカの方へと向いて来る。しかもその視線には好色な光が宿っている。
 レベッカもそれはすぐに察することが出来た。

「もう、バート様ったらまだ日が出ているのに気が早いですね」
「ああ、だがレベッカとしても本来は商会の者に任せればいいのにわざわざ来たというのはそういうことだろう?」

 そう言ってバートは好色な笑みを浮かべる。
 そんなバートを見てレベッカは内心ほくそ笑む。しかしここまで騙されてくれた以上最後ぐらいは恩返ししてもいいだろう。
 また、レベッカはバートのことをただの馬鹿、もしくはカモとしか見ていなかったが、いくら金を持っているとはいえ商人に過ぎない自分が貴族の嫡男と体の関係を持てるのはおそらくこれが人生最後だろう。そう思うと貴重な体験と思えなくはない。

「はい……」

 レベッカはわざと少し恥ずかしがるような仕草をしつつ答える。
 それを見てバートは嬉しそうにするのだった。



 翌朝、レベッカは当たり前のように一泊してからオレット家の屋敷を出た。
 これまでシーモア商会が献金してきたためか、男爵家にしては立派な屋敷が立っている。この屋敷ももう見ることはないだろうと思うと少しだけ感慨深い。

「……ただいま戻りました」

 商館に戻ると、そこには上機嫌な表情の父親が待っていた。

「ご苦労だったレベッカ。それで首尾はどうだ?」
「上々です。今朝もまるで貴族令嬢になったかのように愛していただきました」
「そうか。まさか情が移ったなどということはないだろうな?」

 父が少し不安そうに尋ねるが、レベッカはすぐに首を横に振る。

「もちろんです。いくら顔と家柄が良くても、こんな単純な色仕掛けで騙される男は嫌です」
「ははは、それでこそ我が娘だ」

 そう言って二人は笑い合う。
 広い商館であったが、すでに中の荷物の多くは運び出されていたため中はがらんとしていた。

「しかし助かった、たまたま安いからといってオルメタ鉱石をたくさん仕入れたのだが、まさか相場の数倍の値段で売りさばくことが出来るとは」
「はい、オルメタ鉱石なんていくら待っても相場が下がることはあっても上がることはないというのに」

 そう言って二人は笑う。

「ではそろそろ我らもここを出る準備をしようではないか」
「はい」
「新天地に着いたら今回の儲けできれいな屋敷でも建てようではないか」

 こうして二人は商会の者たちとともに屋敷を出るのだった。実はバートが勝手に騙されただけで二人は詐欺というほどの行為はしていない。投資はどんな説明を受けようと、最終的には行うと判断した者の責任だ。だから実は法的には悪いことはしていないが、バートのような単純な人物であれば法とは関係なく報復してくる可能性がある。

 すでに商館の建物も他の商人に売る算段はついており、新天地への移動には多少お金がかかるが、鉱石の売値と比べると微々たるものだった。
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