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クリフトンの来訪Ⅲ
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「改めて、わざわざ来ていただきありがとうございます」
父上が部屋を出て二人きりになり、私は改めてクリフトンにお礼を言います。
するとクリフトンは先ほどまで父上と話していた時の真面目な表情をやわらげ、少しリラックスした表情に変わりました。
「この前も言ったが、まさか君と無事に再会出来るとは思わなかった。もう何年も経っていたし、再会してもあの時の相手だと分からないこともあるかと思っていたぐらいだ」
「はい、私もそう思っていました。でもクリフトンを見た瞬間、ぴんと来たんです」
改めて彼の顔を見ると当然ながら子供の時とは全然変わっている。
あの時はただの悪ガキという感じだったが、今はすっかり成長して貴族の跡継ぎにふさわしい貫禄があります。
「君も言っては悪いが、あの時は迷子の頼りない子供という感じだったが、随分変わったものだ」
クリフトンの方も私の姿を見て驚いているようです。
あの時の私はよその屋敷で迷子になっていたという状況もあり、相当頼りなく見えたことでしょう。
もっとも今の自分がしっかりしていると言えるのかは自分ではよく分かりませんが。
「しかし話を聞いた限りオレット家というのは酷いところだな」
「え?」
今日は私も父上もクリフトンにオレット家のことを話した訳ではありません。
それなのにクリフトンがオレット家について言及したことに私は驚きます。
「一体どこで聞いたのでしょうか?」
「実は僕が訪問した家でもちょうどオレット家婚約破棄の知らせが届いて、たまたまその話になったんだ」
言われてみれば婚約破棄というのは大事件ですから、その話が周辺に知れ渡るのも当然のことです。
「ちなみに周りにはどんな事件として知れ渡っているのでしょうか?」
「それが、オレット家は外聞が悪いと思ったのか、婚約破棄のことを公表していないんだ。だからあくまで噂としてだけ広まっているという感じだな。まあ、僕は何か知らないか訊かれたから来る途中にリッタから聞いたことはそのまま話したけど」
「ということは……」
「ああ、オレット家が何も発表しないものだから多分リッタの話がそのまま広まっているんじゃないかな」
要するに、真相が広まっていったということになります。
普通なら私の一方的な主張なのでそれが全て信じられるとは限らないですが、オレット家の方が沈黙を貫いているということはこの件について後ろ暗いところがあるということを自白していることになります。
そのため、話を聞いた人々は私が言ったことを信じるのではないでしょうか。
「でも一体バートは何でそんなことを? 私としては嫌ですが、私との婚約は維持したまま商会の娘を愛人にすれば良かったのでは?」
「それはよく分からないが……バートがよほど軽率だったか、もしくは商会が欲をかいて娘をバートに嫁がせようとしたのではないか」
「そんな」
いくら下級貴族とはいえ、跡取りの相手に商人の娘を迎えるという話は聞いたことがありません。
「しかしもし本人が軽率なだけだったらオレット家からすぐに謝罪なりなんなりが来るだろう。それがないということは、家の方も商人の娘をとったということではないか?」
「そんな……」
言われてみれば確かにそうなります。
いくら家が貧乏とはいえ、商人の娘に婚約者をとられたと思うとさすがにショックです。
そんな私の表情を見て、クリフトンは優しく声をかけてくれます。
「まあ逆に言えばそんな男と結婚しなくて済んだということだ。それに、アストリー男爵はなかなかおもしろい方だから僕もまた会いに来たいと思っている。だから元気を出して欲しい」
「はい、ありがとうございます」
言われてみれば、あのままバートと結婚していたらと思うとそちらの方がよほど恐ろしいことです。
私はクリフトンの励ましに再び元気を取り戻すのでした。
父上が部屋を出て二人きりになり、私は改めてクリフトンにお礼を言います。
するとクリフトンは先ほどまで父上と話していた時の真面目な表情をやわらげ、少しリラックスした表情に変わりました。
「この前も言ったが、まさか君と無事に再会出来るとは思わなかった。もう何年も経っていたし、再会してもあの時の相手だと分からないこともあるかと思っていたぐらいだ」
「はい、私もそう思っていました。でもクリフトンを見た瞬間、ぴんと来たんです」
改めて彼の顔を見ると当然ながら子供の時とは全然変わっている。
あの時はただの悪ガキという感じだったが、今はすっかり成長して貴族の跡継ぎにふさわしい貫禄があります。
「君も言っては悪いが、あの時は迷子の頼りない子供という感じだったが、随分変わったものだ」
クリフトンの方も私の姿を見て驚いているようです。
あの時の私はよその屋敷で迷子になっていたという状況もあり、相当頼りなく見えたことでしょう。
もっとも今の自分がしっかりしていると言えるのかは自分ではよく分かりませんが。
「しかし話を聞いた限りオレット家というのは酷いところだな」
「え?」
今日は私も父上もクリフトンにオレット家のことを話した訳ではありません。
それなのにクリフトンがオレット家について言及したことに私は驚きます。
「一体どこで聞いたのでしょうか?」
「実は僕が訪問した家でもちょうどオレット家婚約破棄の知らせが届いて、たまたまその話になったんだ」
言われてみれば婚約破棄というのは大事件ですから、その話が周辺に知れ渡るのも当然のことです。
「ちなみに周りにはどんな事件として知れ渡っているのでしょうか?」
「それが、オレット家は外聞が悪いと思ったのか、婚約破棄のことを公表していないんだ。だからあくまで噂としてだけ広まっているという感じだな。まあ、僕は何か知らないか訊かれたから来る途中にリッタから聞いたことはそのまま話したけど」
「ということは……」
「ああ、オレット家が何も発表しないものだから多分リッタの話がそのまま広まっているんじゃないかな」
要するに、真相が広まっていったということになります。
普通なら私の一方的な主張なのでそれが全て信じられるとは限らないですが、オレット家の方が沈黙を貫いているということはこの件について後ろ暗いところがあるということを自白していることになります。
そのため、話を聞いた人々は私が言ったことを信じるのではないでしょうか。
「でも一体バートは何でそんなことを? 私としては嫌ですが、私との婚約は維持したまま商会の娘を愛人にすれば良かったのでは?」
「それはよく分からないが……バートがよほど軽率だったか、もしくは商会が欲をかいて娘をバートに嫁がせようとしたのではないか」
「そんな」
いくら下級貴族とはいえ、跡取りの相手に商人の娘を迎えるという話は聞いたことがありません。
「しかしもし本人が軽率なだけだったらオレット家からすぐに謝罪なりなんなりが来るだろう。それがないということは、家の方も商人の娘をとったということではないか?」
「そんな……」
言われてみれば確かにそうなります。
いくら家が貧乏とはいえ、商人の娘に婚約者をとられたと思うとさすがにショックです。
そんな私の表情を見て、クリフトンは優しく声をかけてくれます。
「まあ逆に言えばそんな男と結婚しなくて済んだということだ。それに、アストリー男爵はなかなかおもしろい方だから僕もまた会いに来たいと思っている。だから元気を出して欲しい」
「はい、ありがとうございます」
言われてみれば、あのままバートと結婚していたらと思うとそちらの方がよほど恐ろしいことです。
私はクリフトンの励ましに再び元気を取り戻すのでした。
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