上 下
10 / 19

クリフトンの来訪Ⅰ

しおりを挟む
「リッタ、これはどういうことだ!?」
「何でしょうか、父上?」

 クリフトンと再会した数日後、父上が興奮した様子で話しかけてきたので私は驚きました。
 普段父上はこんな興奮した様子で私に話しかけてくることはあまりないのですが、怒っているという感じではなさそうだ。よく見るとそんな父上の手には手紙のようなものが握りしめられています。

「それは何の手紙でしょうか?」
「実はセネット家のご令息から今朝うちに届いていたんだ。宛名はうちになっていたから開いてみたんだが、我が家に訪問したいとのことだ」

 なるほど。
 クリフトンは元々の用事が終わったので正式にうちの屋敷に訪問してくださるようです。考えてみればそれは当然のことで、もう私たちは幼児ではないのですから二人で勝手に会うということは出来ません。

 用事があってその帰り道にある貴族の屋敷を親交のために訪問するというのであれば普通のことです。
 とはいえ、実際にクリフトンが私に会うためにそうしてくれると思うと嬉しいものです。

「何か知っているか?」
「実は……」

 私は数日前、クリフトンと偶然の再会を果たしたことを話します。
 それを聞いた父上は目を丸くしました。

「なるほど、そんな物語みたいなことが実際に起こるとはな。しかしセネット伯爵家のご令息がいらっしゃるのであれば粗略には出来ない。準備をしなければ」
「すみません、忙しいのにさらに大事になってしまって」

 元々私が婚約破棄されてその調査やら対処やらで忙しいと思われるのに、さらに仕事を増やしてしまい申し訳なくなってしまいます。
 ですが、父上は大まじめに首を横に振りました。

「何を言う。うまくいけばセネット伯爵家との縁が出来るかもしれないんだ。この機会は最大限に生かさなければ」
「それなら私も手伝います!」

 私が言うと、父上は少し驚きます。

「リッタ……もう大丈夫なのか?」
「はい、それにクリフトンが来てくれるのは私も嬉しいので」
「そうか、それなら人手はいくらあっても足りないから手伝ってもらおうか」
「はい!」

 こうして私たちは急遽もてなしの準備をすることになりました。
 別に大きなパーティーを開く訳でもないからいつも通りでいいのに、と思う方もいるでしょうが、うちのような貧乏貴族の屋敷は全体的に物が古くなっていたり、多少汚れたものもそのまま使い続けたりしまっているものです。

 大体うちに来るのは同じぐらいの貴族ばかりですし、普段はパーティーのような華やかなイベントもうちで開かれることはあまりありません。必然的にあまり外観には気を遣わない屋敷になっていったのでした。 

 そのため、これを機に古い敷物や食器などを買い替えたり、普段しないような大掛かりな掃除をしたりしようということになります。
 クリフトンが来てくれる、というのもありますが、屋敷の掃除や古くなった物の買い替えなどをしていると、婚約破棄のショックも気が紛れていくように感じられるのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私はあまり大切にされず育ってきたのですが……?

四季
恋愛
この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私、これまであまり大切にされず育ってきたのですが……?

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

(完結)婚約破棄して気づいた気持ちを受け取ってという貴方・・・

青空一夏
恋愛
王妃様はとても贅沢好きで散財し放題の方だった。加えて、王様の浪費癖も酷かった。そのため、王家は借金まみれになった。一方、私のお父様は時代の波に乗り巨額の富を築き上げた子爵だった。私の持参金と実家の援助を当てにして王家は元から婚約者がいた王子と私との婚約を強引に推し進めた。 私は、地味な容姿の目立たない子爵令嬢。イケメン王子は、元婚約者を愛しつづけて、未練たらたら。私はと言えば、途中まで我慢していたけれど・・・キレて婚約破棄宣言をした・・・王子様。今更、後悔しても・・・遅いです。私は、ほんとうに愛してくれる男性を見つけられるのでしょうか?・・・秘密が盛り込まれたお話です。・・・魔法がある異世界で、設定はふんわり、かなりゆるめです。よくあるタイプのお話で、前作「ほかの令嬢を愛し続ける旦那様」の最初の設定の結末を書きたくなって投稿しました。なので、設定が少し似ています。もちろん、枝葉は変えています。読んでいただけると、嬉しいです。

お願いだから独り言は一人の時に言ってくれ

mios
恋愛
さっきからずっと私への愛を垂れ流している婚約者。 恥ずかしくて、顔から火が出そう。 独り言を聞いていたのは自分だけと思いきや、実は有名な話だったらしく…。

まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
チャールストン伯爵家はエンバー伯爵家との家業の繋がりから、お互いの子供を結婚させる約束をしていた。 エンバー家の長男ロバートは、許嫁であるチャールストン家の長女オリビアのことがとにかく気に入らなかった。 なので、卒業パーティーの夜、他の女性と一緒にいるところを見せつけ、派手に恥を掻かせて婚約破棄しようと画策したが……!? 色々こじらせた男の結末。 数話で終わる予定です。 ※タイトル変更しました。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

処理中です...