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Ⅲ
VSレティシア Ⅰ
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「何か寮が騒がしいな」
自室にいた私はばたばたという音や、人が走る音が聞こえてくるな、と思い気になっていた。もしや例の事件関連で何かあったのだろうか。だったら見にいった方がいいだろうか、と思うと足音が自室に近づいて来るのを感じる。かと思うとすぐに自室がノックされた。
「誰?」
「僕だ。やはりリンダはそうだった」
「嘘!?」
緊迫したアルフの声を聞いて私は一気に血の気が引いていくのを感じる。
シルヴィアの時とは違う。自分のために他人を蹴落とすことをいとわないシルヴィアと違ってリンダはどこにでもいる普通の少女だった。そのリンダがレティシアと関わって悪いことに手を染めてしまうなんて。
私は慌ててドアを開けてアルフを迎え入れる。
「何があったの!?」
「急いでるから手短に言う。リンダの部屋に行って疑惑を確かめようとしたら、レティシアに彼女の魔力を吸われてしまった」
アルフの言葉を聞いた瞬間、体中に黒い斑点が出来て魔力を奪われて倒れていたシルヴィアの姿を思い出す。
彼女も同じ目に遭ったというのか。
「嘘……」
「どうもレティシアは使い魔で彼女のことを監視していたらしい」
そう言ってアルフは一羽の使い魔の鳥を私に見せる。すでにお腹に穴が空いて動かなくなっている。それを見て私はアルフが私のところにやってきた意図を察した。
「これでレティシアの行方を探ってくれ」
「分かった。でもそういう魔法はあんまり使ったことがないからうまくいかなかったらごめん」
「いや、こういうのは本来は騎士団に持っていくことだから」
ということはアルフは本来すべきだったことを曲げて私にこの使い魔を見せにきてくれたのか。私を頼りに思ってくれたこと、そして私もこの事件の解決まで関わりたいと言う気持ちを汲んでくれたことに嬉しくなる。
「マジック・アナライズ……えっ」
私は使い魔に解析の魔法をかけようとするが、ばちっ、という感覚とともに私の魔法は弾かれる。
使い魔は術者と繋がることで喋ったり、視覚を共有したりすることが出来るのだが、そのため使い魔から魔力を辿って術者を逆探知することも出来る。だからレティシアは事前に使い魔に魔法避けを施したのだろう。さすがにそういうところはしっかり警戒しているらしい。
とはいえそれなら後は力勝負だ。
「ディスペル」
私はまず使い魔にかかっている魔法避けを解除する。レティシアの魔力は強力だったが、どうにか解くことは出来た。おそらく他にもいくつもの魔法を同時に使っているから威力が落ちたのだろう。
「今度こそ……マジック・アナライズ」
私が魔法をかけると使い魔が淡く光り、魔力が可視化される。
そして使い魔から一本の薄い線が遠くに伸びているのが見える。その瞬間、使い魔はふっと消滅した。おそらくレティシアが逆探知を恐れて消したのだろう。しかし消すためにもレティシアから使い魔に魔力を届かなければならない。そのため、その魔力の残滓が残っている。
「急ごう、今なら見つけられるかもしれない」
「分かった」
私の言葉にアルフは頷く。
私は慌てて貴重品だけ掴んで部屋を出ると、魔力の残滓を辿って走っていく。すると魔力の残滓は学園寮から王都の郊外にあるスラム街に向かって伸びていた。
スラム街は職を求めて王都にやってきた貧しい労働者たちのうち、いい職を見つけられなかった者たちが王都傍の廃屋などに棲みついて出来た町である。当然治安は悪いため、しばしば犯罪者が逃げ込むと言われている。
私とアルフが街の中へ駆け込むと、人々はこそこそと道を空けていく。皆大なり小なり後ろめたいことがあるから近衛騎士とは関わりたくないのかもしれない。そして魔力の残滓を追っていくと、一軒の廃屋に辿り着く。
「近衛騎士だ! 調査に来た!」
アルフが叫びながらドアを蹴破るが、家の中には誰もいない。
逃げられたか、と思ったが魔力の残滓はかすかに床下から続いている。
「アルフ、多分地下がある」
「分かった」
アルフは私の言葉を聞いてすぐに床を見たが、ぼろ屋だったためすぐに地下へと続く扉を見つける。そして一瞬で鍵を叩き壊すと、扉を開けた。
中にははしごが伸びているが、魔法の灯りで照らされており石造りの地下室があるのが見える。アルフがはしごを機敏な動きで降りていき、下で左右を確認する。
「大丈夫だ」
それを聞いて私も後に続く。地下はひんやりとして肌寒く、歩くとこつこつという足音が周囲に響き渡る。
歩いていくといくつかの扉があるが、一つの扉から特に大きな魔力を感じる。私はその扉を無言で指さす。アルフは剣を抜くと扉に手を掛ける。鍵はかかっていなかったためか、扉はあっさりと開いた。
アルフは剣を構えて中に足を踏み入れる。
「レティシア、覚悟!」
中は思ったより狭く、学園でいう魔術実験室のような部屋になっており、中央には実験台があり、そこに様々な器具が並んでいる。壁には本棚や器材棚が並んでおり、怪しげな物体が所狭しと並んでいる。
その真ん中にレティシアが佇んでおり、私たちを見ると少し面倒くさそうな表情を見せた。
「あーあ、思ったより早かったわね」
自室にいた私はばたばたという音や、人が走る音が聞こえてくるな、と思い気になっていた。もしや例の事件関連で何かあったのだろうか。だったら見にいった方がいいだろうか、と思うと足音が自室に近づいて来るのを感じる。かと思うとすぐに自室がノックされた。
「誰?」
「僕だ。やはりリンダはそうだった」
「嘘!?」
緊迫したアルフの声を聞いて私は一気に血の気が引いていくのを感じる。
シルヴィアの時とは違う。自分のために他人を蹴落とすことをいとわないシルヴィアと違ってリンダはどこにでもいる普通の少女だった。そのリンダがレティシアと関わって悪いことに手を染めてしまうなんて。
私は慌ててドアを開けてアルフを迎え入れる。
「何があったの!?」
「急いでるから手短に言う。リンダの部屋に行って疑惑を確かめようとしたら、レティシアに彼女の魔力を吸われてしまった」
アルフの言葉を聞いた瞬間、体中に黒い斑点が出来て魔力を奪われて倒れていたシルヴィアの姿を思い出す。
彼女も同じ目に遭ったというのか。
「嘘……」
「どうもレティシアは使い魔で彼女のことを監視していたらしい」
そう言ってアルフは一羽の使い魔の鳥を私に見せる。すでにお腹に穴が空いて動かなくなっている。それを見て私はアルフが私のところにやってきた意図を察した。
「これでレティシアの行方を探ってくれ」
「分かった。でもそういう魔法はあんまり使ったことがないからうまくいかなかったらごめん」
「いや、こういうのは本来は騎士団に持っていくことだから」
ということはアルフは本来すべきだったことを曲げて私にこの使い魔を見せにきてくれたのか。私を頼りに思ってくれたこと、そして私もこの事件の解決まで関わりたいと言う気持ちを汲んでくれたことに嬉しくなる。
「マジック・アナライズ……えっ」
私は使い魔に解析の魔法をかけようとするが、ばちっ、という感覚とともに私の魔法は弾かれる。
使い魔は術者と繋がることで喋ったり、視覚を共有したりすることが出来るのだが、そのため使い魔から魔力を辿って術者を逆探知することも出来る。だからレティシアは事前に使い魔に魔法避けを施したのだろう。さすがにそういうところはしっかり警戒しているらしい。
とはいえそれなら後は力勝負だ。
「ディスペル」
私はまず使い魔にかかっている魔法避けを解除する。レティシアの魔力は強力だったが、どうにか解くことは出来た。おそらく他にもいくつもの魔法を同時に使っているから威力が落ちたのだろう。
「今度こそ……マジック・アナライズ」
私が魔法をかけると使い魔が淡く光り、魔力が可視化される。
そして使い魔から一本の薄い線が遠くに伸びているのが見える。その瞬間、使い魔はふっと消滅した。おそらくレティシアが逆探知を恐れて消したのだろう。しかし消すためにもレティシアから使い魔に魔力を届かなければならない。そのため、その魔力の残滓が残っている。
「急ごう、今なら見つけられるかもしれない」
「分かった」
私の言葉にアルフは頷く。
私は慌てて貴重品だけ掴んで部屋を出ると、魔力の残滓を辿って走っていく。すると魔力の残滓は学園寮から王都の郊外にあるスラム街に向かって伸びていた。
スラム街は職を求めて王都にやってきた貧しい労働者たちのうち、いい職を見つけられなかった者たちが王都傍の廃屋などに棲みついて出来た町である。当然治安は悪いため、しばしば犯罪者が逃げ込むと言われている。
私とアルフが街の中へ駆け込むと、人々はこそこそと道を空けていく。皆大なり小なり後ろめたいことがあるから近衛騎士とは関わりたくないのかもしれない。そして魔力の残滓を追っていくと、一軒の廃屋に辿り着く。
「近衛騎士だ! 調査に来た!」
アルフが叫びながらドアを蹴破るが、家の中には誰もいない。
逃げられたか、と思ったが魔力の残滓はかすかに床下から続いている。
「アルフ、多分地下がある」
「分かった」
アルフは私の言葉を聞いてすぐに床を見たが、ぼろ屋だったためすぐに地下へと続く扉を見つける。そして一瞬で鍵を叩き壊すと、扉を開けた。
中にははしごが伸びているが、魔法の灯りで照らされており石造りの地下室があるのが見える。アルフがはしごを機敏な動きで降りていき、下で左右を確認する。
「大丈夫だ」
それを聞いて私も後に続く。地下はひんやりとして肌寒く、歩くとこつこつという足音が周囲に響き渡る。
歩いていくといくつかの扉があるが、一つの扉から特に大きな魔力を感じる。私はその扉を無言で指さす。アルフは剣を抜くと扉に手を掛ける。鍵はかかっていなかったためか、扉はあっさりと開いた。
アルフは剣を構えて中に足を踏み入れる。
「レティシア、覚悟!」
中は思ったより狭く、学園でいう魔術実験室のような部屋になっており、中央には実験台があり、そこに様々な器具が並んでいる。壁には本棚や器材棚が並んでおり、怪しげな物体が所狭しと並んでいる。
その真ん中にレティシアが佇んでおり、私たちを見ると少し面倒くさそうな表情を見せた。
「あーあ、思ったより早かったわね」
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