上 下
20 / 41

決闘(オルク視点)

しおりを挟む
 俺の名はオルク。名門ルベレスト公爵家の長男として生まれた。そのため生まれた時から周囲から期待され、後継者として振る舞うよう無意識に強要されてきた。
 俺にとって一番得意なのは剣術だったから、必死で剣の練習をした。今は平和な時代だが、一昔前は貴族も軍勢を率いて戦争をしていたから、剣の腕が立つというのは分かりやすい自慢ポイントになるからだ。
 そのおかげで俺は周囲から「ルベレスト家の後継者は剣術の才能がある」「これで次代も安泰だ」などと言われてきた。

 そしてそんな俺がデルフィーラ学園に入学したのが去年のこと。入学試験では見事トップの成績をとり、男子首席として入学した。
 俺は学園にいる間ぐらいは家のしがらみから自由になれるかと思って期待しながら入学したが、入ってみると全くそんなことはなかった。

 親たちにとって俺の学園生活は将来の結婚相手探しの時間でしかなかったらしい。気が付くと、女子首席のレミリアという女と婚約させられていた。どうせ彼女の魔力が高いから、俺との間に魔力が高い子供が生まれることを期待したのだろう。

 だが、正直言って俺はレミリアが嫌いだった。ルベレスト家跡継ぎの俺を見ても他の女子と違って特に何の反応もしないし、常に他人に対して「私はあなた方のような友達ごっこはしません」みたいな冷たいオーラを出している。
 要するに可愛くない。案の定、俺との婚約が決まるといじめを受けていた。まあそうだろうな、と俺は冷たい目で眺めていた。

 それはさておき、俺が好きだったのはシルヴィアという女だった。家柄もクラスメイトの中では一番良かったし、何より可愛い。俺が挨拶をするととても嬉しそうに、かつ丁寧に返してくれる。それが俺にとっては嬉しかった。まあ、俺以外にもそういう態度なのは薄々分かってはいたが。
 とはいえ婚約者を決められてしまった以上どうにもならない。俺は一人で悔しがっていた。

 そんな事態を変えてくれたと思ったのが昨年度末の試験だ。レミリアが突如魔力を失ったのを見て俺はここぞとばかりに婚約を破棄してシルヴィアに告白した。そしてそれをシルヴィアも受けてくれた。そこでようやく俺の願いがかなった、とうれしくなった。正直シルヴィアの魔力が高いことは俺にとってはそこまで重要ではなかった。まあその方が実家に報告するときに都合はいいが。

 が、すぐに事態は急変した。何とシルヴィアとレミリアの魔力は元に戻ったのだ。考えてみれば急に魔力が入れ替わるなどおかしいことだったのだが、俺はレミリアと婚約破棄出来ることが嬉しくて全くそこまで考えていなかった。

 俺は慌てた。

 このままでは俺は父上に怒られてしまう。ここまで重大なことを自分の一存でやって、しかも勘違いでしたでは後継者を降ろされても文句は言えない。

 その後俺はすぐにシルヴィアと婚約破棄した。よくも騙したな、と怒鳴りつけてやろうかとも思ったが、彼女の方が魔力を失ったことに意気消沈していてその気も失せてしまった。
 そして急いでレミリアに復縁を持ちかけたが、冷たく断られてしまった。本当にあいつは可愛くない。泣き落としも買収も効かないなんてどうすればいいんだ。

 そしてそんな時だった、アルフという男が割り込んできたのは。
 こいつは試験の騒動の時以来レミリアにつきまとっている男で、それまでは特に気にしていなかったが、急に苛々してきた。今まで目立たなかったくせに急にレミリアの彼氏面をしやがって。きっとこいつがいるせいでレミリアは俺の誘いを断るに違いない。こいつさえいなければ。
 ならば俺はこいつとの格の差を見せつけてやるしかない。そう考えて俺は決闘を申し込んだ。するとなぜかそいつは二つ返事で決闘を受けた。その男気は認めてやるが、俺の実力を知らないのだろうか。




 という経緯があって俺は決闘の日を迎えた。
 週末の昼頃、俺たちは校庭で向かい合う。すぐ近くには立会の教師がおり、その後ろで俺たちの姿を見守るレミリアと、そしてたくさんの見物人たち。決闘が行われるのは珍しいらしく、わざわざ休みの日に集まっているらしい。
 これだけたくさんのギャラリーの前で勝てばやはり俺が婚約者にふさわしいということが証明されるだろう。それとこれとは違う、と言われるかもしれないが決闘というのはそういうものだ。

「とりあえず逃げずに来たことを褒めてやろう」

 俺は目の前に立つ男に声をかける。なぜかこいつは学年最強の俺と戦うというのに不自然なほど落ち着いてみえた。結果が分かっているからせめていいところを見せようということだろうか。

「決闘から逃げる訳ないだろう。そっちこそ、負けた時は素直に身を引く覚悟は出来たか?」
「それはこっちの台詞だ」

 向こうがそのことを自覚しているなら話は早い。
 俺が勝った後に「負けたからといって身を引くとは言ってない」などとごねられても面倒だ。

「では両者武器を構えて」

 教師の言葉に合わせ、俺たちは用意された木刀を構える。木刀とはいえ、本気で戦えばかなり痛いし怪我をする可能性も高い。
 お互いが構えをとり、そこで初めて俺は違和感を覚えた。アルフの構えはごく普通なのに、なぜかどこにも隙が見当たらないのだ。どう打ちこんでもはじき返されそうな気がする。確かこいつの剣術の成績はそこそこだったはず。それなのになぜここまで勝てる気がしないのだろうか。

 じっとりと全身に汗がにじむ。何だこの感覚は。
 今まで授業で何回も他の生徒と戦ってきたが、こんな感覚に囚われたことはない。そう言えば、学園に来る前強い武将に稽古をつけてもらったことがあったが、その時に感じたのと似た感覚だ。
 それを思い出して俺は改めて身を震わせる。
 これまでクラスで目立たなかったこいつがそんなに強いと言うのか?
 いや、そんな訳がない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 プレッシャーに堪えられなくなった俺は木刀を構えて突撃する。するとアルフはすっと木刀を動かして俺の攻撃を受け流す。見た目によらず彼の腕力は強く、俺の攻撃は受け流されてしまう。

「なぜだ……うおおっ!」

 再度の攻撃を繰り出すが再びアルフに受けられる。観客は手に汗握って攻防を見つめているが俺には分かってしまった。
 これは俺が攻めているのではない。
 ただこいつに弄ばれているのだ、と。

「なぜだ、なぜだ、なぜだ……!?」

 俺は狂ったように連撃を繰り出すがそのすべてをアルフが的確にいなしていく。

「うおおおおおおおっ!」

 そしてその中でも特に気合を入れて木刀を振り降ろした時だった。コツン、と音がして俺の木刀はアルフの木刀にぶつかり、次の瞬間には木刀は俺の手を離れて飛んでいってしまう。

「何だと?」

 そしてその隙をアルフは見逃さなかった。
 すぐに俺の喉元へ木刀を突き付ける。そして言った。

「これでチェックメイトだ」

 俺はその言葉になすすべもなく頷くしかなかった。
 こうして学年一位の俺はあっさり負けてしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

処理中です...