上 下
17 / 41

アルフの怒り

しおりを挟む
「本当に大丈夫なの!? あれでもオルクは相当強いけど!」

 オルクが去っていくと、心配のあまり私はアルフに尋ねてしまう。オルクは性格こそあれだが入学試験の時は剣術の実技で一位の成績を残している。彼が性格の割にモテるのは家柄だけでなくそういう理由もある。授業でも癪ではあるがいつも見事な剣技を披露していた。
 が、それを聞いてもアルフは慌てなかった。

「大丈夫だ。考えてみてくれ、僕はプロの近衛騎士だ。あんな奴に負けると思うか?」
「確かに……でも剣術の成績がいいって聞いたことないけど」
「そりゃそうだ。そもそも僕は君たちよりいくつか年上だしきちんとした訓練も受けている。そんな僕が本気を出すのはずるいし、そもそも学生じゃないことがばれてしまう」
「なるほど」

 言われてみればその通りだった。近衛騎士は王族や王宮を守護する最後の砦にして最強の盾である。そのため、兵士の中でも特に身体能力に優れた者が選抜されて厳しい訓練を受ける……という話を聞いたことがある。それに比べればオルクとの決闘など子供の遊びのようなものかもしれない。

「でもいいの? そこで本気を出してしまえば正体がばれたりしない?」
「大丈夫だ」

 すると私の問いに彼は急に声をひそめる。そこで私は慌てて学園内で「正体」とか口にしてしまったことを後悔する。

「彼との実力差であればまぐれ勝ちに見せかけた方法で勝つことも出来る。もっとも、決闘で手抜きをしながら戦うのは相手がオルクといえども僕の良心は痛むが。とはいえ、それよりも僕はあいつがレミリアの腕を掴んだことが許せなかったんだ」
「え?」

 急にアルフの表情が怒りに変わる。急な話題の転換に私は思わず首をかしげてしまう。

「言葉でのやりとりなら口を挟むつもりはなかった。そういうのはレミリアの口からはっきり言うのが筋だろうからね。でもあんな奴がレミリアの腕を掴んだとき、つい怒りが抑えきれなくなってしまった」
「ありがとう」

 それを聞いて私は心からアルフに感謝する。今まで私に対してそこまでの態度をとってくれる人なんていなかった。家族はよくも悪くも放任主義であったし。
 もしもあそこでアルフが間に入ってくれなければ無理矢理連れていかれるか、腹いせに暴力を振るわれていたかもしれない。



 そんなことを話しているとクラスの男子たちが私たちの元へ集まってくる。私は女子には嫌われていたが、男子にはそこまででもなかった。もっとも、男子としゃべることもほぼなかったが。

「なあ、オルクとの決闘って本当か?」
「あいつ強いけど大丈夫なのか?」
「でも今のは胸糞悪かったから正直見てて気持ち良かった」

 そう言って男子はアルフに好意的なことを言う。オルクは男子の中では評判が悪かったようだ。男子は女子と違ってオルクと授業や寮で絡むことも多いため、彼の性格の悪さが目に付くのかもしれない。そしてその割にモテているから評価も悪いのだろう。
 今までここまでクラスメイトの注目を浴びることがなかったオルクは急にスポットライトを浴びて戸惑ってしまう。

「そ、そうだろうか? でも僕はレミリアのために精一杯戦おうと思う」
「おお~!」

 アルフの言葉に男子たちは歓声を上げる。アルフとしては「手加減しても勝てる」とは言えない以上こういう言い方をしたのだろうが、結果としてとても男気のある言葉になった。

「頑張ってくれ」
「是非あいつに一泡吹かせてやってくれ」

 こうしてしばらくの間オルクは男子たちの声援を受けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

追放された宮廷錬金術師、彼女が抜けた穴は誰にも埋められない~今更戻ってくれと言われても、隣国の王子様と婚約決まってたのでもう遅い~

まいめろ
ファンタジー
錬金術師のウィンリー・トレートは宮廷錬金術師として仕えていたが、王子の婚約者が錬金術師として大成したので、必要ないとして解雇されてしまった。孤児出身であるウィンリーとしては悲しい結末である。 しかし、隣国の王太子殿下によりウィンリーは救済されることになる。以前からウィンリーの実力を知っていた 王太子殿下の計らいで隣国へと招かれ、彼女はその能力を存分に振るうのだった。 そして、その成果はやがて王太子殿下との婚約話にまで発展することに。 さて、ウィンリーを解雇した王国はどうなったかというと……彼女の抜けた穴はとても補填出来ていなかった。 だからといって、戻って来てくれと言われてももう遅い……覆水盆にかえらず。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

処理中です...