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Ⅰ
シルヴィアの罠
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昨日のことである。
「あの、レミリアさん」
「え? 私?」
私が寮に帰ろうとしていると、唐突にシルヴィアが話しかけてきた。下級貴族のくせにオルクと婚約したことで学園中のやっかみを受ける私と、大きな権力を持ち優れた魔術師を輩出してきたエブルー侯爵家の長女で、可愛らしい表情や仕草が男に人気のシルヴィア。
好対照の私たちだったが、時折シルヴィアが「レミリアは実家の使用人と出来ている」「オルクを色仕掛けでたぶらかした」などの噂を流したり、密かに持ち物を隠したりしていたのを知っていた。それでも今まで直接話すことはほとんどなかったので、シルヴィアが正面から話しかけてきたのに少し驚いてしまった。
いつもはにこにこと愛想笑いを浮かべて男子たちに囲まれている彼女だったが、今は殊勝な表情を作って少し遠慮がちに話しかけてくる。
「実は私、この一年間レミリアさんの成績に嫉妬していました。そして裏で聞いた色々な噂を真に受けて広めてしまったりしていたんです。でも最近気づいたんです。他人を嫉むばかりでは成長出来ないし、これでは自分の器も小さいままだ、と。そこでこのままではよくないと思って、謝りにきました。本当にごめんなさい」
そう言って彼女はいきなり頭を下げる。いきなり予想外の行動に出られた私は少し困惑したが、彼女の迫真の演技に飲まれてしまった。
「そ、そう。これからはしないでくれると嬉しいけど」
「はい、今では今までしていたことはとても恥ずかしい行いだったと自覚しています。同時にレミリアさんにもかなり不快な思いをさせてきてしまいました。そこでこれで償いきれるとは思っていませんが、お詫びの品を持ってきました」
そう言って彼女はクッキーの入った包みを取り出す。レース柄の袋に入れられたクッキーは可愛いピンクのリボンでラッピングされていて、女の子らしい可愛い外見になっている。
「レミリアさんに謝るために、不慣れですが頑張って作りました。受け取ってください」
「あ、ありがとう」
よく見ると袋を差し出す彼女の指には包帯が巻かれている。不慣れな料理で切ってしまったのだろうか、とその時の私は思ったがあれも結局演出だったのかもしれない。
「で、では」
クッキーを渡すとそう言ってシルヴィアは去っていく。結局、私は許すとも許さないとも答えることが出来なかった。
こうして昨日の夜、私はレミリアからもらったクッキーを食べた訳だが、今日の反応を見る限り昨日のあれは全て演技だったという訳だろう。魔力の変化についてもおそらくクッキーが原因だと思うが証拠はない。普通、何かを食べさせるだけで相手の魔力を奪うなんていうことは出来ない。味は普通においしかったので全部食べてしまったのが良くなかった。
手作りというのも心を込めたのではなく、毒だか呪いだかをこめるのに他人の手を借りることが出来なかったというだけのことだろう。
魔力をほとんど失い、その原因がおそらくそれだと気づいた私は愕然とした。人というのは自分の利益のためならそこまで卑怯なことが平然と出来ると言うのか。
「せっかく生まれてからずっと頑張って来たのに……」
貴族としての教育を受けることをほとんど放り出して私は魔法の訓練ばかりを積んできた。だから私は人脈もないし、魔法以外の知識もない。
その結果として同世代ではぶっちぎりの力を手に入れたというのに。それをあんな奴に、しかもこんな手段でとられるなんて、と思うと目の前が真っ暗になっていくようだった。
「あの、レミリアさん」
「え? 私?」
私が寮に帰ろうとしていると、唐突にシルヴィアが話しかけてきた。下級貴族のくせにオルクと婚約したことで学園中のやっかみを受ける私と、大きな権力を持ち優れた魔術師を輩出してきたエブルー侯爵家の長女で、可愛らしい表情や仕草が男に人気のシルヴィア。
好対照の私たちだったが、時折シルヴィアが「レミリアは実家の使用人と出来ている」「オルクを色仕掛けでたぶらかした」などの噂を流したり、密かに持ち物を隠したりしていたのを知っていた。それでも今まで直接話すことはほとんどなかったので、シルヴィアが正面から話しかけてきたのに少し驚いてしまった。
いつもはにこにこと愛想笑いを浮かべて男子たちに囲まれている彼女だったが、今は殊勝な表情を作って少し遠慮がちに話しかけてくる。
「実は私、この一年間レミリアさんの成績に嫉妬していました。そして裏で聞いた色々な噂を真に受けて広めてしまったりしていたんです。でも最近気づいたんです。他人を嫉むばかりでは成長出来ないし、これでは自分の器も小さいままだ、と。そこでこのままではよくないと思って、謝りにきました。本当にごめんなさい」
そう言って彼女はいきなり頭を下げる。いきなり予想外の行動に出られた私は少し困惑したが、彼女の迫真の演技に飲まれてしまった。
「そ、そう。これからはしないでくれると嬉しいけど」
「はい、今では今までしていたことはとても恥ずかしい行いだったと自覚しています。同時にレミリアさんにもかなり不快な思いをさせてきてしまいました。そこでこれで償いきれるとは思っていませんが、お詫びの品を持ってきました」
そう言って彼女はクッキーの入った包みを取り出す。レース柄の袋に入れられたクッキーは可愛いピンクのリボンでラッピングされていて、女の子らしい可愛い外見になっている。
「レミリアさんに謝るために、不慣れですが頑張って作りました。受け取ってください」
「あ、ありがとう」
よく見ると袋を差し出す彼女の指には包帯が巻かれている。不慣れな料理で切ってしまったのだろうか、とその時の私は思ったがあれも結局演出だったのかもしれない。
「で、では」
クッキーを渡すとそう言ってシルヴィアは去っていく。結局、私は許すとも許さないとも答えることが出来なかった。
こうして昨日の夜、私はレミリアからもらったクッキーを食べた訳だが、今日の反応を見る限り昨日のあれは全て演技だったという訳だろう。魔力の変化についてもおそらくクッキーが原因だと思うが証拠はない。普通、何かを食べさせるだけで相手の魔力を奪うなんていうことは出来ない。味は普通においしかったので全部食べてしまったのが良くなかった。
手作りというのも心を込めたのではなく、毒だか呪いだかをこめるのに他人の手を借りることが出来なかったというだけのことだろう。
魔力をほとんど失い、その原因がおそらくそれだと気づいた私は愕然とした。人というのは自分の利益のためならそこまで卑怯なことが平然と出来ると言うのか。
「せっかく生まれてからずっと頑張って来たのに……」
貴族としての教育を受けることをほとんど放り出して私は魔法の訓練ばかりを積んできた。だから私は人脈もないし、魔法以外の知識もない。
その結果として同世代ではぶっちぎりの力を手に入れたというのに。それをあんな奴に、しかもこんな手段でとられるなんて、と思うと目の前が真っ暗になっていくようだった。
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