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残った加護
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それから辺境伯館では慌ただしい日々が続きました。伯爵閣下は軍勢を率いて出陣していき、留守に残ったオーウェン様も館の防衛や領地の見回りなど兵士の指示や報告の受け取りに忙しくなります。
そして伯爵閣下が出陣してからおよそ一週間後のことでした。血走った表情のレナが私の部屋に報告にきます。
「大変です、イレーネさん!」
「どうしたの?」
「それが……伯爵閣下の軍勢は大敗北したとのことです!」
「嘘!?」
伯爵の正規軍が帝国の支援があるとはいえ賊程度に負けることがあるのだろうか。私はその報告を聞いて最初は信じることが出来ませんでした。
「話によると……」
レナの話をまとめると以下のようでした。
伯爵軍は賊がいるという国境沿いの山に向かった。そこで戦いになると、賊は正規軍には敵わず撤退。そして伯爵領の隣にある貴族の領に逃げ込んだ。隣の領とはいえ賊を逃がす訳にはいかない。伯爵はその貴族に手紙を送り、了承を得てから賊を追撃した。
が、伯爵領を出た時である。急に地震が起きて山道が崩れ、軍勢の一部が動けなくなってしまった。逆に相手は山賊であるため山中の移動は慣れている。そのため動けないところをいいようにやられ、伯爵も這う這うの体で退却したとのことだった。
それを聞いて私も地震があったことを思い出します。幸いこの辺りは大した揺れではなかったので、山道が崩れたと聞いて驚きました。そんなに距離が離れてないのにそこまで揺れ方が違うことなどあるのでしょうか。
「まさかこんなことになるなんて……私たちは大丈夫かな」
「はい、ここはオーウェン様が守っていらっしゃるので絶対大丈夫です。それからオーウェン様より話があるとのことです」
「分かりました」
私は急いでオーウェン様の部屋に向かいます。そこでは険しい顔のオーウェン様が兵士たちに次々と指示を出していましたが、私が来ると若干ほっとした表情を見せます。
「おお、イレーネか」
「はい、お話とは何でしょうか」
「慌ただしくて済まない。まずは座ってくれ」
「は、はい」
私がオーウェン様の向かいに座ると、彼はほっと一息ついてお茶を飲みます。
「父上が敗れたという話は聞いたか?」
「は、はい」
「例の地震、この辺りでは大して揺れなかった。せいぜい水面に波が立つほどだ。なのにそこまで距離が離れている訳ではない父上の軍勢は山崩れに遭ったという。これは俺の推測だが、おそらくこの領地だけ地震は弱かったのだと思う」
「なぜですか?」
「イレーネの加護のおかげではないかと思う」
「そうなのですか!?」
話を聞いて私は驚きました。聖女を解任された私になお加護が残っていたとは。とはいえ加護というのは神様がくださるもの。そういうことがあっても不思議とは言えません。
「おそらく、聖女を解任されたとはいえ、一貴族の領地内を守るぐらいの力は残っていたのではないか。そして父上の軍勢が領地外へ出たタイミングと地震が偶然重なったのが敗因だろう。だからイレーネには祈りを続けて欲しい、というのが一つ目の用件だ」
「はい、わかりました」
正直習慣として続けていただけのつもりだった祈りにここまでの意味があったとは、私も驚きです。
「そしてもう一つは、勝利した賊は勢いづいてここへ攻めてくるらしい。とはいえ敵はこの俺が一兵たりとも館に入れないから安心していてくれ。そして一応、戦いが終わるまでは一番安全なこの部屋にいるように」
「分かりました」
私は緊張しながら唾をのみ込みます。これまでこんな間近で戦いが起こるのは初めてです。ちなみにここ、オーウェン様の部屋はちょうど館の中心部にあり、この上階に伯爵様の部屋があります。そのため館内では一番安全と言えるでしょう。
「オーウェン様、賊が近づいてきました!」
「よし、行くぞ、出撃だ!」
こうしてオーウェン様は出陣していきました。
そして伯爵閣下が出陣してからおよそ一週間後のことでした。血走った表情のレナが私の部屋に報告にきます。
「大変です、イレーネさん!」
「どうしたの?」
「それが……伯爵閣下の軍勢は大敗北したとのことです!」
「嘘!?」
伯爵の正規軍が帝国の支援があるとはいえ賊程度に負けることがあるのだろうか。私はその報告を聞いて最初は信じることが出来ませんでした。
「話によると……」
レナの話をまとめると以下のようでした。
伯爵軍は賊がいるという国境沿いの山に向かった。そこで戦いになると、賊は正規軍には敵わず撤退。そして伯爵領の隣にある貴族の領に逃げ込んだ。隣の領とはいえ賊を逃がす訳にはいかない。伯爵はその貴族に手紙を送り、了承を得てから賊を追撃した。
が、伯爵領を出た時である。急に地震が起きて山道が崩れ、軍勢の一部が動けなくなってしまった。逆に相手は山賊であるため山中の移動は慣れている。そのため動けないところをいいようにやられ、伯爵も這う這うの体で退却したとのことだった。
それを聞いて私も地震があったことを思い出します。幸いこの辺りは大した揺れではなかったので、山道が崩れたと聞いて驚きました。そんなに距離が離れてないのにそこまで揺れ方が違うことなどあるのでしょうか。
「まさかこんなことになるなんて……私たちは大丈夫かな」
「はい、ここはオーウェン様が守っていらっしゃるので絶対大丈夫です。それからオーウェン様より話があるとのことです」
「分かりました」
私は急いでオーウェン様の部屋に向かいます。そこでは険しい顔のオーウェン様が兵士たちに次々と指示を出していましたが、私が来ると若干ほっとした表情を見せます。
「おお、イレーネか」
「はい、お話とは何でしょうか」
「慌ただしくて済まない。まずは座ってくれ」
「は、はい」
私がオーウェン様の向かいに座ると、彼はほっと一息ついてお茶を飲みます。
「父上が敗れたという話は聞いたか?」
「は、はい」
「例の地震、この辺りでは大して揺れなかった。せいぜい水面に波が立つほどだ。なのにそこまで距離が離れている訳ではない父上の軍勢は山崩れに遭ったという。これは俺の推測だが、おそらくこの領地だけ地震は弱かったのだと思う」
「なぜですか?」
「イレーネの加護のおかげではないかと思う」
「そうなのですか!?」
話を聞いて私は驚きました。聖女を解任された私になお加護が残っていたとは。とはいえ加護というのは神様がくださるもの。そういうことがあっても不思議とは言えません。
「おそらく、聖女を解任されたとはいえ、一貴族の領地内を守るぐらいの力は残っていたのではないか。そして父上の軍勢が領地外へ出たタイミングと地震が偶然重なったのが敗因だろう。だからイレーネには祈りを続けて欲しい、というのが一つ目の用件だ」
「はい、わかりました」
正直習慣として続けていただけのつもりだった祈りにここまでの意味があったとは、私も驚きです。
「そしてもう一つは、勝利した賊は勢いづいてここへ攻めてくるらしい。とはいえ敵はこの俺が一兵たりとも館に入れないから安心していてくれ。そして一応、戦いが終わるまでは一番安全なこの部屋にいるように」
「分かりました」
私は緊張しながら唾をのみ込みます。これまでこんな間近で戦いが起こるのは初めてです。ちなみにここ、オーウェン様の部屋はちょうど館の中心部にあり、この上階に伯爵様の部屋があります。そのため館内では一番安全と言えるでしょう。
「オーウェン様、賊が近づいてきました!」
「よし、行くぞ、出撃だ!」
こうしてオーウェン様は出陣していきました。
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