上 下
43 / 61
秀才学生フィリア

フィリアとの連携

しおりを挟む
 その後俺たちは例のトロールを追うように七層へと降りた。
 基本的にダンジョンの魔物は一定時間経つとダンジョン内に充満している魔力によって復活するため、トロールが魔物を全て倒しても少し待てば復活する。
 だから到達階層を稼ぐだけならば強い冒険者の後をぴったりとつけていけば簡単にできるのだが……そんなことをしてもあまり意味がない。

 七層にいたのは、肉体を持たないゴーストと呼ばれる魔物たちだった。
 ゴーストはアンデッドの一種で、死者の持つ魔力が強い怨念などを媒介に変異して生まれた魔物である。
 魔力が不定形に淡く輝いており、泣き声や笑い声をあげて俺たちの方に近づいてくる。

「そうやって馬鹿にして!!」

 リンはすぐに剣を抜いて斬りかかるが、ゴーストの魔力の体をリンの剣はすっと通り過ぎていく。

「えっ、嘘……」

 これまでどんな相手でも剣が命中すれば少なくともダメージを与えることは出来たため、未知の経験にリンは戦慄する。

「マジック・ウェポン」

 そこへすかさずフィリアが強化魔法をかける。

「これでゴーストにも攻撃は当たるはずだわ。ティアさんは防御をお願い!」
「は、はい」

 ゴーストたちが笑い声をあげると、何らかの魔法なのか、気分が悪くなってくる。

「プロテクション!」

 ティアが防御魔法を唱えるとすぐに相手の魔法は遮断され、やがて気分が悪いのも治った。
 すかさずリンが再びゴーストたちに斬りかかる。

「えいっ」

 リンの剣がゴーストを切りさくと、今度は強化魔法がかかっていたおかげか、魔力で出来たゴーストの体も真っ二つに切断される。
 ゴーストは甲高い悲鳴を上げると、そのまま消滅していった。

「よくも弄んでくれたわね?」

 リンはゴーストたちに翻弄されて悔しかったのだろう、縦横無尽に剣を振り回し、あっという間に周囲のゴーストたちを消滅させていく。

「ありがとう、フィリアさん」

 ゴースト退治が終わるとリンはフィリアにお礼を言う。

「いえ、ゴーストは魔力により強化した武器であればダメージを与えることが出来ると知っていただけなので。それに私ではなくてもティアさんの魔法で同じことが出来たと思うわ」
「そ、そうだったのですね」

 ティアは少しだけ申し訳なさそうに言うが、冒険者経験の浅いティアがそこに気づけないのは普通のことだ。そもそも俺だって気づけなかった訳だし。

「今回は相手がそんなに強くなくて良かったですが、もっと強ければ一瞬の隙が命取りになっていたかもしれません」

 ティアは感心の目でフィリアを見る。
 俺たちは戦力はあっても、ダンジョンを攻略するのであれば魔物の知識も必要だ。やはりフィリアはパーティーに欲しい、と思ってしまう。

 ゴーストは種が割れてしまえば大したことない相手であり、強化されたリンの剣で次々と倒していく。
 強いて懸念を挙げるとすれば、先手必勝で倒してしまったために敵がどんな攻撃をしてくるのかはよく分からないままだったということだろうか。

 一回目の敵から考えるに、精神攻撃のようなものだとは思うのだが。
 そして俺たちは速やかにボスの部屋に到着した。

 中に入ると、奥の方には俺たちが倒してきたようなゴーストの一回り大きいやつがいる。しかしその前には先ほどの階層にいたような、スケルトンの大きいやつらが数体いた。
 魔力で強化された武器には無力なゴーストを、スケルトンで護衛するという布陣なのだろう。
 こうして目の前に現れると厄介だ。

「ティアは俺への強化と防御を頼む。俺がスケルトンを倒すから、フィリアはリンをサポートしてくれ。そしてリンは奥のゴーストを倒してくれ」
「はい!」

 リンはどちらかというと威力よりも速度が持ち味だから防御力が高いスケルトンたちよりも、それらをかいくぐってゴーストに一太刀浴びせる方が向いているだろう。

「マジック・ウェポン」
「エンチャント」

 すぐにティアとフィリアから俺たちに強化がかかる。
 すると奥にいるゴーストが奇声をあげる。
 大広間ぐらいの広さがある部屋なのに、室内はあっという間にゴーストの奇声で満たされた。
 それと同時に猛烈に頭が痛くなってくる。

「マインド・ヒール」

 が、すぐにティアの魔法で頭痛はとれる。
 俺はすぐに目の前の骨の塊に斬りかかる。
 ティアの強化魔法がかかっていることもあって、巨大な骨の塊もバキバキと音を立てて斬れていく。
 そんな俺の奮戦を見て他のスケルトンたちは続々と俺を倒そうと集まってくる。

 それを見てリンはスケルトンたちの間を駆け抜け、奥にいるゴーストに迫っていく。
 それを見てゴーストは魔法を使おうとしているのだろう、周囲に魔力が充満していく。

「ゴーストの攻撃が来るわ」
「はい、プロテクション!」

 フィリアの言葉でティアが防御魔法を発動する。
 その直後、ゴーストが再び奇声を発したが、ティアの防御魔法に阻まれて俺たちへの影響はなかった。

「今だっ!」

 そこへ風のようにリンが斬りかかる。
 ゴーストは攻撃を避けようとするが、リンに素早さで勝てる訳がなく、すぐに一刀両断にされた。
 ボスのゴーストが消滅するとスケルトンたちもぼろぼろとその場に崩れ落ち、俺たちは無事勝利した。

「よし、調子も上がって来たし次の階層へ行くぞ」
「はいっ!」

 こうしてその日は結局第九層まで踏破したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

処理中です...