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秀才学生フィリア

困惑

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「私も、パーティーに入れてほしい」

 それを聞いて俺は驚きつつも、どこかこの瞬間を意外ではないと感じている自分がいることに気づいた。

 フィリアは真面目な性格のようだが、その真面目さはいわゆる世間で評価される真面目さとは少し違う。元々俺のことを調べるのであれば、わざわざ俺たちのパーティーと一緒に戦ったり武器を強化したりする必要はないはずだ。
 周囲で話を聞けば俺の力が事実であることや、俺たちが明らかに尋常ではない戦績を挙げていることは分かるだろう。

 それでも彼女が俺たちと行動をともにしたのは任務というよりは自分の知的好奇心に対して真面目だったからではないか。未知の力があることが分かった以上、それを解明せずにはいられなかったのだろう。

「そ、そんな急な」
「そもそもフィリアさんはアレン様のことを公爵に報告するという任務があるのでは?」

 リンとティアも急な話に困惑する。任務として調査に来た人物がそれを放ってパーティーに入りたいと言うことは普通ないだろう。
 が、フィリアの表情は真剣だった。

「そんなことはもういいわ。あなたたちも分かるでしょう? いや、むしろあなたたちの方が知っているでしょう? 彼の力の凄さを」
「そうですが……いきなり入りたいと言われても」

 リンは戸惑いながらティアの方を見る。
 急な申し出ということもあって、さすがにティアも反応に困っていた。

「確かに私は実力ではみなに劣るかもしれないけど、知識はあるし、武器の強化とかもすることが出来る。それに、アレンさんの力についても、全貌が分かれば何かアドバイスが出来るかもしれない」
「まあ正直なところ、実力の面では拒否するつもりはない」

 職業さえ合成すれば強くなるのは簡単だし、学生というのは合成素材には向いている職業だ。

「そうです、例えばパーティーに入る振りして情報を探り、公爵に報告に行くとか」
「そんなことはしない! 職業を売買できるなんていうすごい力を持つ人と同じパーティーにいることに比べれば、役目を果たしたことでもらえる報酬などたかがしれているわ」

 俺はフィリアの本気が伝わってきたが、二人はそれでも信用しきれないようだ。
 俺としても職業の合成を試せる相手が増えるのはうれしいが、それで俺たちの関係が悪くなるのも困る。

「とりあえず、今俺たちは冒険中だからすぐにという訳にもいかない。それに、そんなにすぐに決めなければならない問題でもないし、二人もフィリアと色々話してみて、それで決めればいいだろう?」
「……確かにそうね」

 フィリアも自分が熱くなりたと気づいたのか、我に帰る。

「リンとティアも、いきなり言われても困るだろうから少し考えてから改めて意見を聞かせてくれ」
「分かりました」

 二人も頷く。




 が、そんな話をしている間に随分時間が経っていたらしい。
 そろそろお腹が空いてきた、と思ったときだった。
 ズシンズシンという大きな足音が後ろから聞こえてきたかと思うと、先ほど入口で見かけたトロールの姿を見かける。相変わらずその背には兵士が乗っていた。
 トロールの職業に目をやると気持ち悪くなりそうなので、目をそらしながら尋ねる。

「おい、もしかしてもうこの層までやってきたのか?」

 俺は思わず声を掛ける。

「そうだ。考えてみろ、このトロールに比べればここまでの敵なんて雑魚同然と思わないか?」

 快進撃に気を良くしたのか、兵士の方も興奮した様子で話す。
 俺たちが攻略したときはやたら強い敵と遭遇したり、レッサードラゴンと戦ったりでイレギュラーが重なったが、実際普通の敵が出ると考えればこの”強化”トロールの敵ではないかもしれない。

「本当にトロールは言うことを聞くんだな」
「当然だろ。そうでなければここまで俺が無傷でやってこれる訳がない。では先に行かせてもらう」

 そう言って男たちは先へ歩いていく。
 後ろからトロールを見てみるが、やはり兵士に逆らう様子はない。

「本当にこんなことが出来るなら冒険者がみな不要になってしまう日も近いのかもしれないな……」

 俺がぽつりと言うと、三人も顔を見合わせる。
 人間の冒険者は命がかかった冒険をする以上それなりの報酬が必要になるが、この魔物であれば一度“作って”しまえば今後はただ働きさせることが出来る。
 今は兵士も背中についているが、兵士自身の力でトロールを従わせている訳ではない以上、トロール単独での行動もおそらく可能だろう。

「とはいえ俺たちは俺たちで攻略を続けよう」

 そもそも俺たちの本分は別に冒険者ではない。仮に冒険者が必要なくなったとしたら、そのときは冒険者から職業を買い取って誰かに売ればいい話だ。
 そんなことを思いつつ俺たちは先に進んだ。
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