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ダンジョン都市アルディナと王女ティア

初めてのダンジョンⅡ

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 するとそろそろボスが出てくると思われる部屋の直前で、俺たちはぼろぼろになった冒険者パーティーがやってくるのと出会った。
 職業は「剣士」「盗賊」「神官」「魔術師」ときちんと一通りそろっており、初心者パーティーにしては強そうに見えるが、この先で負けたのだろうか。

「一体どうしたんだ?」
「何かいつもよりボスが強いんだ!」

 リーダーと思われる剣士の男が代表して言う。

「そんなことがあるのか?」

 ダンジョンでは階層に応じた強さの魔物が出ると聞いたが。

「たまに突然変異で強い魔物が出ることがあるらしい! 全然倒せないし、しかも毒を持っていて、体液に触れると装備が溶けるんだ!」
「毒か……」

 言われてみればこのパーティーの装備はところどころ穴が空いている。中には顔色が悪い者もおり、戦いを継続できるとは思えない。

「そういう訳だ、お前たちもここまで来れたとはいえ、二人ではあれには勝てないからやめておいた方がいい」

 そう言って彼らは去っていった。



 確かに毒やら装備融解を行ってくるスライムが第二階層で出てくるなんて話は聞かなかった。とはいえそう言われて引き下がるぐらいならダンジョンになど潜らない。それに足が遅いスライムが相手であれば最悪逃げることも出来る。

 俺たちは目の前の門を開け、奥の間に入った。
 すると俺たちの前には今度はこれまでとは明らかに違う、毒々しい緑色をした大きなスライムがいた。俺たちの身長を優に超える大きさだ。

「確かにボスとはいえ、第二階層ではなかなか出ないだろうな」
「そうですね」
「今回はきちんとタイミングを合わせて斬りかかるぞ」
「はい!」

 そして俺たちは左右から一斉に斬りかかる。幸い敵は動きが遅いので、タイミングを合わせるのは簡単だった。俺は先ほどリンが言っていたことを思い出し、素早い突きを繰り出す。

 スライムは体をどろりと触手のようにしてこちらに伸ばしてくるが、俺はそれを滅多突きにした。

 五度ほど続けて突きを当てると、手のような触手はどろりと崩れ落ちた。

「きゃあっ!?」

 が、その際に飛び散った飛沫が服に当たり、服を溶かす。向こう側からはリンの悲鳴も聞こえてきた。

 長期戦になると面倒と思った俺はさらに本体を狙って突きを繰り出す。リンも同じ思考だったのか、逆側からスライムの本体に襲い掛かった。
 やがてぐちゅり、と音を立ててスライムは崩れていく。

 が、その瞬間。

 パンッ、と破裂音を立てて、スライムの体が液状化して辺りに飛び散った。毒々しい色の飛沫が俺とリンに襲い掛かる。

「避けろ!」
「きゃあっ」

 とっさに叫んだものの、敵に攻撃した直後だったので避けきれない。
 飛沫の一部が俺とリンにかかり、リンの服が溶け、俺は気分が悪くなる。

「これが毒か……」

 職業合成師のおかげで体力も強化されているおかげで少し気分が悪い程度で済んでいるが、本来はもっと恐ろしいものだったのだろう。

「大丈夫か?」

 不安に思ってリンを見ると、彼女は少し顔を赤くして胸元を手で隠している。

「せっかく買っていただいた服なのに残念です。で、出来ればあまり見ないでいただけると嬉しいです……」
「それは悪かった」

 俺は慌てて視線をそらす。

「あ、もし見せろとご命令されればお見せしますが……」
「そんなことするか!」

 先ほどから楽な戦いが続いて忘れがちだが、そもそもここはダンジョン内だ。
 いくら敵が弱くても不測の事態は起こるということを思い出す。

「今日は下見のつもりだったし、これくらいにしておこう」
「はい、すみません私のせいで……」
「いや、リンのせいじゃない。大したことはないが、実は俺も毒にかかっているんだ」
「毒? 大丈夫ですか!?」

 リンは心配そうに叫ぶ。

「ああ、職業合成師の力で強化されているから大丈夫だが、少し気分が悪い」
「それなら引き返した方が良さそうですね」

 俺たちはスライムが爆散した後に残った黒い塊の核をとると、来た道を引き返していく。

 すると、そこには冒険者たちが焚火をして数人休んでいるエリアがある。
 ダンジョン内には魔物が湧きやすいところとそうでないところがあり、そうでないところには時々冒険者が集まって休息しているところがある。ここもその一つのようだ。

 そこには先ほどすれ違った冒険者たちの姿もあった。ダンジョンから帰ろうにも、体力を回復してからでないと途中で倒れるかもしれないと思って休んでるのだろう。

「やはりお前たちも無理だったか……ん、その塊は?」

 彼らはてっきり俺たちがあのスライムに負けて帰ってきたと思ったらしい。
 が、俺が手に持っていたスライムの核を見て表情が変わる。

「もしかしてあれを倒したのか?」
「ああ、倒しはしたが、装備も破れたし、毒にもかかってしまってな」
「え、あのスライムの毒にかかってそんなに平気なんですか?」

 男の傍らで横になっていた女性の魔術師が驚いたように言う。どうも彼女は毒でしゃべるのがやっとの状態らしい。俺が見た感じ普通に歩いているのが信じられないのだろう。
 一般人の体力だとああなっていたのか、と思うとぞっとする。

「ああ、そうだが……」

 そこへ近くにいた商人風の男が俺たちの元に駆け寄ってくる。

「ただいま、毒消し草を売っておりますがいかがでしょうか? それに、少し値が張りますが、スライムの攻撃で溶けた装備を修復する魔法もおかけしてますが」
「本当か?」

 魔物が様々な能力を持っているのに合わせて人間側の技術も進歩しているんだなあ、と感心した。

 そして先ほど服が溶けて落ち込んでいたリンの表情を思い出す。また買ってやればいいかと思っていたが、彼女からすると愛着があったのだろう。直るならその方がいい。

「じゃあ両方頼む」
「はい、ありがとうございます」

 俺が銀貨を渡すと、彼は俺に薬草を渡し、リンの方を向く。

「リペア」

 するとスライムで破れた服はみるみるうちに元通りに修復されていく。それを見てリンはほっとした顔になった。

「ありがとうございます。良かった、直って……」
「いや、俺も自分が買った服をそこまで愛着持ってもらって嬉しいよ」
「当然です。初めて買っていただいたものですから」

 そう言ってリンは笑顔を浮かべる。やはり頼んで良かった。
 俺はもらった薬草を煎じて飲みながら考える。

 今日は帰るとして、今後もダンジョンに潜るのであれば白魔術師がいた方がいいだろう。ちょうど俺は「白魔術師」を持っているが、これを「剣豪奴隷」に合成した方がいいだろうか。

 しかし実戦のことを考えると、リンが戦いながら魔法も使うのは役割過多だ。
 誰か白魔術師を与えてもいいと思えるような仲間がいればいいのに、などと思うのだった。
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