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無職になった男と奴隷少女リン

職業合成師

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 その後馬車は急遽近くの村に停まり、捕らえた賊を引き渡したり、怪我や故障がないかを確認することになった。

 俺もいろいろ事情を聴かれたものの、話しながらも意識は全く別のことを考えていた。
 神官と白魔術師はどちらも回復・支援系統の魔法が使える職業だ。最大の違いは、神官は神に祈りを捧げることで特別な力を授かることだろう。例えば他人の職業を見たり、職業を授ける儀式を行ったりするのはグローリア神官固有の能力だ。
 ……俺を除けば。

 逆に、白魔術師の魔法は術式によるもなので、術式や魔道具などを工夫することで強くなるという差がある。

 また、俺は自分が白魔術師の魔法が使えるのかどうか試してみたが、使えなかった。やはり俺は特殊な力と引き換えに、普通の人が職業から得られる能力を得られないのだろう。

 そんなことを考えているうちに事情聴取が終わったので、俺は待ちくたびれているリンの元へ向かう。

「すまない、待たせたな」
「いえいえ、お疲れ様です」
「それより、俺の力について確かめたいことがあるから少し外に出ないか?」

 そう言って俺はリンを村の外れに連れ出す。
 俺の力は自分でも未知数なので、職業をやりとりできること以外はあまり他人に知られたくはない。
 周囲に人がいないところに出たところで、俺は口を開く。

「もしかしたら、もしかすると俺は、今持っている職業の数によって俺の力が強化されるのかもしれない」
「なるほど、もしかしてご主人様は先ほどはそのおかげで剣が振るえたのでしょうか?」
「俺はそう思う」

 山賊を倒したときに俺も奴らが持っていた剣を一本護身用にもらったのでそれを近くの木に向かって振ってみる。

 するとその木はすぱっと切断された。
 山賊から職業を奪ったせいか、彼らと戦ったときよりも確実に俺の身のこなしは良くなっている。

「おお!」

 それを見てリンも目を見張った。

「他のことはどうだろう」

 そして俺はその辺を走ったり、重そうな石を持ち上げたりして基礎的な体力を測ってみる。また、視力や聴力についてもやれる範囲で実験してみた。
 すると、全体的に以前よりもかなり能力が上がっていることが分かる。

「やはり俺は職業をたくさん持っているほど強くなると言う訳だな」
「ということは今後も取引を重ねていけばどんどん強くなるということですね!」
「そうだな」

 今の俺はロメルで手に入れた職業に、山賊から奪った職業を加えて二十ほどの職業を持っている。

「ファイア・ボルト」

 今度は初歩的な魔法をその辺の草むらに発射してみる。
 しかし現れたのはおなら程度の勢いの炎だけだった。剣技に対して魔法は全然だ。もっとも、元の俺は魔法を使うことすら出来なかったので若干は上達しているのだろうが。

「体に対して魔法は全然だな。と言ってもましにはなっているが」
「もしかすると持っている職業の質で決まるのでは?」
「なるほど、今は一般職と物理戦闘職が多いから、身体能力ばかりが上がっているのか」

 リンの指摘になるほどと思う。どの職業でどれくらい強くなっているのかは分からないが、この分だと身体能力を強くする方が圧倒的に早そうだ。

「そうだ、試しに俺の職業をリンに渡してみてもいいか?」
「は、はい」

 俺の職業を全部預けた状態で俺が動けば、本当に職業の数で俺が強化されているのかが分かると思った……のだが。

”リンの職業「剣士奴隷」に「ならず者」を合成・強化しますか?”

 どうやら普通の人は職業を複数持つことが出来ないらしく、そんなメッセージが聞こえてくる。

「どうも俺以外のすでに職業を持っている人に渡すと、合成されるようだ」
「剣士奴隷みたいに、ですか?」
「言われてみればそれは合成だな。じゃあ”強化”というのは何だ?」

 試しに俺は比較的どうでもいい、「ネズミ捕り」をリンに渡し、合成してみる。

”「剣士奴隷」が「剣士奴隷(+1)」に強化されました”

 そんなメッセージが聞こえてくる。
 +1というのは俺の感覚だとあまり大した強化ではなさそうだ。
 リンも何が起こったのか分からず、首をかしげている。

 やはり剣士であるならそれに類似した職業の方がいいのだろうか。
 今度は思い切って、「剣士」を与えてみる。「剣士」は少し貴重だから無駄に終わると悲しいが。
 すると。

”「剣士奴隷(+1)」が「剣士奴隷(+11)」に強化されました”

 今度は一気に+10も強化された。 

「もしかして私、強くなりました?」

 今回はリンも変化に気づいたようである。
 試しにリンが剣を振るうと、近くにあった太い茎の植物が一刀両断される。やはり「剣士」を強化するには「剣士」ということか。

「すごい……一体何が起こったのですか!?」
「実はリンにさらに『剣士』を使って強化したらより強くなったんだ」
「え、『剣士』は結構高く売れるのにいいんですか!?」

 それを聞いてリンは驚く。

「俺は別に商人として大金持ちになりたい訳じゃない。自分の能力がどのようなものかを知りたいんだ。それに、俺は今職業を合成して強化するという誰もやったことがないことをしている。それに比べればお金なんて大したことじゃない」
「なるほど、ありがとうございます」
「と言う訳で、もう少しリンを強化させてほしい」
「はい!」

 こうして俺はさらに四つの「剣士」を「剣士奴隷」に合成する。
 すると。

”「剣士奴隷」の強化値が+50に達したので「剣豪奴隷」に進化しました”
”あなたのレベルが3に上がりました”

「え、すごい……私の職業が変わった!?」

 リンもその変化に気づいたらしく、目を見張る。

「みたいだな……まさかこんなことが出来るなんて」

 俺は思わず自分の力に驚く。
 そしてまた俺のレベルが上がった。今のはやはり職業を進化させたおかげだろうか。
 やはりこの力はただ職業を交換してお金を儲けて終わるだけの力ではない。ただ、その真の力を発揮するにはもっとたくさんの職業を集めなければ。

「やあっ」

 傍らではリンが振るった剣により、太い木の幹が一刀両断にされている。明らかに普通の剣技ではない。

「すごいです! ありがとうございます、こんな力を与えていただいて!」
「いや、まだまだこんなものじゃない。俺は自分の力を解き明かしてリンをもっと強くしてみせる」
「本当ですか!?」

 そう言ってリンは目を輝かせる。

「ああ。それからいつまでも無職のままだと格好がつかないから、俺は自分の力を”職業合成師”と名付けることにした。もっとも、面倒だから特に何もなければ冒険者と名乗るつもりではあるが」
「”職業合成師”確かにその名の通りですね」

 こうして俺は、職業合成師としての一歩を踏み出したのである。
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