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無職になった男と奴隷少女リン
横槍
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「不要になった職業、買い取ります!」
「また、職業が必要な方にはお売りしますよー!」
リンの服を買った後、俺たちは早速広場に向かい、昨日のように商売を始めた。ゴルグという街の中では(良くも悪くも)有名人が利用したことで俺たちの知名度は上がっており、それまでよりも多くの客が話を聞きにくる。
また、それまで俺のことを白い目で見て通り過ぎていた者も、リンの姿を見て足を止めることもあった。
そんな彼らに対して俺とリンは俺たちが何をしているかの説明をしていく。大部分は俺たちが目当ての職業を持っていないことや、職業を売るにしてももっと高く売りたい、などと言って取引には至らないが、それでも時々売買する者はいた。
職業を売る者は大体は引退か転職、もしくは「詐欺師」「こそ泥」のような不名誉な職業が多かった。それらの者は俺が持っている普通の職業でも「ないよりはまし」と言って買っていくこともあった。
一度だけ「杖商人」という職業を「限定的すぎて使い物にならない」と手放した男もいたが。
中には、
「急に農地にゴブリンが出たんだ。だからしばらく『兵士』を貸してくれないか?」
などと言う者もいて、取引の幅は広がっていく。
そして取引が増えていくと自然と噂が広まり、客の数はどんどん増えていった。最初は隣にいたらうさん臭ささが減りそうというぐらいの気持ちで働いてもらっていたリンだったが、忙しくなるにつれて二人で接客対応することも多くなっていき、気が付くとかなり助けられていた。
こうして数日のうちに俺の手元には十を超える職業と、普通の働きでは一か月ぐらいかかるような銀貨が集まっていた。
このまま商売を続ければもっとお金が貯まり、もっとたくさんの職業を手に入れられるかもしれない。そしたらもっとたくさんの街を回ってみようか。
俺がそんな期待に胸を躍らせたときだった。
不意にばたばたという複数人の足音とともに白ローブを纏った神官らしき集団が広間にやってくる。
何だ何だと思っていると、彼らはなぜか俺の周りを包囲した。
そして俺の前に以前俺が職業を授かったとき、罵倒して叩いてきたドネルという司祭長が現れた。彼の澄ましたような顔を見ると、俺の方もその時の怒りが蘇る。
が、先に怒り始めたのはドネルの方だった。
「貴様! 何てことをしているんですか!」
「いや、見ての通りだが」
「神から与えられた職業を勝手に売り買いして金儲けするなど言語道断ではありませんか!」
「いや、俺は与えられていないが」
「屁理屈を言ってはいけません! それはお前がそのような不信心者だからです!」
何となく揚げ足をとってみたら、ドネルの怒りはさらにヒートアップしてくる。
「でも職業を売買することを禁ずる法律はないと思うが」
「それはこれまでそんな怖ろしいことをする者が現れなかったからです! とにかく今すぐやめなさい!」
「いくら神殿の方だからといってご主人様に文句を言うなんて許せません! みなが喜んでいるんだからいいじゃないですか!」
今度はリンが割って入る。
リンはリンで、奴隷などという職業を押し付けたグローリア神には思うところがあるのだろう。
が、ドネルはリンを一瞥すると顔を真っ赤にして怒鳴りつける。
「奴隷は黙りなさい!」
「……っ!?」
とはいえ、広場のど真ん中であるせいか前のように問答無用で殴り掛かってくることはない。
さすがに今の言い方に気分を害した俺は、逆に意地になってしまう。
「やめさせたければきちんと出るところに出てもらおうか!」
「この罰当たり者め……皆の者、彼を神殿に連れていきなさい!」
ドネルが叫んだ時だった。
「ちょっと待ちな」
現れたのは明らかにカタギではなさそうな、ならず者の集団だった。
その先頭に立つのは見知った顔……前に俺が依頼を受けたゴルグだ。
「な、何ですか、ならず者たちが!」
ドネルは彼らを見て動揺したように言う。
「おいおい、俺たちは神様に与えられた職業を全うしてるんだ。そういう風に言うのはよくないんじゃないんか?」
「う」
ゴルグの言葉にドネルは言葉を詰まらせる。
その隙にゴルグ一派が神官たちの前に進み出て、二人は睨み合った。ある意味表と裏の権力者であり、街の真ん中で乱闘する訳にもいかないため睨み合いはどんどんヒートアップしていく。
それを見て、急に争いの中心は俺からそちらに移っていった。急に中心でなくなった俺たちもこれから何が始まるのか、と野次馬になった気分で見守る。
するとゴルグがドスを利かせた声で言った。
「それよりその兄ちゃんの商売は俺たちも世話になったんだ。だから連れていかれるのは困っちまうな」
「こ、こんな罰当たりな商売を利用するとはこれだからならず者は!」
ドネルは目を吊り上げる。
さすがに司祭長だけあってならず者相手でも引く気配はない。
「おいおい、別にならず者でなくとも世話にはなってるぜ」
「そうだそうだ!」
が、そこへこれまで俺たちが職業を売買してきた者たちが続々と集まってくる。
ここ数日で利用者は増えていたせいか、今の騒ぎだけでもすぐに五、六人集まった。そして俺をかばうように間に入ってくれる。
普段ならドネルに正面から楯突くことはないが、ゴルグが味方しているためやる気を燃やしているのだろう。そしてゴルグたちとともにかえってドネルを包囲するように立つ。
それを見てドネルは金切り声をあげた。
「皆はグローリア神を冒涜するのですか!?」
「別に神は冒涜していないが、お前に対して遠慮する道理はない」
「そうだそうだ!」
「大体いつもいつも偉そうにしていて腹が立っていたんだ!」
ドネルの偉そうな態度に他の者たちも声をあげる。
どうも彼は俺に対してだけでなく、他の者にも偉そうにしてきたらしい。中には特に俺とは関係のない町の人までが、日ごろから恨みがあるのか「帰れ!」などと声をあげているのを見る。
「見なさい、これがあなたの日頃の態度が招いた結果です!」
そんな周囲を見てリンが叫ぶ。
神殿の中では一番えらいかもしれないドネルだが、こうなっては分が悪かった。
俺たちをぐるりと見回して悔しそうに唇をかむ。
もしかしたら彼は人々にもう少しちやほやされるつもりだったのかもしれない。
「くそ、覚えておきなさい!」
そして彼はそう言ってその場を後にするのだった。
「また、職業が必要な方にはお売りしますよー!」
リンの服を買った後、俺たちは早速広場に向かい、昨日のように商売を始めた。ゴルグという街の中では(良くも悪くも)有名人が利用したことで俺たちの知名度は上がっており、それまでよりも多くの客が話を聞きにくる。
また、それまで俺のことを白い目で見て通り過ぎていた者も、リンの姿を見て足を止めることもあった。
そんな彼らに対して俺とリンは俺たちが何をしているかの説明をしていく。大部分は俺たちが目当ての職業を持っていないことや、職業を売るにしてももっと高く売りたい、などと言って取引には至らないが、それでも時々売買する者はいた。
職業を売る者は大体は引退か転職、もしくは「詐欺師」「こそ泥」のような不名誉な職業が多かった。それらの者は俺が持っている普通の職業でも「ないよりはまし」と言って買っていくこともあった。
一度だけ「杖商人」という職業を「限定的すぎて使い物にならない」と手放した男もいたが。
中には、
「急に農地にゴブリンが出たんだ。だからしばらく『兵士』を貸してくれないか?」
などと言う者もいて、取引の幅は広がっていく。
そして取引が増えていくと自然と噂が広まり、客の数はどんどん増えていった。最初は隣にいたらうさん臭ささが減りそうというぐらいの気持ちで働いてもらっていたリンだったが、忙しくなるにつれて二人で接客対応することも多くなっていき、気が付くとかなり助けられていた。
こうして数日のうちに俺の手元には十を超える職業と、普通の働きでは一か月ぐらいかかるような銀貨が集まっていた。
このまま商売を続ければもっとお金が貯まり、もっとたくさんの職業を手に入れられるかもしれない。そしたらもっとたくさんの街を回ってみようか。
俺がそんな期待に胸を躍らせたときだった。
不意にばたばたという複数人の足音とともに白ローブを纏った神官らしき集団が広間にやってくる。
何だ何だと思っていると、彼らはなぜか俺の周りを包囲した。
そして俺の前に以前俺が職業を授かったとき、罵倒して叩いてきたドネルという司祭長が現れた。彼の澄ましたような顔を見ると、俺の方もその時の怒りが蘇る。
が、先に怒り始めたのはドネルの方だった。
「貴様! 何てことをしているんですか!」
「いや、見ての通りだが」
「神から与えられた職業を勝手に売り買いして金儲けするなど言語道断ではありませんか!」
「いや、俺は与えられていないが」
「屁理屈を言ってはいけません! それはお前がそのような不信心者だからです!」
何となく揚げ足をとってみたら、ドネルの怒りはさらにヒートアップしてくる。
「でも職業を売買することを禁ずる法律はないと思うが」
「それはこれまでそんな怖ろしいことをする者が現れなかったからです! とにかく今すぐやめなさい!」
「いくら神殿の方だからといってご主人様に文句を言うなんて許せません! みなが喜んでいるんだからいいじゃないですか!」
今度はリンが割って入る。
リンはリンで、奴隷などという職業を押し付けたグローリア神には思うところがあるのだろう。
が、ドネルはリンを一瞥すると顔を真っ赤にして怒鳴りつける。
「奴隷は黙りなさい!」
「……っ!?」
とはいえ、広場のど真ん中であるせいか前のように問答無用で殴り掛かってくることはない。
さすがに今の言い方に気分を害した俺は、逆に意地になってしまう。
「やめさせたければきちんと出るところに出てもらおうか!」
「この罰当たり者め……皆の者、彼を神殿に連れていきなさい!」
ドネルが叫んだ時だった。
「ちょっと待ちな」
現れたのは明らかにカタギではなさそうな、ならず者の集団だった。
その先頭に立つのは見知った顔……前に俺が依頼を受けたゴルグだ。
「な、何ですか、ならず者たちが!」
ドネルは彼らを見て動揺したように言う。
「おいおい、俺たちは神様に与えられた職業を全うしてるんだ。そういう風に言うのはよくないんじゃないんか?」
「う」
ゴルグの言葉にドネルは言葉を詰まらせる。
その隙にゴルグ一派が神官たちの前に進み出て、二人は睨み合った。ある意味表と裏の権力者であり、街の真ん中で乱闘する訳にもいかないため睨み合いはどんどんヒートアップしていく。
それを見て、急に争いの中心は俺からそちらに移っていった。急に中心でなくなった俺たちもこれから何が始まるのか、と野次馬になった気分で見守る。
するとゴルグがドスを利かせた声で言った。
「それよりその兄ちゃんの商売は俺たちも世話になったんだ。だから連れていかれるのは困っちまうな」
「こ、こんな罰当たりな商売を利用するとはこれだからならず者は!」
ドネルは目を吊り上げる。
さすがに司祭長だけあってならず者相手でも引く気配はない。
「おいおい、別にならず者でなくとも世話にはなってるぜ」
「そうだそうだ!」
が、そこへこれまで俺たちが職業を売買してきた者たちが続々と集まってくる。
ここ数日で利用者は増えていたせいか、今の騒ぎだけでもすぐに五、六人集まった。そして俺をかばうように間に入ってくれる。
普段ならドネルに正面から楯突くことはないが、ゴルグが味方しているためやる気を燃やしているのだろう。そしてゴルグたちとともにかえってドネルを包囲するように立つ。
それを見てドネルは金切り声をあげた。
「皆はグローリア神を冒涜するのですか!?」
「別に神は冒涜していないが、お前に対して遠慮する道理はない」
「そうだそうだ!」
「大体いつもいつも偉そうにしていて腹が立っていたんだ!」
ドネルの偉そうな態度に他の者たちも声をあげる。
どうも彼は俺に対してだけでなく、他の者にも偉そうにしてきたらしい。中には特に俺とは関係のない町の人までが、日ごろから恨みがあるのか「帰れ!」などと声をあげているのを見る。
「見なさい、これがあなたの日頃の態度が招いた結果です!」
そんな周囲を見てリンが叫ぶ。
神殿の中では一番えらいかもしれないドネルだが、こうなっては分が悪かった。
俺たちをぐるりと見回して悔しそうに唇をかむ。
もしかしたら彼は人々にもう少しちやほやされるつもりだったのかもしれない。
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