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無職になった男と奴隷少女リン
リンとの出会い
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そして夕方、ゴルグは部下の他に、見るからに憔悴しきった男女と、俺と同い年ぐらいの娘を連れてくる。
「こっちの男が破産した『宝石商』だ。妻はただの『料理人』だ。大したことない職業だが、多少の返済の足しにはなるだろ」
「ではまず『宝石商』の方からもらおうか」
「あ、ああ」
そう言われても男はイメージが湧かないのか、生返事をする。
「ではこれよりお前の職業をもらう。同意してくれ」
「ああ」
男が頷くと、俺は「宝石商」になり、代わりに男が無職になる。
とはいえ、確かに俺が手に持っている「宝石商」の職業は俺が保持することが出来るようだ。じゃあ俺が「宝石商」になれるのかとも思ったが、俺は職業を持つことが出来ない体質か何かなのか、それは出来なかった。
そのため、俺は「宝石商」ではないが「宝石商」の職業を持っているというよく分からない状況になる。言い換えれば、職業を持っているが効果は発動していないのだ。
これも職業合成師の力に関係があるのだろうか。
「うわ、本当に職業がなくなった……」
生まれたときからずっと人は一つの職業を持つという常識で育ってきたせいだろう、晴れて無職になった男は肩を落とす。
「次はそちらだ」
「は、はい……」
同じようにして俺は妻から「料理人」を受け取る。俺は一人で「宝石商」「料理人」の二つを持っていることになったが、やはりどちらの効果も発動していない。
それが終わると、二人はその少し後ろにいる娘をちらっと見て気まずそうに去っていく。
会話から察するに宝石商の男が何かの取引で失敗し、多額の借金を負って娘を売りに出したがそれでもまだ足りなかったのだろう。
娘を手放した上によそよそしい態度をとるとはあまりに酷い。
とはいえリアナのようにいいやつだと思っていた人もすぐに手の平を返した以上、人というのはそんなものかもしれない。
「おら、リン、早く進め!」
「はい」
ゴルドに怒鳴られ、リンと呼ばれた奴隷の少女は恐る恐る俺の前へ歩いてくる。
粗末な下着に、ボロ布と見間違うようなマントを羽織っただけの格好で、体も汚れていたがその顔は思いのほか綺麗だった。特に首元につけられた首輪と鎖がその立場を如実に表している。
しかし、ちゃんとした服を着せて体をきれいにすれば貴族の令嬢といっても通るのではないか。
そして俺は彼女の職業を見てはっとした。
普通の奴隷かと思えば、「専門奴隷」という初めて聞く職業だったのだ。
俺が沈黙したのを見てゴルドがいぶかしげに尋ねてくる。
「どうかしたか?」
「なあ、こいつはただの奴隷なんだよな?」
「そうだが……やはり奴隷なんていらないと言うのか?」
今更そんなことは許さないぞ、とばかりにゴルドは語気を強める。
普通の「奴隷」は職業として持っていても特に何かがそこまで得意になることもない上に、主人と定められた人間の命令に逆らえなくなるという、本人からすれば最悪の職業だ。
だからゴルドは俺が「やっぱりいらない」と言い出すのではないかと思ったのだろう。
しかしこの反応からするにゴルドは彼女が「専門奴隷」という謎の職業であることは知らないらしい。俺たちが猫を見つけても何の猫かまでは判別できないように、ひとくくりに奴隷とだけ呼ばれていても実は俺にだけ分かるもっと細かい分類があるのだろうか。
余計なことを言って値段を上げられても困るし、ここはそのことは黙っておくか。
「いや、ちょっと彼女は可愛いと思ってな」
「いくら顔が良くても職業が奴隷ではな」
ゴルドはそう言って肩をすくめる。
この世界ではこのように職業差別が横行しているらしい。言われてみれば、夫婦で職業の何となくの価値にそこまで差があることはあまり聞いたことがない。
仮に職業に差があるとしても、価値がない職業を持っている側が地位か富を手に入れた場合、つまり他の何かで職業の差を埋めた場合が多い。
ならば娼館のようなところで働かせればいいかもしれないが、そういうところでも職業は娼婦、もしくは普通の職業が好まれ、奴隷は安いとか。
が、そこでゴルドは下卑た笑みを浮かべて思いもよらないことを言う。
「それなら職業と言わず、彼女自身も買うか?」
「え?」
「お前の力で娼婦とかにすればそれなりに役に立つだろ」
「それは確かにいいかもしれないな」
専門奴隷という他の人からは識別されない職業が何なのか俺は気になったが、俺は職業の効果を試すことは出来ない。ならばリン自身で試してみたいという意味で頷いたのが、会話の流れからすると俺は好色な意図で頷いたようにしか見えないだろう。とはいえそれはそれで話が早いかと思い、特には否定しない。
リンは警戒の表情を浮かべ、ゴルドはさらににやつく。
「いいだろう、とはいえこんな子供じゃ大した値段にならないし、売り先を見つける手間も省けるからこれぐらいでいいぞ」
「分かった」
提示された金額は人間の値段としてはあまりに安かったが、今は好都合だ。
俺は職業の代金と合わせてゴルドに銀貨を渡す。
「と言う訳で今日からお前のご主人様はこの男だ。せいぜい気に入られるようにな」
「は、はい」
そう言ってリンは硬い表情で俺を見た。
「ああ、よろしくな」
「は、はい」
そしてゴルドは俺にリンの首輪から伸びている鎖を渡して去っていった。
「こっちの男が破産した『宝石商』だ。妻はただの『料理人』だ。大したことない職業だが、多少の返済の足しにはなるだろ」
「ではまず『宝石商』の方からもらおうか」
「あ、ああ」
そう言われても男はイメージが湧かないのか、生返事をする。
「ではこれよりお前の職業をもらう。同意してくれ」
「ああ」
男が頷くと、俺は「宝石商」になり、代わりに男が無職になる。
とはいえ、確かに俺が手に持っている「宝石商」の職業は俺が保持することが出来るようだ。じゃあ俺が「宝石商」になれるのかとも思ったが、俺は職業を持つことが出来ない体質か何かなのか、それは出来なかった。
そのため、俺は「宝石商」ではないが「宝石商」の職業を持っているというよく分からない状況になる。言い換えれば、職業を持っているが効果は発動していないのだ。
これも職業合成師の力に関係があるのだろうか。
「うわ、本当に職業がなくなった……」
生まれたときからずっと人は一つの職業を持つという常識で育ってきたせいだろう、晴れて無職になった男は肩を落とす。
「次はそちらだ」
「は、はい……」
同じようにして俺は妻から「料理人」を受け取る。俺は一人で「宝石商」「料理人」の二つを持っていることになったが、やはりどちらの効果も発動していない。
それが終わると、二人はその少し後ろにいる娘をちらっと見て気まずそうに去っていく。
会話から察するに宝石商の男が何かの取引で失敗し、多額の借金を負って娘を売りに出したがそれでもまだ足りなかったのだろう。
娘を手放した上によそよそしい態度をとるとはあまりに酷い。
とはいえリアナのようにいいやつだと思っていた人もすぐに手の平を返した以上、人というのはそんなものかもしれない。
「おら、リン、早く進め!」
「はい」
ゴルドに怒鳴られ、リンと呼ばれた奴隷の少女は恐る恐る俺の前へ歩いてくる。
粗末な下着に、ボロ布と見間違うようなマントを羽織っただけの格好で、体も汚れていたがその顔は思いのほか綺麗だった。特に首元につけられた首輪と鎖がその立場を如実に表している。
しかし、ちゃんとした服を着せて体をきれいにすれば貴族の令嬢といっても通るのではないか。
そして俺は彼女の職業を見てはっとした。
普通の奴隷かと思えば、「専門奴隷」という初めて聞く職業だったのだ。
俺が沈黙したのを見てゴルドがいぶかしげに尋ねてくる。
「どうかしたか?」
「なあ、こいつはただの奴隷なんだよな?」
「そうだが……やはり奴隷なんていらないと言うのか?」
今更そんなことは許さないぞ、とばかりにゴルドは語気を強める。
普通の「奴隷」は職業として持っていても特に何かがそこまで得意になることもない上に、主人と定められた人間の命令に逆らえなくなるという、本人からすれば最悪の職業だ。
だからゴルドは俺が「やっぱりいらない」と言い出すのではないかと思ったのだろう。
しかしこの反応からするにゴルドは彼女が「専門奴隷」という謎の職業であることは知らないらしい。俺たちが猫を見つけても何の猫かまでは判別できないように、ひとくくりに奴隷とだけ呼ばれていても実は俺にだけ分かるもっと細かい分類があるのだろうか。
余計なことを言って値段を上げられても困るし、ここはそのことは黙っておくか。
「いや、ちょっと彼女は可愛いと思ってな」
「いくら顔が良くても職業が奴隷ではな」
ゴルドはそう言って肩をすくめる。
この世界ではこのように職業差別が横行しているらしい。言われてみれば、夫婦で職業の何となくの価値にそこまで差があることはあまり聞いたことがない。
仮に職業に差があるとしても、価値がない職業を持っている側が地位か富を手に入れた場合、つまり他の何かで職業の差を埋めた場合が多い。
ならば娼館のようなところで働かせればいいかもしれないが、そういうところでも職業は娼婦、もしくは普通の職業が好まれ、奴隷は安いとか。
が、そこでゴルドは下卑た笑みを浮かべて思いもよらないことを言う。
「それなら職業と言わず、彼女自身も買うか?」
「え?」
「お前の力で娼婦とかにすればそれなりに役に立つだろ」
「それは確かにいいかもしれないな」
専門奴隷という他の人からは識別されない職業が何なのか俺は気になったが、俺は職業の効果を試すことは出来ない。ならばリン自身で試してみたいという意味で頷いたのが、会話の流れからすると俺は好色な意図で頷いたようにしか見えないだろう。とはいえそれはそれで話が早いかと思い、特には否定しない。
リンは警戒の表情を浮かべ、ゴルドはさらににやつく。
「いいだろう、とはいえこんな子供じゃ大した値段にならないし、売り先を見つける手間も省けるからこれぐらいでいいぞ」
「分かった」
提示された金額は人間の値段としてはあまりに安かったが、今は好都合だ。
俺は職業の代金と合わせてゴルドに銀貨を渡す。
「と言う訳で今日からお前のご主人様はこの男だ。せいぜい気に入られるようにな」
「は、はい」
そう言ってリンは硬い表情で俺を見た。
「ああ、よろしくな」
「は、はい」
そしてゴルドは俺にリンの首輪から伸びている鎖を渡して去っていった。
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