上 下
49 / 56
ダークドワーフのオルギム

再会は意外と早い

しおりを挟む
 その後、俺とマキナはそわそわしながらも何も出来ない日々を送っていた。ダークドワーフがどのような決断をするのか。王国がダークドワーフを受け入れるのか。

 王国は情勢的にダークドワーフを敵に回すのは良くないが、かといって深く考えずに受け入れを表明して後で迫害などが起こっても困る。

 俺たちに出来ることは周辺の見回りぐらしかないが、することがないからといってのんびりした気持ちになることも出来ず、ぴりぴりしていた。

 しかも王都もダークドワーフの集落もここからの距離はかなりあるため、結果がすぐに分かることもない。

 そんなじらすような日々が十日ほどが経過した後のことである。
 不意にうちのドアがノックされた。

「誰だ?」
「誰だと思います?」

 聞きなれた声でそう尋ねられてすぐに分かった。このきれいな声はミリアの声だ。しかしなぜ彼女がここに? さてはまた何かあって追放されたのか、と一瞬嫌な想像が脳裏をよぎってしまう。

「ミリア!」
「ふふっ、正解です」
「聞きたいことは色々あるが、とりあえず入ってくれ」

 そう言って俺がドアを開けると、そこには旅装に大きめの手荷物をぶら下げたミリアが立っていた。しかし最初に会ったときのような暗い様子はなかったので安堵する。
 彼女は俺の顔を見て嬉しそうな表情を浮かべる。

「アルスさん! お久しぶりです」
「そうだな。と言っても一か月も経ってないが。いえいえ、これまで毎日一緒だったことを考えると久しぶりですよ。マキナさんもお久しぶりです」
「ああ、ミリア、会いたかったぞ」

 俺たちはしばしの間再会を喜び合う。

「……で、ミリアは何しに来たんだ? 王都は大丈夫なのか?」
「そうですね。とりあえずエレナに積極的には味方していなかった貴族や将軍を集めて新しい政治体制らしきものは出来ました。もちろん政治的な駆け引きはまだ色々あると思いますが、しばらくは小康状態と言えるでしょう」
「それは良かった」

 とはいえ、実際は内輪争いをするほどの余力もない、と言うのが正確なのだろうが。

「そんな時、アルスさんからダークドワーフを受け入れるかどうかを問われる手紙が来たので皆困ってしまったのです。アルスさんも想像がつくと思いますが、王宮にダークドワーフと会ったことがある者などおりません」
「まあ、俺も今回の件で初めて会ったからな。会ってみると普通のドワーフと変わらないような気もするが、プライドが高そうだから下手なことをすると大変なことになりそうだ」

 オルギムの話を聞く限り、王国が普通に人間に命令するのと同じテンションでダークドワーフに無茶なことを命令してしまえば、すぐに反乱を起こしそうな気もする。

「そういう訳でダークドワーフがどんな集団か判断するために私が派遣されてきた訳です」
「うんうん……ん?」

 ミリアの話は理屈が通っているようでいて引っ掛かるところがあった。

「ダークドワーフがどんな集団か判断するのは俺じゃだめなのか?」
「いや、えーっと、ほら、やはりそういうのは今何の役職にもついていないアルスさんだと問題があるので、一応第三王女である私が」

 急にミリアの言葉がしどろもどろになる。確かに俺は今役職はないが、今の王国がそんな細かいことを気にするとは思えない。俺に判断させるなり、判断材料を遅らせて王宮で判断するなりすればいいのだ。
 そんなミリアの不審な様子から俺は一つの結論に辿り着く。

「ミリア、もしかして王宮にいるのが面倒になってこの件をだしにして抜け出して来たのか?」

 俺の言葉にミリアは図星を突かれたように沈黙する。
 が、やがて不満そうな顔で口を開く。

「そんなこと言ったらアルスさんも同じじゃないですか」
「それは確かにそうだ」

 そう言われると俺は何も反論できない。

「二人でこっちでわずらわしいことから逃れてのんびり暮らすなんてずるいです!」
「そ、それは申し訳ない」

 なぜかマキナが申し訳なさそうにしている。こっちはこっちだって色々大変だったのだが、と言おうとして言葉を飲み込む。大変なことでも人間には得意不得意がある。俺もミリアも魔族とのごたごたよりも王宮内のごたごたの方が苦手なのだろう。

「じゃあミリアがいいって言えば俺たちはどんな決断をしても後から文句を言われることはないって訳だな?」
「そうなりますね」
「それなら改めてこの前あったことを話そう」
「あ、ちょっと待ってください」

 そう言ってミリアは家の中を見回す。俺とマキナは家事が得意ではない上に色々ごたごたしていたことを言い訳にしてちらかしてしまっていたため、室内はかなり乱れていた。ミリアはそんな家の中をじっと見回す。何も言われなくても、まるで責められているような気分になってしまう。

「まあいいでしょう。とりあえず、お茶淹れますね」
「あ、ありがとう」

 本来は迎えるサイドの俺たちが淹れておくべきなのだが、こればかりは仕方ない。間もなくミリアが淹れてくれた紅茶の香りが漂ってくる。

「ああ、この香りでようやく帰ってきた気分になった」
「そうだな」
「では改めて、お話してください」
「分かった」

 そして俺はオルギムと会ったときのことや彼から聞いた話を詳細に話す。
 聞き終えたミリアは眉をひそめた。

「それはまた大変そうですね。そして話を聞く限り、私たちが彼らを受け入れるかどうか判断を下す前に事態は決まってしまいそうです」
「そうなんだよな」

 おそらく、もうすぐダークドワーフたちが何らかの結論を下すだろう。彼らが恭順を選べば俺たちにはどうすることも出来ない。
 とはいえミリアが来たということは、彼らが人間を頼るという選択をしたときに受け入れるという判断が出来るようになったということなので、進展はしている。

 その時だった。
 再び家のドアが激しくノックされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ヒーラーの方が安上がりだと追放されたが私じゃないと患者さん死にますよ?~治せないから戻ってこい?『ドクター』スキルでもあなたたちは手遅れです

つくも
ファンタジー
「貴様の代わりなどヒーラーでも務まる! クビだ! シオン・キサラギ!」 ブラックギルド【ブラック・リベリオン】でドクターをしていたシオンは日々、過酷な業務をこなし、ギルドメンバーの怪我や病気を治していた。そんなある日の事、シオンは代わりに安く雇えるヒーラーを雇うからとクビになってしまう。 「ヒーラーではなくドクターにしか治せない怪我や病気もあります! このままではギルドは大変な事になります!」 事実を告げたが、クビを逃れたいが故の見苦しい言い訳だと断定され、ギルド長にクビを言い渡される。しかしギルド長は知らなかった。シオンの言っている事は本当でありスキル【ドクター】は唯一無二のチートスキルであった事。そして彼がヒーラーでは代用できない特別な存在である事を。 途方に暮れていたシオンはモンスターに襲われている獣人の少女を助ける。彼女は獣人の姫を名乗る。彼女は病に犯された獣人の国を救う為にドクターであるシオンを頼ってきたのだ。 「わたし達の国には多くの病に犯された獣人達がいます! 是非我が国に来てください!」 こうして主人公は獣人の国に専属ドクターとして超好待遇で招かれる事となる。そこでシオンは遺憾なく手腕を発揮していき『神の手(ゴッドハンド)』と呼ばれ崇められる。 一方その頃、ブラックギルドではシオンの言う通り、ドクターでしか治せない怪我や奇病が大量発生し、ストライキが起こるなど労務問題が起こる。 シオンを執拗に呼び戻そうとした結果、獣人国との抗争を起こしかける。それを恐れた王国がブラックギルドの監査に入り、悪事が暴かれ、ギルドは解体されていく。 ※ 私って言ってますけど男主人公ものです。 旧題 獣人の国の宮廷ドクター〜ブラックギルドでこき使われヒーラーでも代わりは効くと追放されたがチートスキル【ドクター】は唯一無二のものでした。私じゃなきゃ治せないから戻ってこいと言われても、もう手遅れですよ ※カクヨム アルファポリスでも掲載中

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...