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ダークドワーフのオルギム
ドワーフのオルギム
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音のする方に向かうと、そこではオーク数体が一体の肌が褐色のドワーフの男と打ち合いしていた。オークたちは棍棒を、ドワーフは斧を持って激しく戦っている。体格や腕はドワーフの方がよさそうだが、囲まれているため劣勢だ。
「もしかしてあれがダークドワーフか?」
「ああ、そうだ。この辺りで見かけるのは初めてだが」
俺の言葉にマキナが頷く。普通のドワーフは人間とそこまで肌の色が変わらないが、彼は明らかに暗い色をしている。
ちょうどダークドワーフたちの様子を見にいこうとしていたところで彼と出会えたのは幸運だったかもしれない。
「よし、マキナは力を使わないでくれ」
「分かった」
「アルケミー・ボム!」
俺はドワーフの男を巻き込まないようわざと少し離れたところで魔法の爆弾を爆発させる。すぐ後ろで爆音を鳴らされたオークたちは驚いて飛び上がると、実力差を理解したのかそのまま逃げていった。
残されたダークドワーフの男はあっけにとられた様子でこちらを眺める。
「助けてくれてありがとう……と言いたいところだが、魔族領を歩いているおぬしたちは何者だ?」
「色々あって魔族の事情を探っているものだ。そちらこそこの辺りはダークドワーフの棲み処からは大分離れているが、どうしたんだ?」
「ふむ……」
彼はしばしの間俺たちを値踏みするように交互に見る。俺たちが信用に値するのかを考えているのかもしれない。
「おそらくおぬしらも魔族と味方ということはないだろうし、話してもいいだろう。わしはダークドワーフのオルギムという。普段は北の山脈で仲間たちだけで暮らしている。人間との交流はないが、たまに魔族には武器を売ることはあった」
ダークドワーフたちも暮らす上で最低限の金銭を稼ぐ必要はあったのだろうが、彼らは鍛冶が得意だから魔族に武器を売り、そのお金で食糧などを買っていたのだろう。
「俺は錬金術師のアルスだ」
「わらわはマキナだ」
マキナが馬鹿正直に名乗って冷やりとしたが、幸いオルギムはマキナの名を知らないようでほっとする。魔族の情報についても疎いらしい。
「そんな風に我らはひっそりと生きていたのだが、ある日突然魔族のゴルゴールという男がやってきて、我らに高威力の“魔導砲”を作れと言ってきた」
「魔導砲?」
そんな言葉は初めて聞いたので訊き返してしまう。
「ああ。簡単に言えば魔力を動力にして砲弾を打ち出す装置だ」
「なるほど」
「でも物理的な砲弾であれば結界を破る役には立たないのではないか?」
マキナが疑問を述べる。
「まあな。だが、魔族が結界の外に魔導砲を並べてひっきりなしに人間の街や村を砲撃してこれば大変なことになる。そうすれば人間は結界の外に打って出るか、結界側の街や村を放棄するしかなくなるからな。もし人間が王国の内側に逃げていけば、今度は人間を恐れず結界を破る手段を考えることが出来る」
「おお、ゴルゴールの奴も意外と考えているんだな」
マキナはそう言って感心する。
むしろそんなに考え無しだと思われていたのか。
「我らはゴルゴールの要求を呑むかどうか話し合った。報酬のために受け入れようという者や、そこまで魔族に味方してしまっては人間に報復を受けるのではないかいう者もいた。が、最終的に断ることになった。まあ我らが造りたいのは魔導砲ではなく、剣や斧だからな」
そう言ってオルギムはがはは、と豪快に笑う。
そんな職人気質の理由で重大事の判断を決めたのか。が、そこで急にオルギムは真顔になる。
「だが、ゴルゴールは諦めなかった。そしていつものように武器を売りにいった我らの仲間を拘束すると、彼らを生きて返して欲しければ魔導砲を造るよう要求してきたのだ」
「何だと!?」
「元々我らはそこまで数が多い訳でもないため、魔族が本気で恫喝をかけてこれば戦力ではかなわない。そこで我らは表向きは要求を呑むことにして魔導砲の建造を開始した。だが、そのようなやり方を許しておくわけにもいかない。密かに対策を協議して我らは人間に助けを求めることにした。我らと人間が同時に攻め込めば魔族に勝利することも可能だろう。人間は我らをよく思っていないだろうが、それよりも強引な恫喝をかけてきた魔族を倒すことの方が重要だからな」
話を聞く限り彼らは誇り高い種族のようらしい。これまで孤独を貫いてきたのは、人間と交流すれば人間に従属する形になることを薄々察しているからではないか。
それを捨てる可能性があっても魔族の脅迫には屈したくないという気持ちが勝ったらしい。
「それでわしは人間領を目指して旅していたが、たまたま魔族と小競り合いになっていたという訳だ」
なるほど、事情は分かったが残念ながら彼らの策はうまくいかないだろう。
「申し訳ないが、その作戦はうまくいかない。今人間の王国は大規模な政変が起こった直後で魔族に攻め入るほどの余力はない。むしろ賢者の石の力でどうにか持ちこたえているといっても過言ではない」
「何だと」
俺の言葉にオルギムが驚愕する。世の中から孤立して生きてきた彼らはやはりそこまでは知らなかったらしい。
「それでは我らはゴルゴールに屈するしかないと言うのか!?」
「まあ待ってくれ。俺たちも魔導砲なんてものを造られるのは困る。解決方法を考えようではないか」
「あ、ああ」
こうして俺たちは期せずしてダークドワーフを助けることになったのである。
「もしかしてあれがダークドワーフか?」
「ああ、そうだ。この辺りで見かけるのは初めてだが」
俺の言葉にマキナが頷く。普通のドワーフは人間とそこまで肌の色が変わらないが、彼は明らかに暗い色をしている。
ちょうどダークドワーフたちの様子を見にいこうとしていたところで彼と出会えたのは幸運だったかもしれない。
「よし、マキナは力を使わないでくれ」
「分かった」
「アルケミー・ボム!」
俺はドワーフの男を巻き込まないようわざと少し離れたところで魔法の爆弾を爆発させる。すぐ後ろで爆音を鳴らされたオークたちは驚いて飛び上がると、実力差を理解したのかそのまま逃げていった。
残されたダークドワーフの男はあっけにとられた様子でこちらを眺める。
「助けてくれてありがとう……と言いたいところだが、魔族領を歩いているおぬしたちは何者だ?」
「色々あって魔族の事情を探っているものだ。そちらこそこの辺りはダークドワーフの棲み処からは大分離れているが、どうしたんだ?」
「ふむ……」
彼はしばしの間俺たちを値踏みするように交互に見る。俺たちが信用に値するのかを考えているのかもしれない。
「おそらくおぬしらも魔族と味方ということはないだろうし、話してもいいだろう。わしはダークドワーフのオルギムという。普段は北の山脈で仲間たちだけで暮らしている。人間との交流はないが、たまに魔族には武器を売ることはあった」
ダークドワーフたちも暮らす上で最低限の金銭を稼ぐ必要はあったのだろうが、彼らは鍛冶が得意だから魔族に武器を売り、そのお金で食糧などを買っていたのだろう。
「俺は錬金術師のアルスだ」
「わらわはマキナだ」
マキナが馬鹿正直に名乗って冷やりとしたが、幸いオルギムはマキナの名を知らないようでほっとする。魔族の情報についても疎いらしい。
「そんな風に我らはひっそりと生きていたのだが、ある日突然魔族のゴルゴールという男がやってきて、我らに高威力の“魔導砲”を作れと言ってきた」
「魔導砲?」
そんな言葉は初めて聞いたので訊き返してしまう。
「ああ。簡単に言えば魔力を動力にして砲弾を打ち出す装置だ」
「なるほど」
「でも物理的な砲弾であれば結界を破る役には立たないのではないか?」
マキナが疑問を述べる。
「まあな。だが、魔族が結界の外に魔導砲を並べてひっきりなしに人間の街や村を砲撃してこれば大変なことになる。そうすれば人間は結界の外に打って出るか、結界側の街や村を放棄するしかなくなるからな。もし人間が王国の内側に逃げていけば、今度は人間を恐れず結界を破る手段を考えることが出来る」
「おお、ゴルゴールの奴も意外と考えているんだな」
マキナはそう言って感心する。
むしろそんなに考え無しだと思われていたのか。
「我らはゴルゴールの要求を呑むかどうか話し合った。報酬のために受け入れようという者や、そこまで魔族に味方してしまっては人間に報復を受けるのではないかいう者もいた。が、最終的に断ることになった。まあ我らが造りたいのは魔導砲ではなく、剣や斧だからな」
そう言ってオルギムはがはは、と豪快に笑う。
そんな職人気質の理由で重大事の判断を決めたのか。が、そこで急にオルギムは真顔になる。
「だが、ゴルゴールは諦めなかった。そしていつものように武器を売りにいった我らの仲間を拘束すると、彼らを生きて返して欲しければ魔導砲を造るよう要求してきたのだ」
「何だと!?」
「元々我らはそこまで数が多い訳でもないため、魔族が本気で恫喝をかけてこれば戦力ではかなわない。そこで我らは表向きは要求を呑むことにして魔導砲の建造を開始した。だが、そのようなやり方を許しておくわけにもいかない。密かに対策を協議して我らは人間に助けを求めることにした。我らと人間が同時に攻め込めば魔族に勝利することも可能だろう。人間は我らをよく思っていないだろうが、それよりも強引な恫喝をかけてきた魔族を倒すことの方が重要だからな」
話を聞く限り彼らは誇り高い種族のようらしい。これまで孤独を貫いてきたのは、人間と交流すれば人間に従属する形になることを薄々察しているからではないか。
それを捨てる可能性があっても魔族の脅迫には屈したくないという気持ちが勝ったらしい。
「それでわしは人間領を目指して旅していたが、たまたま魔族と小競り合いになっていたという訳だ」
なるほど、事情は分かったが残念ながら彼らの策はうまくいかないだろう。
「申し訳ないが、その作戦はうまくいかない。今人間の王国は大規模な政変が起こった直後で魔族に攻め入るほどの余力はない。むしろ賢者の石の力でどうにか持ちこたえているといっても過言ではない」
「何だと」
俺の言葉にオルギムが驚愕する。世の中から孤立して生きてきた彼らはやはりそこまでは知らなかったらしい。
「それでは我らはゴルゴールに屈するしかないと言うのか!?」
「まあ待ってくれ。俺たちも魔導砲なんてものを造られるのは困る。解決方法を考えようではないか」
「あ、ああ」
こうして俺たちは期せずしてダークドワーフを助けることになったのである。
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