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序章 追放

辺境

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 その後俺はすぐに衛兵たちに連行されて馬車に載せられる。俺にはもう全く抵抗する気はなかったが、一応俺の魔法の腕を警戒して物々しい護衛がついていた。

「しかしあなたには同情しますよ」

 道中、俺の隣に座っていた兵士の隊長がしみじみと言った。さすがに兵士たちもこの急な追放劇をそのまま信じている訳ではないらしい。たまたま俺の弟子が俺より先に賢者の石を開発し、俺が禁忌魔術に手を出すなんて荒唐無稽な話だ。
 俺が黙っていると隊長は勝手に言葉を続ける。

「クルトは手柄を立てた後にあなたがいるのが邪魔になったとかそんな理由でしょうが、エレナ殿下がなぜそれに加担したのか分かります?」
「確かに。冷静に考えるとエレナがわざわざクルトの味方をする理由ってないよな」

 正直今となってはエレナの心中などどうでも良かったが、不思議ではある。クルトが俺より優秀な錬金術師というなら分からなくはないが、そういう訳ではない。ちなみに彼の顔が特別いいという訳でもない。

「昔エレナ殿下が発表して喝采を浴びた理論があったんですが、あなたはそれを否定するような研究を発表したでしょう。それ以来、殿下はずっと根に持っていたようですよ」
「そうだったのか」

 俺は耳を疑った。彼の言葉を聞くとまるで俺が王女に食って掛かったように聞こえるが、俺はただ研究結果を発表し、結果的にエレナの間違いを示すことになっただけである。だから俺はそのことを全く気にしてなかったし、向こうもそうだと思っていた。

「多分あなた以外は皆そのことを知っていると思いますよ。まさか追放したくなるほどとは思ってませんでしたが」
「本当か!?」

 そんなに有名な話だったのか。改めて俺は己の迂闊さを呪う。一番弟子の裏切りに気づかず、王女に恨まれていたことにも気づかない。
 確かに冷静に考えてみればプライドが高いエレナの研究を真っ向から否定することになってしまった以上、気にしていても不思議ではない。

「そうか。そこまで気が回らなければ足元も掬われるよな」
「すみませんねえ。我々も仕事を完遂出来ないとクビが掛かっているので。ですからどうか脱走とかせず穏便に追放されてもらえませんかねえ」
「はぁ」

 別に脱走しなくても国境を跨げば解放される以上、面倒なことをする気はない。こんなことになった以上、しばらくはどこか人のいない山奥で一人で静かに暮らそう。俺はより決意を固くした。





 こうして一週間ほどの旅(?)の後、馬車は国境を跨いだ。
 馬車が止まったのは王国の西方にそびえたつ山中であり、見晴らしのいいところからは魔族領となっている荒野が見渡せる。荒野に置き去りにされなかったのはせめてもの優しさだろう。

「では」

 隊長は申し訳なさそうに頭を下げるとその一言を残して去っていった。

 残された俺は周囲を見渡して溜め息をつく。周囲には鬱蒼と木が茂り、食べられそうな木の実や小動物がいるのは見える。とはいえ俺は王宮での暮らしに慣れてしまっている。

「とりあえず工房兼家を作るか」

 住む場所がなければ雨をしのぐことも出来ない。俺は森を出て、木々がない開けたところに出る。西には荒野が広がり、東には王国が広がっていて見晴らしも良い。逃亡阻止のため、基本的に俺の持ち物は全て没収されていたが、途中の宿で見つけた鉄のスプーンを数本、密かに俺はポケットに入れて持ってきていた。スリのようなことをしてしまったのは心が痛むが永久追放になっている以上今更その程度の余罪が何だ、という気持ちもあった。

「クリエイト・ソード」

 スプーンを目の前に置いて呪文を唱えると、鉄くずはみるみるうちに剣の形になる。本当はもっといい剣が欲しいが、今はこれしか素材がないから仕方ない。

「エンチャント、エンハンス・シャープネス、エンパワード」

 そして俺は知っている限りの強化魔法を剣に付与する。ただの剣でもこれだけ強化すればその辺の木ぐらいは斬れるだろうか。俺は強化された剣を斧のようにその辺の木に振り降ろす。
 すると大した力を入れた訳でもないのに、まるで包丁で野菜を斬るようにすぱすぱと木が斬れて倒れていく。

「意外と木って大したことないんだな」

 そんなことを言いつつある程度の木を切ると、俺は斬った木を空き地に集める。正直木を斬るよりも斬った木を運ぶ方が重くてしんどかった。そして木材を前に俺は魔法を使う。

「クリエイト・ハウス」

 錬金術師は本人が構造を熟知していて素材が揃っていれば魔法でその組み立てを行うことが出来る。俺の魔法で目の前の木材は瞬く間に組み上がり、一軒の家になっていく。

「次は食べ物か……クリエイト・トラップ」

 俺が唱えると剣の形になっていた鉄が次は野生動物を捕まえる罠の形に変化する。もう少したくさんの金属があればもっと色々なものが作り出せるのだが、今は我慢だ。
 俺は動物が脚を踏み入れると仕掛けが反応して脚を挟む古典的な罠を森の中に仕掛け、草で隠す。
 そして動物がかかるのを待つ間、家を建てる際に余った木材を使ってテーブルやいすを組み立てていた。最初はがらんとしていた家の中も家具が配置されると一応それらしくなる。

 それから俺は罠のところに向かう。するとそこには脚をとられた兎がいた。
 俺は罠と兎を回収すると家の中に持ち帰り、今度は包丁を錬成して兎を解体し、剣を鍋に作り変える。そして近くの川から水を汲んで兎肉と水を鍋に入れる。

「クリエイト・スープ」

 論理的にはこれでおいしいシチューが出来るはずだったが、どういう訳か料理だけは魔法で作るとあまり上手くいかなかった。今も目の前ではおいしくもまずくもないスープが出来上がっている。

「色々あったが、とりあえず直近の目標はもう少し金属の道具を作れるようにすることと、料理の練習だな」

 仕事がなくなった以上、余った時間で料理に凝ってみるのもいいかもしれない。また生活を便利にするためにはやはりもう少し金属が欲しい。鉄さえあれば後は魔法で道具に加工できるのだが。改めて錬金術の工房を作ろうにも最低限の金属や魔道具は欲しい。

 色々足りないものはあるが、何にせよ今後に目標が出来るのはいいことだ。追放のショックも手を動かしていればその間は忘れられる。

 そんな風に思っていた時だった。突然、遠くからごごご、と地鳴りのような低い音が聞こえてきた。
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