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Ⅲ
支度
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その後私たちは記念式典に出向く支度を始めました。
とはいえ、支度というのはもっぱらアーノルド男爵がお金やその他諸々の物を無心するのが主でしたが。
私にとって嬉しかったのは、一度お屋敷に服飾商の方がやってきたときです。アーノルド一族の服装を選ぶため、彼らは王都の外れに建つ私たちの屋敷まで大きな荷車を曳いてやってきてくれたのです。その中には私が見たことのないような色とりどりのドレスが入っていました。
それを見て私だけでなく、大きなパーティーに出たことのないブラッドも目を見張ります。
そして普段よりも少し機嫌が良い男爵夫人が私にも声を掛けてくれます。
「今日は誰にも気を遣わずに好きなドレスを選んでいいのよ」
「ありがとうございます」
やがて何人かの商人がそれぞれ大きな箱を持って屋敷の中に入ってきます。私の中にも若い女性が一人、大きな箱を持ってやってきます。服飾商人だけあって、平民ながらもおしゃれな装いをしていて感心します。
そして私たちは一緒に屋敷の空いている部屋に入りました。
「今日はよろしくお願いいたしますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「それでは早速ですが、こちらの中から好みのものをお選びください」
そう言って彼女は色とりどりのドレスを私に見せます。いつもはエイダやジェーンが着ているのを眺めるばかりでしたが、ようやく自分もきらびやかな服を着られると思うと胸が躍ります。
「でしたらこちらでお願いします」
私は並んでいるドレスの中から一着を選びます。全体的に落ち着いた濃い青の配色で、どちらかというと大人し気な雰囲気のものです。
すると女性は少し驚いたように言いました。
「これでよろしいのですか? せっかくお綺麗なのでもう少し派手なものでもよろしいのでは?」
「そうでしょうか? ですが大人しめの色の方が落ち着きますので」
「そうですか。でしたらフリルやリボンなどの装飾を足してみるというのはいかがでしょうか?」
「え、そんなことが出来るのですか?」
私が驚くと、彼女の方も驚きます。
「はい、どの道寸法を直さなければいけませんので、その際にある程度の要望でしたら叶えることが出来ますが」
「すみません、実はこういうのを頼むのは初めてで」
私は少し恥ずかしくなります。普通の貴族令嬢たちはこういう経験はあって当然なのでしょう。
「なるほど、そういうことですか。でしたら差し出がましいかもしれませんが、こちらからご提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
「是非お願いします」
この手のことにかけては経験がない私よりも専門の女性の方が絶対適任です。
すると彼女はしばらく考えた末、私が選んだドレスの袖口や襟元に大胆に装飾をあしらいます。またそれだけではなく、ネックレスやブレスレットなどもいくつも見せてくれます。
確かにきれいではあるのですが、それらを見て私は不安になります。
「こんなに派手に着飾っても大丈夫ですか?」
「はい、パーティーというのはそういうものです。それに、キャロル様は元がお美しいので下品に見えることもありませんよ」
一瞬商売人によくあるお世辞かとも思いましたが、そもそもアーノルド家に対する好意でやってくれている以上、多少社交辞令が含まれていたとしても全くのお世辞ということもないでしょう。
私は先ほどの男爵夫人の言葉を思い出します。
これまでエイダやジェーンが着飾っているのを見て羨ましいと思う気持ちがなかったと言えば嘘になります。
「でしたら、これでお願いします」
「はい、でしたら体にあててみましょうか」
そう言って彼女は、装飾品を仮止めしたドレスを私の体に当ててくれます。鏡を見ると、そこにはきれいなドレスに身を包んだ私が立っていました。
これまで使い古しの服ばかり着ていたこともあって、まるで別人のようです。
そしてそんな私の姿を見て女性も息をのみました。
「お綺麗ですね! これだけでもすごいのに、きちんと寸法を直して、お化粧やヘアアレンジもすればさらにイメージが変わりますよ」
「本当ですか!?」
今でも十分別人なのに、この上さらに変わることが出来るとは。
その後私はさらに寸法を測ったり、お化粧や髪型の打ち合わせをしたりして、その日はお別れしたのでした。
とはいえ、支度というのはもっぱらアーノルド男爵がお金やその他諸々の物を無心するのが主でしたが。
私にとって嬉しかったのは、一度お屋敷に服飾商の方がやってきたときです。アーノルド一族の服装を選ぶため、彼らは王都の外れに建つ私たちの屋敷まで大きな荷車を曳いてやってきてくれたのです。その中には私が見たことのないような色とりどりのドレスが入っていました。
それを見て私だけでなく、大きなパーティーに出たことのないブラッドも目を見張ります。
そして普段よりも少し機嫌が良い男爵夫人が私にも声を掛けてくれます。
「今日は誰にも気を遣わずに好きなドレスを選んでいいのよ」
「ありがとうございます」
やがて何人かの商人がそれぞれ大きな箱を持って屋敷の中に入ってきます。私の中にも若い女性が一人、大きな箱を持ってやってきます。服飾商人だけあって、平民ながらもおしゃれな装いをしていて感心します。
そして私たちは一緒に屋敷の空いている部屋に入りました。
「今日はよろしくお願いいたしますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「それでは早速ですが、こちらの中から好みのものをお選びください」
そう言って彼女は色とりどりのドレスを私に見せます。いつもはエイダやジェーンが着ているのを眺めるばかりでしたが、ようやく自分もきらびやかな服を着られると思うと胸が躍ります。
「でしたらこちらでお願いします」
私は並んでいるドレスの中から一着を選びます。全体的に落ち着いた濃い青の配色で、どちらかというと大人し気な雰囲気のものです。
すると女性は少し驚いたように言いました。
「これでよろしいのですか? せっかくお綺麗なのでもう少し派手なものでもよろしいのでは?」
「そうでしょうか? ですが大人しめの色の方が落ち着きますので」
「そうですか。でしたらフリルやリボンなどの装飾を足してみるというのはいかがでしょうか?」
「え、そんなことが出来るのですか?」
私が驚くと、彼女の方も驚きます。
「はい、どの道寸法を直さなければいけませんので、その際にある程度の要望でしたら叶えることが出来ますが」
「すみません、実はこういうのを頼むのは初めてで」
私は少し恥ずかしくなります。普通の貴族令嬢たちはこういう経験はあって当然なのでしょう。
「なるほど、そういうことですか。でしたら差し出がましいかもしれませんが、こちらからご提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
「是非お願いします」
この手のことにかけては経験がない私よりも専門の女性の方が絶対適任です。
すると彼女はしばらく考えた末、私が選んだドレスの袖口や襟元に大胆に装飾をあしらいます。またそれだけではなく、ネックレスやブレスレットなどもいくつも見せてくれます。
確かにきれいではあるのですが、それらを見て私は不安になります。
「こんなに派手に着飾っても大丈夫ですか?」
「はい、パーティーというのはそういうものです。それに、キャロル様は元がお美しいので下品に見えることもありませんよ」
一瞬商売人によくあるお世辞かとも思いましたが、そもそもアーノルド家に対する好意でやってくれている以上、多少社交辞令が含まれていたとしても全くのお世辞ということもないでしょう。
私は先ほどの男爵夫人の言葉を思い出します。
これまでエイダやジェーンが着飾っているのを見て羨ましいと思う気持ちがなかったと言えば嘘になります。
「でしたら、これでお願いします」
「はい、でしたら体にあててみましょうか」
そう言って彼女は、装飾品を仮止めしたドレスを私の体に当ててくれます。鏡を見ると、そこにはきれいなドレスに身を包んだ私が立っていました。
これまで使い古しの服ばかり着ていたこともあって、まるで別人のようです。
そしてそんな私の姿を見て女性も息をのみました。
「お綺麗ですね! これだけでもすごいのに、きちんと寸法を直して、お化粧やヘアアレンジもすればさらにイメージが変わりますよ」
「本当ですか!?」
今でも十分別人なのに、この上さらに変わることが出来るとは。
その後私はさらに寸法を測ったり、お化粧や髪型の打ち合わせをしたりして、その日はお別れしたのでした。
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