上 下
15 / 22

マイルズの意図

しおりを挟む
 オーレンと話してから、私もマイルズが何を考えているのか気になるようになってきた。相変わらず部屋からは出してもらえないが、彼が何を考えているのかを調べることは軟禁されたままでも出来る。

 そう考えた私は次の日、思い切ってご飯を届けにきてくれたメイドに頼んでみることにした。

「すみません、マイルズ殿下の最近の動向について可能な限りで聞いてきてもらえませんか?」
「分かりました。外に連れ出す以外でしたら可能な限り要望をかなえるよう言われているので協力いたします」

 メイドは私の要望にあっさり頷いた。

 そして翌日、いつものようにメイドが朝食を届けにくる。そして朝食をテーブルに並べながら口を開いた。

「ヘレン様、マイルズ殿下についていくつかの話を聞いてまいりました」
「本当に!? ありがとうございます!」
「いえ、お礼を言われるほどのことではありません。まず、この国の貴族たちは残念ながら殿下のことを嫌っている者が多いようです。元々の殿下のやり方に加え、このたびの件で殿下はオールディズ王国への反撃の指揮や和議でかなり大きな力を振るいました。その際に貴族たちは恩賞を期待して攻め込んだ訳ですが、殿下が素早く和議を結ぶことを主張したのを恨んでいるようです」
「どういうことですか?」
「ヘレン様の前で言うのは心苦しいですが、我が国の者たちは一度の勝利に気を良くし、戦い続ければもっと攻め入ることも出来ると考えている者が多いです。それが当たっているのかどうかは私には分かりかねますが」

 戦争は相手がいることだというのに、どちらの国も勝てるだろう、と思っているというのは滑稽なことだ、と思った。

「オールディズ王国に連勝すればたくさんの領地を奪うことが出来るでしょう。そうなれば貴族たちにも領地が分配されるはずです。しかし賠償金で手を打てば、貴族たちはわずかなお金が配られて終わってしまいます。貴族たちはそれに不満だったようで彼らは王国にさらに攻め込むように強硬に主張しましたが、それを殿下はかなり強引に止めたようです」
「そうなのですか」

 ということはもしマイルズがいなければ、今も戦争が続いていた可能性が高いということか。勝ち負けがどうなるのかは分からないけど、我が国に多くの犠牲が出ていたことは想像に難くない。
 それを殿下が止めてくれたのか。

「その理由はどうしてでしょう?」
「さあ……殿下は『元々オールディズ王国に立場を分からせるだけで良かった。長期戦は我が国の財政を疲弊させるだけ』とおっしゃっていたらしいですが、本心かどうかまでは」

 しかし、マイルズによると元々彼は私を手に入れるために戦いが始まるように仕組んだと言っていた。それが本当なら、マイルズは私を手に入れるという最低限の目的を達成した後は我が国を戦火から守ってくれたという解釈も出来る。

「また、これは噂ですが『オールディズ王国を属国にしてその国民には強制労働させてはどうか』と主張した貴族に烈火のごとき怒りを見せたとか」
「そうなのですか」

 となると、やはりマイルズが私を手に入れるために今回の件を仕組んだというのは本当なのだろうか。
 そして、私のために王国が酷い状態になるのを防いでくれた?

「そのため、貴族の中では次期国王についてオーレン殿下を支持する者が増えたという者が増えたとか」

 元々王位を継ぐのは難しかったとはいえ、彼は頭がいいからその行動で余計にこの国の貴族の反感をかうのは分かっていたはずだ。
 それなのに、その危険を冒してでも私を救出してしかも祖国が酷いことにならないように配慮してくれたのか。

 彼の行動に改めて恐ろしさを感じるとともに、だんだんと私は彼が自分に好意(規模が大きすぎてそう表現していいのかは分からないが)を抱いていることを認めざるを得なくなるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈 
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

君は、妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは、婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でも、ある時、マリアは、妾の子であると、知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして、次の日には、迎えの馬車がやって来た。

みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています

中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。

【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」

まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。 ……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。 挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。 私はきっと明日処刑される……。 死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。 ※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。 勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。 本作だけでもお楽しみいただけます。 ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

私の可愛い悪役令嬢様

雨野
恋愛
 私の名前はアシュリィ。どうやら異世界転生をしたらしい。  私の記憶が蘇ったきっかけである侯爵令嬢リリーナラリス・アミエル。彼女は私の記憶にある悪役令嬢その人だった。  どうやらゲームの世界に転生したみたいだけど、アシュリィなんて名前は聞いたことがないのでモブなんでしょうね。その割にステータスえらいことになってるけど気にしない!  家族の誰にも愛されず、味方がただの一人もいなかったせいで悪堕ちしたリリーナラリス。  それならば、私が彼女の味方になる。侯爵家なんてこっちから捨ててやりましょう。貴女には溢れる才能と、無限の可能性があるのだから!!  それに美少女のリリーをいつも見ていられて眼福ですわー。私の特権よねー。  え、私?リリーや友人達は気遣って美人だって言ってくれるけど…絶世の美女だった母や麗しいリリー、愛くるしい女主人公に比べるとねえ?所詮モブですからー。  第一部の幼少期はファンタジーメイン、第二部の学園編は恋愛メインの予定です。  たまにシリアスっぽくなりますが…基本的にはコメディです。  第一部完結でございます。二部はわりとタイトル詐欺。 見切り発車・設定めちゃくちゃな所があるかもしれませんが、お付き合いいただければ嬉しいです。 ご都合展開って便利ですよね! マナーやら常識があやふやで、オリジナルになってると思うのでお気をつけてください。 のんびり更新 カクヨムさんにも投稿始めました。

虐げられるのは嫌なので、モブ令嬢を目指します!

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢の私、リリアーナ・クライシスはその過酷さに言葉を失った。  社交界がこんなに酷いものとは思わなかったのだから。  あんな痛々しい姿になるなんて、きっと耐えられない。  だから、虐められないために誰の目にも止まらないようにしようと思う。  ーー誰の目にも止まらなければ虐められないはずだから!  ……そう思っていたのに、いつの間にかお友達が増えて、ヒロインみたいになっていた。  こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなったのーー!? ※小説家になろう様・カクヨム様にも投稿しています。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

処理中です...