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厄介者
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隣国に人質に向かうと聞いた私は早速荷造りを始めた。この国に未練はないのかと訊かれれば、病気で臥せっている母上を残していくのが気がかりではあるが、他にはあまりない。
母上・兄上・姉上の三人は私を目の上のたんこぶのように扱っているし、日ごろは何も言わない父上も私を人質に指名するということはそういうことなのだろう。どうせ隣国との和平も出来るし、厄介者の私も追い出せるしで好都合、などと考えているのではないか。
私情と国の重大事を一緒にするのは短慮すぎるとはいえ、私があの家族たちからのけ者のような扱いを受けるのは今に始まったことではなかった。
ついこの間のことである。私たちはたまたま家族で夕食を一緒にとることがあった。その時にアンジェラが言う。
「キャサリン、あなたもう少ししたら誕生日なんじゃない?」
「そうね。覚えていてくれてありがとう、母上」
キャサリンは嬉しそうに答える。
「いえ、あなたは娘なんだから覚えてるのは当然じゃない」
するとアンジェラはやけに「あなたは娘」というところを強調して言う。
するとハロルド兄上もそれに気づいたのか、にやにやしながら頷く。
「そうだな、僕もキャサリンの誕生日は覚えているよ。何といっても実の妹だからね」
ハロルドも「実の妹」というところを強調している。要するに私のことは妹とも思っていない、ということを言いたいのだろう。また始まったと思ったが、私は気づかない振りをして黙々とご飯を食べる。こういうのは反応すればするほど向こうは楽しくなるから出来る限り無視が一番だ。
「ありがとう兄上。とても嬉しいわ」
そう言って、キャサリンもちらちらとこちらを見てくる。
そしてすぐに大袈裟に驚いた振りをして言う。
「まあ、私ったらヘレンの誕生日をすっかり忘れていたわ!」
「確かにそうだね。一体いつだったっけ、俺も覚えてないな」
「ごめんなさいね。キャサリンの分だけ覚えていてあなたのことは忘れてしまっていて。それでいつだったっけ?」
アンジェラはちっとも「ごめんなさい」と思っていなさそうな表情で二人に便乗してくる。無視しようかとも思っていたが、話を振られるとそうすることも出来ない。
「……三日前です」
私は憮然とした表情で答える。
するとキャサリンは手を叩いて笑った。そんなにおかしいだろうか。
というか、こいつらは元々私の誕生日が何もなく過ぎさったのを知ってこの煽りを始めたとしか思えない。
「あはは、三日前だって。ごめんね、すっかり忘れてたわ。全然祝えなくて。母上、可哀想だからヘレンも私のついでに祝ってあげて?」
「そうね、一応キャサリンのついでに祝ってあげようかしら」
二人は「ついで」というところだけやたら強調して言いながら、げらげらと笑い転げる。そんなに私に嫌がらせをするのがおかしいだろうか。
ちなみに父上はそんな私たちには無関心で何かを考えながら黙々と夕食を食べている。
「結構です」
これではお祝いというよりはただのつるし上げだ。
そう思った私はその提案を拒否する。するとなぜか、アンジェラは顔をしかめた。
「は? それが家族に誕生日を祝ってもらえる、と言われた時の態度な訳?」
「全く、本当にヘレンはひねくれ者だな。兄として僕は悲しいよ」
「忘れてたのが悪いと思ったからせっかく私と一緒に祝ってあげようと思ったのに……そんな言い方されたら悲しいわ」
アンジェラは怒り、ハロルドは呆れ、なぜかキャサリンは泣き出す。
それを見た父上も突然私をぎろりと睨む。そして低い声で言う。
「ヘレン、食事中に些細なことでいちいち突っかかるな! 夕食がまずくなるだろう!」
「御馳走様でした」
もはや聞いていられないと思った私は苛々しながら席を立ち、自室に戻るのだった。
血が半分しか繋がっていないから無視するとか愛情に差が出るとかならまだいい。でもこうしてしょうもない嫌がらせをしてくるのだけは許せなかった。
母上・兄上・姉上の三人は私を目の上のたんこぶのように扱っているし、日ごろは何も言わない父上も私を人質に指名するということはそういうことなのだろう。どうせ隣国との和平も出来るし、厄介者の私も追い出せるしで好都合、などと考えているのではないか。
私情と国の重大事を一緒にするのは短慮すぎるとはいえ、私があの家族たちからのけ者のような扱いを受けるのは今に始まったことではなかった。
ついこの間のことである。私たちはたまたま家族で夕食を一緒にとることがあった。その時にアンジェラが言う。
「キャサリン、あなたもう少ししたら誕生日なんじゃない?」
「そうね。覚えていてくれてありがとう、母上」
キャサリンは嬉しそうに答える。
「いえ、あなたは娘なんだから覚えてるのは当然じゃない」
するとアンジェラはやけに「あなたは娘」というところを強調して言う。
するとハロルド兄上もそれに気づいたのか、にやにやしながら頷く。
「そうだな、僕もキャサリンの誕生日は覚えているよ。何といっても実の妹だからね」
ハロルドも「実の妹」というところを強調している。要するに私のことは妹とも思っていない、ということを言いたいのだろう。また始まったと思ったが、私は気づかない振りをして黙々とご飯を食べる。こういうのは反応すればするほど向こうは楽しくなるから出来る限り無視が一番だ。
「ありがとう兄上。とても嬉しいわ」
そう言って、キャサリンもちらちらとこちらを見てくる。
そしてすぐに大袈裟に驚いた振りをして言う。
「まあ、私ったらヘレンの誕生日をすっかり忘れていたわ!」
「確かにそうだね。一体いつだったっけ、俺も覚えてないな」
「ごめんなさいね。キャサリンの分だけ覚えていてあなたのことは忘れてしまっていて。それでいつだったっけ?」
アンジェラはちっとも「ごめんなさい」と思っていなさそうな表情で二人に便乗してくる。無視しようかとも思っていたが、話を振られるとそうすることも出来ない。
「……三日前です」
私は憮然とした表情で答える。
するとキャサリンは手を叩いて笑った。そんなにおかしいだろうか。
というか、こいつらは元々私の誕生日が何もなく過ぎさったのを知ってこの煽りを始めたとしか思えない。
「あはは、三日前だって。ごめんね、すっかり忘れてたわ。全然祝えなくて。母上、可哀想だからヘレンも私のついでに祝ってあげて?」
「そうね、一応キャサリンのついでに祝ってあげようかしら」
二人は「ついで」というところだけやたら強調して言いながら、げらげらと笑い転げる。そんなに私に嫌がらせをするのがおかしいだろうか。
ちなみに父上はそんな私たちには無関心で何かを考えながら黙々と夕食を食べている。
「結構です」
これではお祝いというよりはただのつるし上げだ。
そう思った私はその提案を拒否する。するとなぜか、アンジェラは顔をしかめた。
「は? それが家族に誕生日を祝ってもらえる、と言われた時の態度な訳?」
「全く、本当にヘレンはひねくれ者だな。兄として僕は悲しいよ」
「忘れてたのが悪いと思ったからせっかく私と一緒に祝ってあげようと思ったのに……そんな言い方されたら悲しいわ」
アンジェラは怒り、ハロルドは呆れ、なぜかキャサリンは泣き出す。
それを見た父上も突然私をぎろりと睨む。そして低い声で言う。
「ヘレン、食事中に些細なことでいちいち突っかかるな! 夕食がまずくなるだろう!」
「御馳走様でした」
もはや聞いていられないと思った私は苛々しながら席を立ち、自室に戻るのだった。
血が半分しか繋がっていないから無視するとか愛情に差が出るとかならまだいい。でもこうしてしょうもない嫌がらせをしてくるのだけは許せなかった。
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