18 / 18
エピローグ
しおりを挟む
テッドとレーナが仲違いしたと聞いて、私はとりあえず屋敷に帰った。
前にうざいぐらい私にマウントをとってきたレーナもよほど失望したのか、部屋にこもりきりになってしまった。しかもおかげでと言っては何だが、それまでの元気を失ったためか私に「あれも代われ」「これも代われ」としつこく言ってくることがなくなった。そのため正直に言えばレーナが落ち込んでいるのは「大人しくなっていいな」と思ってしまう自分がいた。
そんな中、カインの家であるオールウェズ家から私に対して婚約の申し込みが来た。
その時落ち込んでいた父上は深く考えることもなく受けたらしい。こうして私とカインはあの時流れていた噂をなぞるように婚約することになったのであった。
それから一週間ほどして、改めて私とカインの婚約を発表するためのパーティーがオールウェズ家で開かれた。
本来私の家族はカインの家族の次に主賓となるはずだったが、居心地が悪いのか両親は会場の隅で小さくなって立っているだけだった。
そんな中、私は改めてカインに尋ねる。
あの事件の後、いくら私とカインが婚約するという噂が流れたとはいえ、まさかこんなに電撃婚約になるとは思わなかった。
普通婚約がなくなった場合、こんなに早く次が決まることはあまりない。もちろん、そもそも婚約がなくなること自体が普通ではないと言えばそうなのだが。
「でも何でこんなに急に婚約を申し込むという話になったの?」
カインはいつもと違って礼装をきっちりと着込んでいて新鮮だった。
これまでパーティーに出席することはあったが、今日は私たち自身が主役ということもあって余計に気合が入っている。
「実は元々父上はシェリーと婚約することを考えていたらしいんだ。しかしシアラー家に先を越されたらしくてね」
そう言ってカインは苦笑する。
こんなことになる前はテッドは温和な好青年というぐらいの印象しかなかったから、父上もシアラー家の家柄を見て婚約を決めたのだろう。
まさかオールウェズ家もそんなことを考えていたとは思いもしなかった。
「そうだったんだ」
「そのことは僕も後で知ったよ。それで、この前の事件の後僕とシェリーが婚約したっていう噂が流れただろう? それで父上はその噂に対する世間の好感度を調べたらしい」
「なるほど」
「それで好意的な声の方が多かったらしいからそれなら大丈夫だろうと申し込んだということらしい」
確かに噂では事実以上にテッドが悪者に、そしてカインが格好良くなっていたためそう思われるのも無理はない。
それで無気力になっていたうちの父が婚約を受けて成立したということか。
「そうだったんだ」
「でも正直なところ、僕もシェリーが婚約していたから口には出さなかったけどシェリーのことが好きだった」
「え?」
急に告白されて私は驚く。
もちろんカインが私に好意を抱いてくれているのは知っていたが、それはあくまで幼馴染としてのものだと思っていた。
カインもさらりと言ったはいいものの、自分が言ったことの内容に気づいたのか、次第に頬が赤くなっていく。
「だ、だから余計にテッドみたいなやつと婚約していることが許せなくて、あの時はつい本気で怒ってしまったんだ!」
「ありがとう。あの時、誰も私のために発言してくれる人がいなかったから嬉しかったんだ」
「そうか……実は他人の屋敷に上がり込んで激怒してしまって、今思い出すと少し恥ずかしいんだ」
そう言って彼は照れ隠しにか、頬をかく。
確かにあの時のカインは本気で怒っていたからそう思うのも無理はないのかもしれない。
「でも、あの時カインが本気だったことが伝わって来たからこそ嬉しかった」
「そうか、シェリーがそう言ってくれたなら良しとしよう……じゃあそろそろ行こうか」
「う、うん」
こうして私たちはパーティー会場に向かって足を踏み出すのだった。
レーナのせいで色々あったけど、結果的に私をただの婚約相手としてしか見ていないテッドではなく、私のために本気で怒ってくれるカインと婚約することが出来るようになった。
言い方は悪いけど、レーナと私の入れ替わりも本当に私たちの違いに気づいてくれる相手を見つけるためのふるいにはなったと思う。
そう考えると、今回の事件もあながち悪くはなかったと思うのだった。
前にうざいぐらい私にマウントをとってきたレーナもよほど失望したのか、部屋にこもりきりになってしまった。しかもおかげでと言っては何だが、それまでの元気を失ったためか私に「あれも代われ」「これも代われ」としつこく言ってくることがなくなった。そのため正直に言えばレーナが落ち込んでいるのは「大人しくなっていいな」と思ってしまう自分がいた。
そんな中、カインの家であるオールウェズ家から私に対して婚約の申し込みが来た。
その時落ち込んでいた父上は深く考えることもなく受けたらしい。こうして私とカインはあの時流れていた噂をなぞるように婚約することになったのであった。
それから一週間ほどして、改めて私とカインの婚約を発表するためのパーティーがオールウェズ家で開かれた。
本来私の家族はカインの家族の次に主賓となるはずだったが、居心地が悪いのか両親は会場の隅で小さくなって立っているだけだった。
そんな中、私は改めてカインに尋ねる。
あの事件の後、いくら私とカインが婚約するという噂が流れたとはいえ、まさかこんなに電撃婚約になるとは思わなかった。
普通婚約がなくなった場合、こんなに早く次が決まることはあまりない。もちろん、そもそも婚約がなくなること自体が普通ではないと言えばそうなのだが。
「でも何でこんなに急に婚約を申し込むという話になったの?」
カインはいつもと違って礼装をきっちりと着込んでいて新鮮だった。
これまでパーティーに出席することはあったが、今日は私たち自身が主役ということもあって余計に気合が入っている。
「実は元々父上はシェリーと婚約することを考えていたらしいんだ。しかしシアラー家に先を越されたらしくてね」
そう言ってカインは苦笑する。
こんなことになる前はテッドは温和な好青年というぐらいの印象しかなかったから、父上もシアラー家の家柄を見て婚約を決めたのだろう。
まさかオールウェズ家もそんなことを考えていたとは思いもしなかった。
「そうだったんだ」
「そのことは僕も後で知ったよ。それで、この前の事件の後僕とシェリーが婚約したっていう噂が流れただろう? それで父上はその噂に対する世間の好感度を調べたらしい」
「なるほど」
「それで好意的な声の方が多かったらしいからそれなら大丈夫だろうと申し込んだということらしい」
確かに噂では事実以上にテッドが悪者に、そしてカインが格好良くなっていたためそう思われるのも無理はない。
それで無気力になっていたうちの父が婚約を受けて成立したということか。
「そうだったんだ」
「でも正直なところ、僕もシェリーが婚約していたから口には出さなかったけどシェリーのことが好きだった」
「え?」
急に告白されて私は驚く。
もちろんカインが私に好意を抱いてくれているのは知っていたが、それはあくまで幼馴染としてのものだと思っていた。
カインもさらりと言ったはいいものの、自分が言ったことの内容に気づいたのか、次第に頬が赤くなっていく。
「だ、だから余計にテッドみたいなやつと婚約していることが許せなくて、あの時はつい本気で怒ってしまったんだ!」
「ありがとう。あの時、誰も私のために発言してくれる人がいなかったから嬉しかったんだ」
「そうか……実は他人の屋敷に上がり込んで激怒してしまって、今思い出すと少し恥ずかしいんだ」
そう言って彼は照れ隠しにか、頬をかく。
確かにあの時のカインは本気で怒っていたからそう思うのも無理はないのかもしれない。
「でも、あの時カインが本気だったことが伝わって来たからこそ嬉しかった」
「そうか、シェリーがそう言ってくれたなら良しとしよう……じゃあそろそろ行こうか」
「う、うん」
こうして私たちはパーティー会場に向かって足を踏み出すのだった。
レーナのせいで色々あったけど、結果的に私をただの婚約相手としてしか見ていないテッドではなく、私のために本気で怒ってくれるカインと婚約することが出来るようになった。
言い方は悪いけど、レーナと私の入れ替わりも本当に私たちの違いに気づいてくれる相手を見つけるためのふるいにはなったと思う。
そう考えると、今回の事件もあながち悪くはなかったと思うのだった。
9
お気に入りに追加
1,658
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
私は『選んだ』
ルーシャオ
恋愛
フィオレ侯爵家次女セラフィーヌは、いつも姉マルグレーテに『選ばさせられていた』。好きなお菓子も、ペットの犬も、ドレスもアクセサリも先に選ぶよう仕向けられ、そして当然のように姉に取られる。姉はそれを「先にいいものを選んで私に持ってきてくれている」と理解し、フィオレ侯爵も咎めることはない。
『選ばされて』姉に譲るセラフィーヌは、結婚相手までも同じように取られてしまう。姉はバルフォリア公爵家へ嫁ぐのに、セラフィーヌは貴族ですらない資産家のクレイトン卿の元へ嫁がされることに。
セラフィーヌはすっかり諦め、クレイトン卿が継承するという子爵領へ先に向かうよう家を追い出されるが、辿り着いた子爵領はすっかり自由で豊かな土地で——?
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
【完結】何やってるんですか!って婚約者と過ごしているだけですが。どなたですか?
BBやっこ
恋愛
学園生活において勉学は大事だ。ここは女神を奉る神学校であるからして、風紀が乱れる事は厳しい。
しかし、貴族の学園での過ごし方とは。婚約相手を探し、親交を深める時期でもある。
私は婚約者とは1学年上であり、学科も異なる。会える時間が限定されているのは寂しが。
その分甘えると思えば、それも学園生活の醍醐味。
そう、女神様を敬っているけど、信仰を深めるために学園で過ごしているわけではないのよ?
そこに聖女科の女子学生が。知らない子、よね?
あなたの1番になりたかった
トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。
姉とサムは、ルナの5歳年上。
姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。
その手がとても心地よくて、大好きだった。
15歳になったルナは、まだサムが好き。
気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました
来住野つかさ
恋愛
「お姉様、悪いのだけど次の夜会でちょっと皆様に謝って下さる?」
突然妹のマリオンがおかしなことを言ってきました。わたくしはマーゴット・アドラム。男爵家の長女です。先日妹がわたくしの婚約者であったチャールズ・
サックウィル子爵令息と恋に落ちたために、婚約者の変更をしたばかり。それで社交界に悪い噂が流れているので代わりに謝ってきて欲しいというのです。意味が分かりませんが、マリオンに押し切られて参加させられた夜会で出会ったジェレミー・オルグレン伯爵令息に、「僕にも謝って欲しい」と言われました。――わたくし、皆様にそんなに悪い事しましたか? 謝るにしても理由を教えて下さいませ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる