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安心

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「何だあいつらは! 揃いも揃って自分のことばかりじゃないか!」

 屋敷を出たカインは怒り心頭だった。
 正直なところ私以上にカインが怒っているので、かえって私の方は落ち着いてきたぐらいである。

「あの、あんな風に飛び出してきたけどこれからどうするの?」
「確かに……怒りのあまり出てきてしまったが……そもそもシェリーの気持ちを一番に尊重すべきだよな」

 ようやくカインは少しだけ怒りを収める。

「とはいえあんな場で冷静な判断が出来るとは思えない。しばらく僕の家で休養するといい」
「ありがとう」

 確かにカインの言うことはもっともだ。
 とはいえ私に決められることはせいぜいテッドとのよりを戻すかこのままテッドとは別れるか、ぐらいだろう。そうなれば父上はテッドとレーナの関係を認めてこの件をなかったことのようにするかもしれない。
 もちろんカインが最初に言ったようにこのことを告発すればテッドもレーナもそれどころではなくなるだろうけど……。
 考えても結論が出ないまま、私はカインの屋敷に向かう。

 屋敷に戻るとオールウェズ家の人々は私が戻って来たことに大層驚いていた。
 しかしカインが事情を話すと、複雑そうな顔をして、再び私が泊まっていた部屋に案内してくれた。

「しばらくは一人でゆっくり休むといい」
「何から何まで気を遣わせてごめん」
「いや、僕もまさかこんなことになるとは思ってもみなかったからどうしていいか分からなくてね」

 そう言ってカインは頭をかく。
 確かに彼からすると途方に暮れている幼馴染を助けたところ、想像を上回る面倒事に巻き込まれたというところだろう。
 しかしテッドや父上とは違い、私のことをきちんと考えてくれていた。一体この差は何なのだろうか。

「本当にありがとう」

 そう言って私は用意されていた部屋に向かう。

 部屋に戻ってくると、ここはカインの屋敷のはずなのにまるで自分の家に帰って来たかのようにほっとする。

 そう言えばあのことが起こる前から少しずつ自分の屋敷にいても気が休まらないと感じるようになっていた。レーナは周囲が誰も私とレーナの差異に気づいてくれないと嘆いていたが、私からすればレーナが私の全てを奪っていくように思えていたのかもしれない。
 自分の屋敷を離れたというのもあるが、レーナとはっきりと決裂したことで、もう彼女が私に成り代わろうとすることはない、という安心をえたのかもしれない。

 こうして私はあんなことがあったというのに、意外なことに安らかに眠ることが出来たのだった。
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