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嫌な光景
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私とカインが屋敷に戻ってくると、その少し前にレーナとテッドが戻っていたらしく、屋敷は大騒ぎになっていた。
考えてみれば、昨日レーナが急にいなくなったと思ったら私もいなくなり、二人ともよそに泊まってしかも婚約者がどうこうという話にまで発展しているのだから父上を始めとする家族の皆からしたら大騒ぎだろう。
私とカインが足早に中へ入っていくと、ちょうどレーナとテッドが父上と話しているところだった。一体二人がどんな説明をする気なのか気になった私はそこで足を止める。
「ですから父上、テッドは私を選んだのです。父上からしたら私もお姉様も大して変わらない存在なのでしょう? だったらどちらがテッドと婚約したっていいじゃないですか!」
レーナがよく分からない理論を父上に向かってまくしたてている。
それを聞いて父上は眉をひそめた。
「何を言っているんだ。お前たちが一緒な訳じゃないだろう。テッド、君もまさかこんな馬鹿げたことに同意している訳ではないだろうな?」
父上に見つめられたテッドはぎょっとしたように冷や汗を流す。この期に及んで彼は煮え切らない態度を続けているようだ。
「ですから婚約を破棄するとかしないとかそういう話ではなく、まずは皆で落ち着いて話をしませんか?」
「いきなり双子で婚約を取り換えるなどと言われて落ち着いていられるか!」
テッドはなおもどっちつかずの態度でやり過ごそうとしていたが、さすがに父上には通じなかった。
「レーナもレーナだ、一体なぜこんなバカなことを言いだしたんだ!?」
父上は顔を真っ赤にして怒っているが、なぜかレーナは一向に動じない。
「父上はそんな風に怒ってはいますが、これまで私とお姉様が入れ替わっても全然気づかなかったじゃないですか」
「そ、そんなことはあるか! 本当は気づいていた!」
「ではこの前の手習いの時は? あの時やたら成績が良かったのはお姉様でしたよ?」
「そ、それは……もちろん、気づいていたが見て見ぬ振りをしてやっていただけだ」
父上はレーナの逆襲に苦し気な表情になる。
この前の手習いの時、というのは恐らく私がレーナの代わりに手習いを受けて先生に褒められ、その時に父上にも褒められた時のことだろう。
「そんなはずはありません。なぜなら気づいていたらこんな入れ替わりはやめるよう注意するはずだからです。もっとも気づいていて見逃していたならどっちにしろ、今いきなり文句を言ってくる筋合いはないと思いますが」
「そ、それはそうだが……」
レーナの猛攻になぜか父上は押され、テッドはひたすら困惑顔である。
確かに私とレーナが入れ替わっているのに父上も母上も気づいていないであろう時は多くあった。レーナは元から我がままなところはあったが、成長するにあたってそれが酷くなっていったのはもしかすると周りが誰も気づいてくれなかったからかもしれない、と私は思い始める。
両親にも先生にも私との違いを見抜かれず、そんな時にたまたまか会いに行ったかでテッドに会い、彼もレーナを私と間違えた。
そんな経験を重ねていくうちに、どうせ誰も気づかないのだから何をしてもいいという風にどんどん歪んでいったのかもしれない。
もっとも、かろうじてそれに共感できるのは私ぐらいで、他の人からすれば意味の分からない理屈であることに変わりはないだろうが。
「だ、だがそういう問題ではない! 気づくとか気づかないとかで婚約者をころころ変えることが出来るか!」
「そんなこと、娘の区別もつかない親に言われても困りますわ」
父上はなおも正論を振りかざすが、レーナはレーナで父上が自分たちを区別出来なかったのをいいことに謎のマウントをとっている。
そしてその横でテッドはおろおろしつつ自分に会話の矛先が向かないよう目立たないようにしている。
正直この光景を見ていると地獄みたいな気分になってくる。
「さすがにそろそろ行かないか?」
カインに言われて私ははっとして頷くのだった。
考えてみれば、昨日レーナが急にいなくなったと思ったら私もいなくなり、二人ともよそに泊まってしかも婚約者がどうこうという話にまで発展しているのだから父上を始めとする家族の皆からしたら大騒ぎだろう。
私とカインが足早に中へ入っていくと、ちょうどレーナとテッドが父上と話しているところだった。一体二人がどんな説明をする気なのか気になった私はそこで足を止める。
「ですから父上、テッドは私を選んだのです。父上からしたら私もお姉様も大して変わらない存在なのでしょう? だったらどちらがテッドと婚約したっていいじゃないですか!」
レーナがよく分からない理論を父上に向かってまくしたてている。
それを聞いて父上は眉をひそめた。
「何を言っているんだ。お前たちが一緒な訳じゃないだろう。テッド、君もまさかこんな馬鹿げたことに同意している訳ではないだろうな?」
父上に見つめられたテッドはぎょっとしたように冷や汗を流す。この期に及んで彼は煮え切らない態度を続けているようだ。
「ですから婚約を破棄するとかしないとかそういう話ではなく、まずは皆で落ち着いて話をしませんか?」
「いきなり双子で婚約を取り換えるなどと言われて落ち着いていられるか!」
テッドはなおもどっちつかずの態度でやり過ごそうとしていたが、さすがに父上には通じなかった。
「レーナもレーナだ、一体なぜこんなバカなことを言いだしたんだ!?」
父上は顔を真っ赤にして怒っているが、なぜかレーナは一向に動じない。
「父上はそんな風に怒ってはいますが、これまで私とお姉様が入れ替わっても全然気づかなかったじゃないですか」
「そ、そんなことはあるか! 本当は気づいていた!」
「ではこの前の手習いの時は? あの時やたら成績が良かったのはお姉様でしたよ?」
「そ、それは……もちろん、気づいていたが見て見ぬ振りをしてやっていただけだ」
父上はレーナの逆襲に苦し気な表情になる。
この前の手習いの時、というのは恐らく私がレーナの代わりに手習いを受けて先生に褒められ、その時に父上にも褒められた時のことだろう。
「そんなはずはありません。なぜなら気づいていたらこんな入れ替わりはやめるよう注意するはずだからです。もっとも気づいていて見逃していたならどっちにしろ、今いきなり文句を言ってくる筋合いはないと思いますが」
「そ、それはそうだが……」
レーナの猛攻になぜか父上は押され、テッドはひたすら困惑顔である。
確かに私とレーナが入れ替わっているのに父上も母上も気づいていないであろう時は多くあった。レーナは元から我がままなところはあったが、成長するにあたってそれが酷くなっていったのはもしかすると周りが誰も気づいてくれなかったからかもしれない、と私は思い始める。
両親にも先生にも私との違いを見抜かれず、そんな時にたまたまか会いに行ったかでテッドに会い、彼もレーナを私と間違えた。
そんな経験を重ねていくうちに、どうせ誰も気づかないのだから何をしてもいいという風にどんどん歪んでいったのかもしれない。
もっとも、かろうじてそれに共感できるのは私ぐらいで、他の人からすれば意味の分からない理屈であることに変わりはないだろうが。
「だ、だがそういう問題ではない! 気づくとか気づかないとかで婚約者をころころ変えることが出来るか!」
「そんなこと、娘の区別もつかない親に言われても困りますわ」
父上はなおも正論を振りかざすが、レーナはレーナで父上が自分たちを区別出来なかったのをいいことに謎のマウントをとっている。
そしてその横でテッドはおろおろしつつ自分に会話の矛先が向かないよう目立たないようにしている。
正直この光景を見ていると地獄みたいな気分になってくる。
「さすがにそろそろ行かないか?」
カインに言われて私ははっとして頷くのだった。
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