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カインⅡ

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「……ということがあって、レーナが私に黙ってそんなことをしていたのももちろんショックだったけど、それを知ったテッドが煮え切らない態度をとったのが一番悲しくて」

 気が付くと、私の目からは大量の涙が溢れていた。
 テッドとはあくまで政略結婚による婚約、と割り切っていたつもりなのに、気が付くとこんなに悲しくなってしまっている。

 恋愛対象ではなかったかもしれないが、それでも将来を供にする相手としてそれなりの愛着があったのだろう。今更ながらにそのことに気づく。
 それなのにテッドにとって私はただのそこそこ仲がいい異性、という程度の認識でしかなかったらしい。私よりもレーナの方が一緒にいて楽しい、というのもショックだったがそのレーナの行為を咎めるでもなくなだめてやり過ごそうとしているのがさらに悲しかった。

「そうか、辛かったな」

 カインはそんな私の話を聞いて一言そうつぶやいた。

「……うん」
「そんなことがあったのならうちにも帰りづらいだろう、良ければうちに来るか?」
「いいの?」

 カインはまるで私の心が読めるかのように、私が内心で望んでいたことを口にする。
 私が驚いてカインの顔を見返すと、彼はこくりと頷いた。
 そして一緒にいた供の家来に告げる。

「……と言う訳だ。とりあえず温かいお茶の用意と彼女を一晩泊める用意を」
「かしこまりました」

 そう言って家来の一人は足早に帰っていく。

「さ、僕らも一緒に行こう」
「ごめん、色々気を遣わせてしまって」
「気にするな、それに昔僕が困っていたときは君が助けてくれただろう?」

 言われてみればカインが何かやんちゃして大層父親に怒られてきたとき、うちに泊めたことがあったような気がする。
 その時のカインとは別人のように成長しているが、そんな昔のことを覚えていてくれたことに嬉しくなる。
 あの時とはすっかり立場が逆転してしまった。

「そう言えば、そんなこともあったっけ」
「そうだ、あの時は僕も随分子供だったとは思うけどね」

 カインは少し照れ臭そうに頭をかく。

 そんなことを話しているうちに、私たちはカインの屋敷であるラドリー子爵家に到着する。
 ラドリー家は私の実家と同じぐらいの子爵家であり、当主であるラドリー子爵は穏やかな人物であった。

 私が応接室に到着されると、すぐに温かい紅茶とお菓子が運ばれてくる。温かい紅茶を一口飲むとそれだけで落ち着いてきた。

「ごめん、何から何までありがとう」
「気にするな。実家の方にはとりあえず僕の方から体調を崩して帰れないとか適当な理由を伝えておこう。だから今はゆっくりしてくれ」
「ありがとう」

 それから私はカインの案内で用意された客間に向かった。

 そこには私が泊まるふかふかのベッドが用意されていた。部屋着に着替えてベッドに横たわると、まだ早い時間だったのに疲れていたこともあって、吸い込まれるように眠りについてしまった。
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