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復興
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それから父上はメイウェザー男爵とラドフォード男爵と再び会談した。
表向きは“黒い爪”討伐のお礼を告げる会合であるが、手に入れた戦利品の分配や駆け落ち事件の今後の対応についても話し合われたのだという。
その会議にてメイウェザー男爵は戦利品の分配を辞退する代わりにラインハルトがしたことは駆け落ちではなかったことにしてくれないかと言って来たらしい。要は金でラインハルトの醜聞をもみ消して欲しいということだろう。
父上とラドフォード男爵は悩んだが、莫大な戦利品の取り分が三分の一から二分の一になるのは大きいと判断して、その提案を飲んだ。
ちょうどあのパーティーの時、父上はラインハルトが急病で倒れたということにしていたこともあり、ラインハルトは急病のため田舎で静養しているということにすることで合意した。二人の捜索自体は引き続き続けられるという。
もっとも、この時点で皆薄々ではあるが、二人の捜索をそんなに張り切ってもしなくてもいいのではないかと思い始めていたが。
そんなことがあった少し後、私は領内のある商人に会うために歩いていた。
最近は駆け落ち事件でばたばたしていたが、久しぶりにゆっくり出歩いてみると、今までよりも活気が戻っている。
街中を歩く人も多いし、街から荷馬車を曳いて出ていく商人や、逆に荷馬車とともにやってくる行商人も多い。そしてたまたま旧知の者同士で出会ったのか、会話が始まる。
「いやあ、良かったなあ、黒い爪が討伐されて」
「ああ、これまでは領地内を移動するにも重厚な護衛が必要で荷馬車を曳くのも大変だったが、ようやく安心して移動できるようになったな」
二人は明るく談笑を始めた。
「それに聞いたか? “黒い爪”の被害に遭った者たちはその旨申請すれば補償金がもらえるらしいぞ」
「本当か!?」
「何でも男爵閣下が賊からお金を取り戻してくれたらしい。おぬしも申し出てみるといい」
「そうか、最近はこの辺りに来ていなかったので知らなかった」
二人はそんな感じの会話を続けるが、お互いその表情は明るい。
それを見ている私も思わずほっとしてしまう。
「あ、カトリナお嬢様!」
片方の商人が私に気づいたらしく、頭を下げる。
「こんにちは」
「こんにちは、このたびの黒い爪討伐、お嬢様が提案していただいたとお聞きしました」
「え、一体どなたから……」
確かに最初に言ったのは私かもしれないが、一体どうやって広まったのだろうか。
すると彼らは顔を見合わせて笑う。
「商人というのは耳ざといものです」
「はい、婚約者が急病で倒れたというのに我らのために黒い爪討伐を進言していただきありがとうございます」
「はい、どういたしまして」
私はその時自分が思ったことを言っただけなのに、二人は過剰なぐらい私に頭を下げている。
それはそれで恐縮してしまうが、領内が“黒い爪”の被害から着実に復興に向かっているのを見て私はほっとするのだった。
表向きは“黒い爪”討伐のお礼を告げる会合であるが、手に入れた戦利品の分配や駆け落ち事件の今後の対応についても話し合われたのだという。
その会議にてメイウェザー男爵は戦利品の分配を辞退する代わりにラインハルトがしたことは駆け落ちではなかったことにしてくれないかと言って来たらしい。要は金でラインハルトの醜聞をもみ消して欲しいということだろう。
父上とラドフォード男爵は悩んだが、莫大な戦利品の取り分が三分の一から二分の一になるのは大きいと判断して、その提案を飲んだ。
ちょうどあのパーティーの時、父上はラインハルトが急病で倒れたということにしていたこともあり、ラインハルトは急病のため田舎で静養しているということにすることで合意した。二人の捜索自体は引き続き続けられるという。
もっとも、この時点で皆薄々ではあるが、二人の捜索をそんなに張り切ってもしなくてもいいのではないかと思い始めていたが。
そんなことがあった少し後、私は領内のある商人に会うために歩いていた。
最近は駆け落ち事件でばたばたしていたが、久しぶりにゆっくり出歩いてみると、今までよりも活気が戻っている。
街中を歩く人も多いし、街から荷馬車を曳いて出ていく商人や、逆に荷馬車とともにやってくる行商人も多い。そしてたまたま旧知の者同士で出会ったのか、会話が始まる。
「いやあ、良かったなあ、黒い爪が討伐されて」
「ああ、これまでは領地内を移動するにも重厚な護衛が必要で荷馬車を曳くのも大変だったが、ようやく安心して移動できるようになったな」
二人は明るく談笑を始めた。
「それに聞いたか? “黒い爪”の被害に遭った者たちはその旨申請すれば補償金がもらえるらしいぞ」
「本当か!?」
「何でも男爵閣下が賊からお金を取り戻してくれたらしい。おぬしも申し出てみるといい」
「そうか、最近はこの辺りに来ていなかったので知らなかった」
二人はそんな感じの会話を続けるが、お互いその表情は明るい。
それを見ている私も思わずほっとしてしまう。
「あ、カトリナお嬢様!」
片方の商人が私に気づいたらしく、頭を下げる。
「こんにちは」
「こんにちは、このたびの黒い爪討伐、お嬢様が提案していただいたとお聞きしました」
「え、一体どなたから……」
確かに最初に言ったのは私かもしれないが、一体どうやって広まったのだろうか。
すると彼らは顔を見合わせて笑う。
「商人というのは耳ざといものです」
「はい、婚約者が急病で倒れたというのに我らのために黒い爪討伐を進言していただきありがとうございます」
「はい、どういたしまして」
私はその時自分が思ったことを言っただけなのに、二人は過剰なぐらい私に頭を下げている。
それはそれで恐縮してしまうが、領内が“黒い爪”の被害から着実に復興に向かっているのを見て私はほっとするのだった。
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