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カトリナとジェニー

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「お姉様―」

 私がいつものように居間で本を読んでいると、妹のジェニーが声を掛けてくる。

「どうしたの?」
「今日は折り入って話がありまして」

 そう言って彼女は私の隣に座る。ジェニーは私と違って垢ぬけているため、並んでいるとまるで貴族のお嬢様と使用人のようだ、と言われることがある。
 我が家は貧乏貴族として有名なブレンダ男爵家だ。歴史のある家ではあるが、少し前に大規模な盗賊が領内に出没して荒らしまわり、被害の補填と討伐に費用がかかったためかなり貧乏している。

 そんな中、ジェニーは華美な装いや化粧やアクセサリーが欲しいと両親に言うことが多く、一方の私は何も言わなかったので、気が付くと妹の服装ばかりが垢ぬけていたという訳だ。
 私はそんなに物欲がなかったので、それで彼女の気が済むならとあまり不公平とは思わなかった。

「何?」
「お姉様の婚約者、ラインハルト様いるじゃないですか」
「ええ」
「彼を譲っていただけないかと思いまして」
「ええ?」

 私はジェニーの提案に困惑する。婚約者を譲るというのはどういうことだろうか。

 確かに私の婚約者であるラインハルトは顔立ちがよく、人当たりがいいことから女性に人気があった。
 そんな人物の相手が私のような地味な女でいいのか、と思ったこともあったが、それとなく両親に訊いてみたところ完全な政略結婚だと言われてしまった。
 私とジェニーは四つほど年が離れており、決まった当時ジェニーは幼かったというのが理由だろう。その時はまだ恋愛や結婚に願望を抱いていたのでショックだった覚えがある。
 もっとも、今では私は十七、ジェニーは十三になったけど。

「でもこれは家と家で決めたことだから」
「それなら相手は妹である私でも構いませんよね?」
「そんなこと私に言われても」

 私はすっかり困ってしまう。確かに私のように地味な女よりはジェニーのような垢ぬけた女が相手の方がラインハルトも喜ぶかもしれない。
 彼女が好きな物を買ってもらうのを止めなかったのは彼女のためどころか、逆に我がままを助長してしまったのではないか、と後悔する。

 ちなみに、私が地味な格好ばかりをしているのは家にお金がないからというだけで、裕福な家に嫁げばその家にふさわしい恰好をしようという気持ちはあった。
 そもそもジェニーのために私は節約していたのに、それで地味と言われるのも心外だ。

「ではこれはあくまで家に決められた婚約であり、私とラインハルト様が婚約してもいいということですね?」
「何が言いたいの? 大体ジェニーにも婚約者はいるでしょう?」

 ジェニーにはレオルという婚約者がいるが、彼はラインハルトとは正反対に、顔が悪く小太りな体形、しかも性格も陰気で人気はなかった。きっとジェニーも彼と結婚するのは嫌なのだろう。

「いますが、お姉様はもしも彼が婚約者になっていても、文句は言いませんでしたよね?」
「まあ、両親が決めたことでしたら……ですが、それが何か?」
「いえ、それさえ確認できれば十分です。それでは」

 そう言って彼女はなぜかスキップしながら部屋を出ていく。
 それを見て私は何となく胸騒ぎがしたものの、結局何も言わずに見送るのだった。
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