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「……夢か」
目が覚めた私は夢の内容を思い出して少しほっとする。
あの時のことを思い出すと、今でも嫌な気持ちになるし、背筋にはじっとりと汗がにじんでいた。
周りを見ると、高級な布団が置かれている大きなベッドに広い部屋、そしてクローゼットの中には普段着からドレスまで幅広く揃えられているのが見える。
元の家とは違うけど、一時のことを思うと夢のような暮らしだ。
あれから私はターナー家に縁のある方の家に預けられた後、紆余曲折あってスコット公爵家という家に養子に迎えられた。
そして今は生活水準だけで言えば、ターナー家にいたころと同じくらいの裕福な暮らしを送っている。過去のことを除けば不満はなかったし、スコット家の人々には感謝してもしきれない。
そんなことを思いつつ、私はベッドから体を起こすと普段着に着替えて部屋を出る。
「おはようございます、お嬢様」
廊下に出た私に、メイドのシンディが話しかけてくる。
「おはよう、シンディ」
「今日は新鮮な卵が入ったらしいのでゆで卵がおいしいらしいですよ」
「それは楽しみね」
シンディは私が養子に入った時、私付きのメイドになってくれた人物だ。年齢は四十ほどだが温和な性格で、一人身になっていた私をいつも気遣ってくれていた。
そのため私も自然と彼女になつき、シンディを通してスコット家の人々と打ち解けていったと言っても過言ではない。
私が食卓に向かうと、そこには養父であるスコット公爵や、養母、そしてこの家の跡継ぎである兄のロナルドが朝食を食べていた。
「おはようございます」
「おはよう」「おはよう」「おはよう、ベティ」
私が挨拶すると、三人からおはようの声が返ってくる。
この家はロナルド以外にも男の兄弟は数人いるのだが、なぜか女性は生まれなかったらしい。そんな時にこの家とも親交があった我が家があのような事件で没落してしまい、見かねたスコット公は私を引き取ってくれたらしかった。
「そう言えばベティは今日はピアノの練習と学問の手習いだったかな?」
「はい、そうです」
「学問の先生が褒めていたぞ、ベティは筋がいいと」
スコット家に引き取られてからはいいところを見せようと、以前よりも真面目に習い事や学問に励んだので、そう言われるのは素直に嬉しい。
「そうですか? それなら宿題を減らして欲しいですが」
「はは、それはまた別の話だ」
スコット公とはまるで実の家族のように、こういう他愛ない会話も出来るようになった。
「それでロナルドは今日はヘンディ家との茶会だったか?」
「いえ、僕は今日は剣の鍛錬と父上から政務を教わる予定でしたが」
ロナルドは少し大げさに口をとがらせて言う。
「済まないな、わしが決めたのにすっかり忘れていた」
「父上は相変わらずベティにばかり甘い」
「ははは」
ロナルドもそうは言っているが、あくまで軽口を叩いているだけで、別に本気で私に嫉妬しているとかそういうことではない。
むしろこういうやりとりが普通に出来るというのは打ち解けた証ではないか。
こんな感じで今の私は新しい家族に囲まれ、幸せな日々を送っていた。
目が覚めた私は夢の内容を思い出して少しほっとする。
あの時のことを思い出すと、今でも嫌な気持ちになるし、背筋にはじっとりと汗がにじんでいた。
周りを見ると、高級な布団が置かれている大きなベッドに広い部屋、そしてクローゼットの中には普段着からドレスまで幅広く揃えられているのが見える。
元の家とは違うけど、一時のことを思うと夢のような暮らしだ。
あれから私はターナー家に縁のある方の家に預けられた後、紆余曲折あってスコット公爵家という家に養子に迎えられた。
そして今は生活水準だけで言えば、ターナー家にいたころと同じくらいの裕福な暮らしを送っている。過去のことを除けば不満はなかったし、スコット家の人々には感謝してもしきれない。
そんなことを思いつつ、私はベッドから体を起こすと普段着に着替えて部屋を出る。
「おはようございます、お嬢様」
廊下に出た私に、メイドのシンディが話しかけてくる。
「おはよう、シンディ」
「今日は新鮮な卵が入ったらしいのでゆで卵がおいしいらしいですよ」
「それは楽しみね」
シンディは私が養子に入った時、私付きのメイドになってくれた人物だ。年齢は四十ほどだが温和な性格で、一人身になっていた私をいつも気遣ってくれていた。
そのため私も自然と彼女になつき、シンディを通してスコット家の人々と打ち解けていったと言っても過言ではない。
私が食卓に向かうと、そこには養父であるスコット公爵や、養母、そしてこの家の跡継ぎである兄のロナルドが朝食を食べていた。
「おはようございます」
「おはよう」「おはよう」「おはよう、ベティ」
私が挨拶すると、三人からおはようの声が返ってくる。
この家はロナルド以外にも男の兄弟は数人いるのだが、なぜか女性は生まれなかったらしい。そんな時にこの家とも親交があった我が家があのような事件で没落してしまい、見かねたスコット公は私を引き取ってくれたらしかった。
「そう言えばベティは今日はピアノの練習と学問の手習いだったかな?」
「はい、そうです」
「学問の先生が褒めていたぞ、ベティは筋がいいと」
スコット家に引き取られてからはいいところを見せようと、以前よりも真面目に習い事や学問に励んだので、そう言われるのは素直に嬉しい。
「そうですか? それなら宿題を減らして欲しいですが」
「はは、それはまた別の話だ」
スコット公とはまるで実の家族のように、こういう他愛ない会話も出来るようになった。
「それでロナルドは今日はヘンディ家との茶会だったか?」
「いえ、僕は今日は剣の鍛錬と父上から政務を教わる予定でしたが」
ロナルドは少し大げさに口をとがらせて言う。
「済まないな、わしが決めたのにすっかり忘れていた」
「父上は相変わらずベティにばかり甘い」
「ははは」
ロナルドもそうは言っているが、あくまで軽口を叩いているだけで、別に本気で私に嫉妬しているとかそういうことではない。
むしろこういうやりとりが普通に出来るというのは打ち解けた証ではないか。
こんな感じで今の私は新しい家族に囲まれ、幸せな日々を送っていた。
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