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エピローグⅡ

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「済まない、急に押しかけてしまって」
「い、いえ」

 あんなに何度も会っていたデニスも、こうしていざ婚約者として再会することになると緊張してしまいます。それに今までは切迫した状況で会いにきてくれる、というパターンが多かったので緊張どころではありませんでした。
 これまでと同じように気軽に話すことは出来ません。

「一体どうして?」
「あの件について父上に報告するときに僕から頼んだんだ。あの時屋敷では使用人たちはみんなアンナを信頼していたようだったから、並々ならぬ人徳の持ち主だと。それに後で聞いたところによると下手な文官よりは政務が得意らしいじゃないか」
「それは……大袈裟です」

 面と向かって褒められると恥ずかしくなってしまいます。実際、いわゆる文官と呼ばれている方々と一緒に仕事をしたことはないのでよく分かりません。
 それにベンと結婚していた時はアスカム公爵には期待しているとは言われたものの、そんな風に言われたことは全くなかったので実感が湧きませんでした。

「だから今度は僕のことを助けてくれないか?」
「そんな、デニスは私に助けられることなんて何もありません」

 今までずっと私はデニスに一方的に助けてもらう側でした。
 最初に会ったときも怒っているベンの家臣をうまくいなし、大変なことになっているこの屋敷には機転を利かせて突入し、結果的に見事に騒ぎを収拾しました。

「それこそ大袈裟だ。屋敷に乗り込む時は必死に恰好をつけていただけだ。だって他人の屋敷に踏み込むなんてこと、勢いがなければ出来ないからな」
「そうだったのね」
「僕だって自分の家のことをしているときは、人並みに悩むことや困ることだってある」

 そう言われるとようやくお互い様という気持ちになり、お互いに声を合わせて笑います。
 そしてひとしきり笑った後デニスは真剣な目で私を見つめました。

「と言う訳で、これからは僕のことを隣から助けてくれないか?」
「……分かったわ、私だってデニスに助けてもらったときとても嬉しかった。だからデニスと婚約出来るのはとても嬉しい」
「そう言ってもらえて良かった」

 鬼気迫る表情で屋敷に乗り込んできたときとは同一人物とは思えないほど、デニスは穏やかな表情で頷きます。
 こうして色々あったベンとの婚約からは一転、私たちは新たな人生を踏み出すことになったのでした。
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