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ベンとの対決Ⅰ
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「デニスに味方するなんて、この家を売り渡すつもりか!?」
突然部屋に乱入してきたベンは顔を真っ赤にしてそう怒鳴りました。
それを聞いて私は悲しい気持ちになります。こうならないようにする選択肢はいくらでもあったというのに、そうしなかったのはベンです。周囲の忠告を振り切って暴走しこのような状況を作っておきながらまだ自分は悪くないとでも思っているのでしょうか。
「この期に及んでそんなことを言うつもりか!? 自分の家臣の数々の不始末に対する指摘を全て無視して自分は屋敷に女を連れ込んで楽しんでいた癖に!」
一方のデニスもこれまで散々鬱憤が溜まっていたのでしょう、ベンの顔を見るなり叫びます。
「何だと!? あれは全部お前の仕業だったのだろう、そこまでしてこの僕を陥れたいのか?」
「被害妄想もいい加減にしろ! そんな訳がないだろう!」
「きっとお前はアンナと結託して僕を陥れようとしているに違いない!」
「そんな訳ない!」
二人の言い争いを聞くに堪えなくなり、私は思わず叫んでしまいます。
デニスに罵声を浴びせていたベンはそれを聞いて今度は私の方を向きました。
「何だ、どうせお前は僕よりもデニスがいいんだろう!」
「私は何度もあなたを助けようと思って様々なことをしました。しかしそれを全て不要だ、と払いのけたのがあなたです。それなのにその言い草はあんまりです!」
「ふん、どうせ屋敷内で僕が嫌われているのを見て僕を嫌っているやつらを甘やかして仲良くしようとしていたのだろう?」
「あくまでそういう風に言うのですか。では一つ聞きますが、あなたの言っていることが全て正しいとすると、あなたは屋敷内でも屋敷外でも皆に嫌われていることになります。それは自分が悪いと思ったことはないのですか!?」
「な、何だと!?」
私の言葉にベンは言葉に詰まりました。
そういうところまではこれまで頭が回らなかったのでしょう、彼はようやく思い至ったようです。
「だ、だが、名君は時に人に嫌われることもあると……」
「そういう場合、誰かに嫌われていても必ずやその行動を支持してくれる者がいるものです。あなたの場合はどうですか?」
「そ、それは……」
ベンにも心当たりはなかったのでしょう、目が泳ぎます。
「そういうことです。自分が全員から嫌われていると思うのであればまずは自分の行動に誤りがあると思うべきで、それらを全て周囲のせいにするのはおかしいです」
「く、くそ……」
私の言葉にうまく反論することが出来ないのか、ベンは歯ぎしりして悔しがります。
が、やがて思い出したように言いました。
「だ、だが、僕にはクラリスがいる! 彼女だけは僕をいつも認めてくれているんだ!」
なるほど、ベンが彼女にご執心な理由が分かった気がします。
彼にとっては彼女が唯一の理解者なのでしょう。本当はそんなことはないと思いますが。
「ああ、それがあなたが今連れ込んでいる方ですか。ですが彼女は本当にあなたがしていることを知っているのですか!?」
「い、いや、あまり……」
「つまり、あなたの日頃の姿を知らないから誤解しているか、もしくは耳障りのいいことを言って近づこうとしていただけなのでしょう」
「そんな……」
クラリスの存在が彼にとって唯一の希望だったのでしょう、それを否定されたベンは先ほどまでの怒りが嘘のようにがっくりとその場に膝を突きました。
突然部屋に乱入してきたベンは顔を真っ赤にしてそう怒鳴りました。
それを聞いて私は悲しい気持ちになります。こうならないようにする選択肢はいくらでもあったというのに、そうしなかったのはベンです。周囲の忠告を振り切って暴走しこのような状況を作っておきながらまだ自分は悪くないとでも思っているのでしょうか。
「この期に及んでそんなことを言うつもりか!? 自分の家臣の数々の不始末に対する指摘を全て無視して自分は屋敷に女を連れ込んで楽しんでいた癖に!」
一方のデニスもこれまで散々鬱憤が溜まっていたのでしょう、ベンの顔を見るなり叫びます。
「何だと!? あれは全部お前の仕業だったのだろう、そこまでしてこの僕を陥れたいのか?」
「被害妄想もいい加減にしろ! そんな訳がないだろう!」
「きっとお前はアンナと結託して僕を陥れようとしているに違いない!」
「そんな訳ない!」
二人の言い争いを聞くに堪えなくなり、私は思わず叫んでしまいます。
デニスに罵声を浴びせていたベンはそれを聞いて今度は私の方を向きました。
「何だ、どうせお前は僕よりもデニスがいいんだろう!」
「私は何度もあなたを助けようと思って様々なことをしました。しかしそれを全て不要だ、と払いのけたのがあなたです。それなのにその言い草はあんまりです!」
「ふん、どうせ屋敷内で僕が嫌われているのを見て僕を嫌っているやつらを甘やかして仲良くしようとしていたのだろう?」
「あくまでそういう風に言うのですか。では一つ聞きますが、あなたの言っていることが全て正しいとすると、あなたは屋敷内でも屋敷外でも皆に嫌われていることになります。それは自分が悪いと思ったことはないのですか!?」
「な、何だと!?」
私の言葉にベンは言葉に詰まりました。
そういうところまではこれまで頭が回らなかったのでしょう、彼はようやく思い至ったようです。
「だ、だが、名君は時に人に嫌われることもあると……」
「そういう場合、誰かに嫌われていても必ずやその行動を支持してくれる者がいるものです。あなたの場合はどうですか?」
「そ、それは……」
ベンにも心当たりはなかったのでしょう、目が泳ぎます。
「そういうことです。自分が全員から嫌われていると思うのであればまずは自分の行動に誤りがあると思うべきで、それらを全て周囲のせいにするのはおかしいです」
「く、くそ……」
私の言葉にうまく反論することが出来ないのか、ベンは歯ぎしりして悔しがります。
が、やがて思い出したように言いました。
「だ、だが、僕にはクラリスがいる! 彼女だけは僕をいつも認めてくれているんだ!」
なるほど、ベンが彼女にご執心な理由が分かった気がします。
彼にとっては彼女が唯一の理解者なのでしょう。本当はそんなことはないと思いますが。
「ああ、それがあなたが今連れ込んでいる方ですか。ですが彼女は本当にあなたがしていることを知っているのですか!?」
「い、いや、あまり……」
「つまり、あなたの日頃の姿を知らないから誤解しているか、もしくは耳障りのいいことを言って近づこうとしていただけなのでしょう」
「そんな……」
クラリスの存在が彼にとって唯一の希望だったのでしょう、それを否定されたベンは先ほどまでの怒りが嘘のようにがっくりとその場に膝を突きました。
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