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デニスの決断

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「何、アスカム家の者が王宮で盗みをしたのに引き渡されていないだと?」
「はい、それで王宮の方々も困っているようで……」

 それを聞いてデニスは頭を抱えた。

「ちなみに引き渡されない理由は何かあるのか?」
「何でも、アスカム家の方で調査をするからと」
「それで調査の結果は?」
「さあ、そこまでは……」

 家臣の言葉にさらにデニスはさらに頭を抱える。

「一体アスカム公爵は何をやっているんだ。そんな無責任な人物ではなかっただろう」
「それが、アスカム公爵は領地に賊が出たということで屋敷を離れているようです」
「何だと!?」

 それを聞いてデニスは納得した。アスカム公爵が屋敷を離れているのであれば、残ったベンが好き放題していてもおかしくない。

 そのベンは前も彼の不始末をデニスがフォローした時に逆に文句を言ってきたし、しかも妻のアンナを離れに閉じ込めていた。プライドばかり高く能力がないという一番厄介な人物である。彼が屋敷を仕切っているのであればそういう事態になっていてもおかしくはない。

「悪いが、アスカム家について他に何か起こっていないか調べてくれないか?」
「分かりました」

 そう言って家臣は去っていく。
 それを見てデニスは杞憂であってくれればいいのだが、と思うのだった。



 が、そんな期待に反して翌日、家臣は蒼い顔をして帰ってくる。

「大変です、デニス様!」
「一体何があったのだ」
「昨日報告した方の引き渡しがまだ行われていないのもそうですが、ここ数日のアスカム家には数々の悪評があるようです」
「一体何だ?」

 それを聞いてデニスは困惑する。仮にベンが好き放題したとしても、屋敷の外にまで聞こえる悪評となると相当のことだ。一体何をしたのだろうか。

「まず、奥様に政務を押し付けて自分は他家の令嬢を招きいれて遊び惚けていると。そして家臣たちにはその令嬢への土産物を探させるために王都に出しているのですが、満足に金銭を与えていないため恫喝のような行為がまかり通っているとのことです」
「何だと?」
「しかも苦情が入ってもまともな返事が返ってこないとか」

 確かに領地に賊が出て公爵が討伐に向かったのであれば屋敷の金銭には余裕がそんなにないのかもしれない。その状態で贅沢しようとすれば、必然的にお金が足りなくなる。それを分かって恫喝のようなことをさせているのか、単に何も分かっていないのかは分からないが、そんな彼の命令で家臣たちも良くない行為に及んでいるのだろう。
 アスカム公爵がいれば彼に対処を要求するところだが、賊の討伐に向かったのであればしばらく戻ってこないだろう。

「これ以上見過ごすことは出来ない」

 そう決めたデニスは早速父親の元へ向かう。

「父上、最近のアスカム公爵家の噂をご存知でしょうか?」
「ああ、全く困ったものだ」

 それを聞いてカーソン公爵はため息をつく。

「その件、僕に任せてもらえませんか?」
「お前が? 一体なぜ」

 デニスの言葉に公爵は首をかしげる。そもそもデニスはアスカム家とは、迷惑を掛けられた件を除けば特に関わりがある訳でもない。

「確かに僕はアスカム家とは関わりはありませんが、このようなことを見過ごすことは出来ません。先日の件でも思いましたが、アスカム公爵不在であればこれ以上放っておくと大変なことになります」
「……それは確かに」

 デニスの言葉にカーソン公爵も頷いた。

「分かった、お前に任せよう」
「はい、必ず何とかしてきます」

 そう言ってデニスは部屋を出るのだった。
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