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ベンの密会
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翌日、僕は父上からお土産を受け取り、デニスの元ではなくクラリスの屋敷へ向かった。デニスへの用件はただの先日の答礼だから父上には適当に「デニスは許してくれた」とでも報告すればいいだろう。
この前は変にアンドリュー侯爵への用件をでっちあげたせいで余計な会談をするはめになって恥をかいたが、今回はそういうこともない。たまたま近くまで立ち寄ったということにしている。
「ようこそお越しくださいました」
屋敷に入ると、クラリスが優しい微笑みとともに僕を出迎えてくれる。その笑顔を見て僕はとても癒されるのを感じた。
アンナを見ても何も思わないか、むしろ疎ましく思うがクラリスの柔らかい笑顔を見ると、まるで自分の家に帰って来たような気持ちにすらなる。
アンナが僕を疎み、父上には怒られ、使用人たちには侮られている今の屋敷の様子のことを考えると、むしろこちらが実家と言っても過言ではないかもしれない。
「僕のことを気遣ってくれてとてもありがとう」
「最近ベン様は色々大変だという噂を聞きまして、何か出来ることがあればと」
「その気持ちだけで嬉しいよ」
「ではどうぞこちらへ」
そう言って僕は応接間に通される。そこにはすでに紅茶のポットとお茶菓子が用意され、僕がやってくるとクラリスがお茶を注いでくれる。
香りをかぐと僕は最近の苛々がいっぺんに消えていくようだった。
「いやあ、とても癒されるよ」
「ありがとうございます。それで最近は何でお悩みなのでしょうか? 私で良ければ何かお力になれるかもしれません」
「そうだ、それなんだが……」
そう言って僕はアンナが余計なことばかりするという話、そして屋敷の人々がそんなアンナばかりを頼りにするようになり、逆に僕を侮るようになったという話をする。また、それを見た父上もなぜか僕ばかりを一方的に悪者にしてくる。
最初は普通に話していたが、話しているとだんだん熱が入り、感情もこもってくる。
「……と言う訳で今の僕は周りが敵だらけなんだ! ……はっ」
僕は話終えて、そこでつい熱くなってしまっていたことに気づく。
クラリスもいきなりこんな一方的にまくしたてられて引いていないだろうか。不安になって彼女を見ると、彼女は真剣に聴き入ってくれていたようで僕はほっとする。
「まあ、それは大変ですね。でもそれはベン様は悪くないです。きっと父上は、アンナ様にベン様よりもご自身の方が優秀だと吹き込まれているのです」
「何だと!?」
それを聞いて僕が驚く。まさかアンナが父上にそんなことを言っていたなんて……いや、だとすれば父上がいつも僕のことばかり怒ってくるというのも理解は出来る。
つまり僕は全く悪くなかったのか。まるで目から鱗が落ちるようだ。
「そうだったのか、やはり僕は悪くなかったのか」
「はい、私は何度かベン様とお話したことがあるのでよく分かります」
「ありがとう、そんなことを言ってくれるのはクラリスだけだ」
僕は改めて彼女のような人物と出会えたことに感謝する。と同時に、その人物が自分の伴侶でなかったことを悲しんだ。
それと同時にすでに日が落ちかけていることに気づく。もう帰らなければならないと思うと、クラリスとの別れ、そしてあの屋敷に帰るという二つの意味で胸が痛む。
「悲しいけど、僕はもう帰らなければ」
「そんな……もっとお話しを聞きたかったのに」
「大丈夫、今度は僕の屋敷に招くよ」
「え、でもアンナ様が……」
「あいつは追い出しておくから大丈夫さ。だからきっとすぐまた会える」
この時、僕はあまりに自然にそう言っていたことに気づき、言ってから驚いた。どうやら僕の意志はすでに決まっていたらしい。
クラリスは少し驚いたものの、それには何も反論しなかった。
そして僕は屋敷を出たのだった。
この前は変にアンドリュー侯爵への用件をでっちあげたせいで余計な会談をするはめになって恥をかいたが、今回はそういうこともない。たまたま近くまで立ち寄ったということにしている。
「ようこそお越しくださいました」
屋敷に入ると、クラリスが優しい微笑みとともに僕を出迎えてくれる。その笑顔を見て僕はとても癒されるのを感じた。
アンナを見ても何も思わないか、むしろ疎ましく思うがクラリスの柔らかい笑顔を見ると、まるで自分の家に帰って来たような気持ちにすらなる。
アンナが僕を疎み、父上には怒られ、使用人たちには侮られている今の屋敷の様子のことを考えると、むしろこちらが実家と言っても過言ではないかもしれない。
「僕のことを気遣ってくれてとてもありがとう」
「最近ベン様は色々大変だという噂を聞きまして、何か出来ることがあればと」
「その気持ちだけで嬉しいよ」
「ではどうぞこちらへ」
そう言って僕は応接間に通される。そこにはすでに紅茶のポットとお茶菓子が用意され、僕がやってくるとクラリスがお茶を注いでくれる。
香りをかぐと僕は最近の苛々がいっぺんに消えていくようだった。
「いやあ、とても癒されるよ」
「ありがとうございます。それで最近は何でお悩みなのでしょうか? 私で良ければ何かお力になれるかもしれません」
「そうだ、それなんだが……」
そう言って僕はアンナが余計なことばかりするという話、そして屋敷の人々がそんなアンナばかりを頼りにするようになり、逆に僕を侮るようになったという話をする。また、それを見た父上もなぜか僕ばかりを一方的に悪者にしてくる。
最初は普通に話していたが、話しているとだんだん熱が入り、感情もこもってくる。
「……と言う訳で今の僕は周りが敵だらけなんだ! ……はっ」
僕は話終えて、そこでつい熱くなってしまっていたことに気づく。
クラリスもいきなりこんな一方的にまくしたてられて引いていないだろうか。不安になって彼女を見ると、彼女は真剣に聴き入ってくれていたようで僕はほっとする。
「まあ、それは大変ですね。でもそれはベン様は悪くないです。きっと父上は、アンナ様にベン様よりもご自身の方が優秀だと吹き込まれているのです」
「何だと!?」
それを聞いて僕が驚く。まさかアンナが父上にそんなことを言っていたなんて……いや、だとすれば父上がいつも僕のことばかり怒ってくるというのも理解は出来る。
つまり僕は全く悪くなかったのか。まるで目から鱗が落ちるようだ。
「そうだったのか、やはり僕は悪くなかったのか」
「はい、私は何度かベン様とお話したことがあるのでよく分かります」
「ありがとう、そんなことを言ってくれるのはクラリスだけだ」
僕は改めて彼女のような人物と出会えたことに感謝する。と同時に、その人物が自分の伴侶でなかったことを悲しんだ。
それと同時にすでに日が落ちかけていることに気づく。もう帰らなければならないと思うと、クラリスとの別れ、そしてあの屋敷に帰るという二つの意味で胸が痛む。
「悲しいけど、僕はもう帰らなければ」
「そんな……もっとお話しを聞きたかったのに」
「大丈夫、今度は僕の屋敷に招くよ」
「え、でもアンナ様が……」
「あいつは追い出しておくから大丈夫さ。だからきっとすぐまた会える」
この時、僕はあまりに自然にそう言っていたことに気づき、言ってから驚いた。どうやら僕の意志はすでに決まっていたらしい。
クラリスは少し驚いたものの、それには何も反論しなかった。
そして僕は屋敷を出たのだった。
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