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楽しいひと時
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「聞いたよ、どうやらベンは自分の不始末を全て僕のせいにしようとしていたようだね」
お茶を淹れると、デニスはそう口を開きました。
「すみません……」
分かっていたこととはいえ、直接それをデニスの口から聞くと申し訳なさで穴があったら入りたい気持ちになります。
ベンも家臣たちも自分の非を認めたくないからといってデニスのせいにするにはいくら何でも無理があるということになぜ気づかないのでしょうか。それとも相手からどう思われようとも自分たちさえ良ければそれでいいということでしょうか。
「それで僕の元に先日の件について詰問するような書状が届いたから、その返事がてらやってきた訳さ。とはいえまさかこんなことになっていたとはね」
「はい……しかしその様子だとベンはあまり反省してはいない様子ですね」
もしかしたら反省しているかもしれないというわずかな期待が裏切られ、悲しくなります。
「そうだね。とはいえ、思い返してみると本気で僕を責めているというよりは父親に叱責を受けたからか情緒不安定になっているという方が正確かもしれない」
「要するに、自分の不始末のせいで父親に怒られて、それで貯まったストレスで周囲に当たり散らしていると」
「多分そんな感じだ」
それを聞いて溜め息をつきます。
そんなことだともう手の施しようがありません。
「屋敷の様子はどうでしょう?」
「さあ……僕は初めて来たから普段との違いはよく分からないが、そこまで酷くはなかったよ」
となるともしかしてベンでは公爵が直々に屋敷のことにも指示を出しているのかもしれません。
「そう言えば君はずっとこんなところで何をしているんだい?」
「はい、古い本がたくさんあったのでずっとそれを読んでいます。最初は慣れなくて体がむずむずしたこともあったのですが、今はすっかり熱中しています」
「それなら邪魔して悪かったね」
そう言ってデニスはいたずらっぽく笑います。
「い、いえ、そんなことはありません!」
「そうか? それでどんな本を読んでいるんだ?」
「例えば……」
そう言って私は何冊か本の名前を挙げます。
するとベンは驚いたような顔をしました。
「おお、それを読んでいるのか! 実は僕も昔読んで好きだったんだ」
「本当ですか!? こんな本を読んだことある人がいるとは思いませんでした!」
私もそれを聞いて驚きます。
ベンがこういう話題を出すと露骨に嫌がるので私はこの手の離しを誰かとするのは諦めていましたが、まさかデニスと話が合うとは。
「デニスさんはどこが気に入りましたか?」
「ああ、僕は……」
それから私たちはお互い時間を忘れて本の話をしました。
デニスも幼いころは割と色んな本を読んでいたらしく話は尽きず、気が付くともう日は傾き始めていました。
それを見てデニスは名残惜しそうに席を立ちます。
私もあまり顔には出さないようにしていますが、こんなに楽しかったのは久し振りだったので大分名頃惜しいです。
「まずい、さすがにそろそろ帰らなければ」
「すいません、こんなに長く引き留めてしまって」
「いやいや、僕の方こそ楽しかった。それに僕だってこんなに本の話が出来たのは初めてかもしれない」
「でも……こんなに長く話したらベンに文句を言われるかもしれません」
「別にいいさ、すでに彼には十ほども文句を言われているからね」
「あはは……」
それを聞くと私は苦笑いをすることしか出来ません。
「ではまた機会があれば本の話をしよう」
「は、はい」
こうしてデニスは手を振って帰っていくのでした。
お茶を淹れると、デニスはそう口を開きました。
「すみません……」
分かっていたこととはいえ、直接それをデニスの口から聞くと申し訳なさで穴があったら入りたい気持ちになります。
ベンも家臣たちも自分の非を認めたくないからといってデニスのせいにするにはいくら何でも無理があるということになぜ気づかないのでしょうか。それとも相手からどう思われようとも自分たちさえ良ければそれでいいということでしょうか。
「それで僕の元に先日の件について詰問するような書状が届いたから、その返事がてらやってきた訳さ。とはいえまさかこんなことになっていたとはね」
「はい……しかしその様子だとベンはあまり反省してはいない様子ですね」
もしかしたら反省しているかもしれないというわずかな期待が裏切られ、悲しくなります。
「そうだね。とはいえ、思い返してみると本気で僕を責めているというよりは父親に叱責を受けたからか情緒不安定になっているという方が正確かもしれない」
「要するに、自分の不始末のせいで父親に怒られて、それで貯まったストレスで周囲に当たり散らしていると」
「多分そんな感じだ」
それを聞いて溜め息をつきます。
そんなことだともう手の施しようがありません。
「屋敷の様子はどうでしょう?」
「さあ……僕は初めて来たから普段との違いはよく分からないが、そこまで酷くはなかったよ」
となるともしかしてベンでは公爵が直々に屋敷のことにも指示を出しているのかもしれません。
「そう言えば君はずっとこんなところで何をしているんだい?」
「はい、古い本がたくさんあったのでずっとそれを読んでいます。最初は慣れなくて体がむずむずしたこともあったのですが、今はすっかり熱中しています」
「それなら邪魔して悪かったね」
そう言ってデニスはいたずらっぽく笑います。
「い、いえ、そんなことはありません!」
「そうか? それでどんな本を読んでいるんだ?」
「例えば……」
そう言って私は何冊か本の名前を挙げます。
するとベンは驚いたような顔をしました。
「おお、それを読んでいるのか! 実は僕も昔読んで好きだったんだ」
「本当ですか!? こんな本を読んだことある人がいるとは思いませんでした!」
私もそれを聞いて驚きます。
ベンがこういう話題を出すと露骨に嫌がるので私はこの手の離しを誰かとするのは諦めていましたが、まさかデニスと話が合うとは。
「デニスさんはどこが気に入りましたか?」
「ああ、僕は……」
それから私たちはお互い時間を忘れて本の話をしました。
デニスも幼いころは割と色んな本を読んでいたらしく話は尽きず、気が付くともう日は傾き始めていました。
それを見てデニスは名残惜しそうに席を立ちます。
私もあまり顔には出さないようにしていますが、こんなに楽しかったのは久し振りだったので大分名頃惜しいです。
「まずい、さすがにそろそろ帰らなければ」
「すいません、こんなに長く引き留めてしまって」
「いやいや、僕の方こそ楽しかった。それに僕だってこんなに本の話が出来たのは初めてかもしれない」
「でも……こんなに長く話したらベンに文句を言われるかもしれません」
「別にいいさ、すでに彼には十ほども文句を言われているからね」
「あはは……」
それを聞くと私は苦笑いをすることしか出来ません。
「ではまた機会があれば本の話をしよう」
「は、はい」
こうしてデニスは手を振って帰っていくのでした。
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