上 下
20 / 40

楽しいひと時

しおりを挟む
「聞いたよ、どうやらベンは自分の不始末を全て僕のせいにしようとしていたようだね」

 お茶を淹れると、デニスはそう口を開きました。

「すみません……」

 分かっていたこととはいえ、直接それをデニスの口から聞くと申し訳なさで穴があったら入りたい気持ちになります。
 ベンも家臣たちも自分の非を認めたくないからといってデニスのせいにするにはいくら何でも無理があるということになぜ気づかないのでしょうか。それとも相手からどう思われようとも自分たちさえ良ければそれでいいということでしょうか。

「それで僕の元に先日の件について詰問するような書状が届いたから、その返事がてらやってきた訳さ。とはいえまさかこんなことになっていたとはね」
「はい……しかしその様子だとベンはあまり反省してはいない様子ですね」

 もしかしたら反省しているかもしれないというわずかな期待が裏切られ、悲しくなります。

「そうだね。とはいえ、思い返してみると本気で僕を責めているというよりは父親に叱責を受けたからか情緒不安定になっているという方が正確かもしれない」
「要するに、自分の不始末のせいで父親に怒られて、それで貯まったストレスで周囲に当たり散らしていると」
「多分そんな感じだ」

 それを聞いて溜め息をつきます。
 そんなことだともう手の施しようがありません。

「屋敷の様子はどうでしょう?」
「さあ……僕は初めて来たから普段との違いはよく分からないが、そこまで酷くはなかったよ」

 となるともしかしてベンでは公爵が直々に屋敷のことにも指示を出しているのかもしれません。

「そう言えば君はずっとこんなところで何をしているんだい?」
「はい、古い本がたくさんあったのでずっとそれを読んでいます。最初は慣れなくて体がむずむずしたこともあったのですが、今はすっかり熱中しています」
「それなら邪魔して悪かったね」

 そう言ってデニスはいたずらっぽく笑います。

「い、いえ、そんなことはありません!」
「そうか? それでどんな本を読んでいるんだ?」
「例えば……」

 そう言って私は何冊か本の名前を挙げます。
 するとベンは驚いたような顔をしました。

「おお、それを読んでいるのか! 実は僕も昔読んで好きだったんだ」
「本当ですか!? こんな本を読んだことある人がいるとは思いませんでした!」

 私もそれを聞いて驚きます。
 ベンがこういう話題を出すと露骨に嫌がるので私はこの手の離しを誰かとするのは諦めていましたが、まさかデニスと話が合うとは。

「デニスさんはどこが気に入りましたか?」
「ああ、僕は……」

 それから私たちはお互い時間を忘れて本の話をしました。
 デニスも幼いころは割と色んな本を読んでいたらしく話は尽きず、気が付くともう日は傾き始めていました。
 それを見てデニスは名残惜しそうに席を立ちます。
 私もあまり顔には出さないようにしていますが、こんなに楽しかったのは久し振りだったので大分名頃惜しいです。

「まずい、さすがにそろそろ帰らなければ」
「すいません、こんなに長く引き留めてしまって」
「いやいや、僕の方こそ楽しかった。それに僕だってこんなに本の話が出来たのは初めてかもしれない」
「でも……こんなに長く話したらベンに文句を言われるかもしれません」
「別にいいさ、すでに彼には十ほども文句を言われているからね」
「あはは……」

 それを聞くと私は苦笑いをすることしか出来ません。

「ではまた機会があれば本の話をしよう」
「は、はい」

 こうしてデニスは手を振って帰っていくのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ミーナとレイノーは婚約関係にあった。しかし、ミーナよりも他の女性に目移りしてしまったレイノーは、ためらうこともなくミーナの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたレイノーであったものの、後に全く同じ言葉をミーナから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。

(完)婚約解消からの愛は永遠に

青空一夏
恋愛
エリザベスは、火事で頬に火傷をおった。その為に、王太子から婚約解消をされる。 両親からも疎まれ妹からも蔑まれたエリザベスだが・・・・・・ 5話プラスおまけで完結予定。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

処理中です...