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離れでの暮らし

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「離れへ案内するよう言われたのでご案内いたします。すみません、こんなことになってしまって」

 それから少ししてメイド長のメリッサが申し訳なさそうな表情で私の元にやってきます。それに対して私は苦笑いを浮かべることしか出来ません。

「まあ、一週間も大人しくしていればベンさんの気も収まるでしょう」
「だといいのですが……」

 ベンは気が短いところがあるとともに、結構根に持つところがあるので本当に時間が経てば気が収まるのかはよく分かりません。

 そんなことを言いつつ私はメリッサの案内で屋敷を出て離れへと向かいます。
 離れにはまあまあ広いけれども質素な建物がぽつんと建っています。昔は使っていたけど今の屋敷を新築して以来使わなくなったところらしいですが、入るのは初めてです。
 元の屋敷に比べて飾り気はないですが、現在使われていない割に清掃が行き届いています。

「意外ときれいね」
「はい、一応きれいにしておくよう言いつけられていたので」

 中に入ると、キッチンには食器が、部屋には家具がきちんと保管されており、当分の生活には問題なさそうです。

「大丈夫でしょうか? 今後あまりここに出入りするとベン様に怒られそうなので、もし何かあれば今日のうちに言っていただければと」
「いえ、後は食事さえどうにかなれば特に問題はないわ。それよりも、メリッサもあの屋敷で働き続けるのは大変だろうけど頑張ってね」
「すみません、かえって気を遣ってもらってしまって」

 そう言ってメリッサは何度も振り返りながら屋敷に戻っていくのでした。



 さて、メリッサには気を遣わせてしまいましたが、実のところ私は離れが思ったよりきれいだったことでどちらかというと心は浮きたっていました。
 物理的に屋敷と離れていればもう屋敷で何が起こっていようと気にする必要はないでしょう。

 まずは離れの書斎に入ります。
 そこには価値のある書籍はさすがになさそうですが、古い本が色々おいてあります。元々本を読むのは好きでしたが、どうしても学問や歴史など実用的な本ばかり読まされてきたので、たまには芸術や物語などの本もゆっくり読んでみたいと思っていたところです。
 試しに何冊か開いてみると、かなり古い時代から伝わっているもののようで、見たこともないような本もたくさんあります。

 そのため、それらの本のページをめくっていると瞬く間に日が沈みます。最初のうちは自分がいつもしている仕事のようなことを何もしていないということもあってどこか落ち着きませんでしたが、本を読んでいるうちにそれも忘れていくのでした。

 そしてドアをノックする音でようやく我に帰った私は窓から差し込む日差しがオレンジ色になっているのを見て驚きます。
 すでに太陽が傾いており、もうこんなに時間が経っていたようです。

 慌ててドアの元へ向かうとメイドが夕食を渡すと、私と話すのは禁止でもされているのか、足早に去っていきました。そしてメイドが持ってきた質素な夕食を一人で食べます。肉も魚もなく、貴族というよりは修道女のような食事です。

 一人で食べるのは少し寂しかったですが、離れのダイニングからは庭の草木が見えるので、自然を見つつ食べると少し心が紛れました。
 そして食器を洗うと、遅くならないうちにベッドに入ります。

 屋敷にいたときはいつも何だかんだ面倒事があっていつも遅くなっていたので早く寝れるのは久し振りかもしれません。
 喪失感よりも解放感が勝ったせいか、ベッドに入るとすぐに寝付いてしまうのでした。
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