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ベンの逆ギレ

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「アンナか……」
「あの、大丈夫ですか?」

 私が入っていくと、ベンは放心したようにソファに座っています。父親にあそこまでの叱責を受けたのがよほどショックだったのでしょう、その様子がありありと感じられます。

 が、ベンは私を見ると少しの間何も言わずに何かを考えている様子になります。
 そして最初は血色がなかった表情にどんどん生気が戻っていくのが見えます。
 よく分からないですが元気になったのであれば良かった、などと思っていると。

「……これも全てお前の仕業なのだな、アンナ?」

 急にベンが意味が分からないことを言ってきます。
 しかしその表情は深刻で、とてもふざけているようには見えません。

「あの、それはどういうことでしょうか?
「とぼけるな! お前が外出した途端屋敷がこんなにめちゃくちゃになるなんて何かおかしい! きっとそうなるように仕組んだに違いない!」
「……」

 予想外の言葉に私は沈黙してしまいます。
 そもそも私も一日外出しただけでまさかここまで酷い事になるとは思っていませんでしたが……。

「そんなことはしていません! 大体何でそんな面倒なことをわざわざ仕組まなければならないんですか!?」
「一体なぜ? そんなのは決まっている、僕に怒られたのが嫌で、自分がいないとうまくいかないということを証明しようとしたに違いない!」
「いえ、別に私が出かけていても問題がないならそれが一番いいのですが」

 別に私は好きでベンの手伝いや屋敷の仕事をしている訳ではありません。好きでしてない、というと嫌々やっているようですが、嫌いとは言えないまでもしなくて済むならその方がいいです。

 というか、ベンは私より劣っていることに劣等感があるのかもしれませんが、私は別にベンより優れていると思って優越感に浸っている訳ではありません。
 おそらくベンは勝手に私のことを自分の逆の人間だと思っているのでしょう。

「そんなことはない……きっと自分がいない時に限って問題が起こるように仕組んだはずだ!」
「そんなことはありません、それに問題が起こるということですが、誰もベンさんの元に報告に行かなかったのでしょうか?」

 先ほど聞いた話だとベンの元に伝えにいったということでしたが。

「そうだ、それも言いたかったんだ! 皆アンナが甘やかしていたせいで平然と僕に対して無礼な態度をとるようになっている! それも困っているんだ!」
「一応訊きますが、無礼というのは?」
「何とはなしに僕のことを侮っている! そうだ、君が知っていることでも僕は知らないとか、そんなことも分からないのか、とかだ」

 それを言われて私はつい納得してしまいます。
 先ほど怒られた時もちらっとそんな話題が出ていましたが、屋敷の人々からすれば普段やりとりしている私が諸々を把握しているため、どうしてもベンが頼りなく見えてしまうのでしょう。
 とはいえそれを侮られている、と解釈するのは被害妄想が過ぎる気がします。

「僕に対してそういう態度をとるなんて、全く、教育がなってない!」
「それは……すみません」
「何だその謝り方は。本当に謝る気があるのか!?」

 ベンはよほど父親に怒られたのがショックだったからか、執拗に私に対して絡んできます。おそらく、あんな風に怒られたのは全て私のせいだったということにしないとやってられないと無意識に思い、それゆえに私を攻撃しているのでしょう。

「そう言われても、私は今日外出するのもあなたの許可をもらってからしました。それでも文句を言われるのは心外です」
「何だと、まだ文句を……」
「ベン様!」

 そんな永久に続きそうな言い合いをしているところへ、蒼い顔をしたベンの家臣がやってきます。見覚えがあると思っていたらあの時商人に絡んでいた者たちです。
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