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ベンの怒り

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「ふう、ようやくアンナに言いたいことを全部言うことが出来た」

 屋敷を出た僕は晴れ晴れとした気分で言う。

「しかしよろしいのでしょうか? アンナ様はベン様のためを思って色々してくれていたようですが」

 そんな僕に供の家臣が心配そうに言う。
 それを聞いて僕は少し不愉快な気持ちになる。結局こいつもアンナか、と。

「うるさい、そうは言うが最近の彼女は少し図に乗りすぎている。きっと自分がいないと僕が何も出来ないとでも思っているんだ!」
「そ、そうでしょうか?」

 家臣が首をかしげる。それを見て僕はまた苛々した。こいつらは何かあるといつもアンナの肩を持つ。確かに彼女は頑張っているのかもしれないが、そのせいでいつも僕が迷惑をこうむっているのは知らなかったのだろう、昨日「余計なことをするな」と言った時も何が悪かったのか理解していない様子だった。

「例えば、アンナが言っていた書類の件だ。あれはすぐに確認しないといけない書類を受け取ったから、来客を見送った後にすぐに確認しようと思ってそのまま客間に置いておいたんだ。そうすればすぐに気づくだろう?」
「ですがその後確認されなかったんですよね?」

 揚げ足をとるような言い方に僕は苛立つ。

「それはその後別の来客があったからだ!」

 しかも僕はちゃんとその書類を置きっぱなしにした客間とは別の部屋で会談した。そしたらその間にアンナは勝手に書類を片付けた訳である。
 全く、本当にこいつらはああ言えばこう言う。
 少しは僕の言うことを受け止めて自分が悪いという自覚を持ってはどうか。

「その後で僕は書類をとりに戻ったらなくなっていてびっくりしたんだ。その部屋を通りかかったメイドや執事皆に尋ねたが、皆見てないという。それで散々大騒ぎした挙句僕の部屋に置いてあったが、僕はずっと一人騒いで恥を晒しただけに終わったんだ!」
「……」

 家臣もようやく僕の言うことに納得してくれたのか、沈黙する。

「他にも、この前も僕付きのメイド同士がトラブルを起こしたことがあった。その時にアンナがトラブルを解決したらしく、その話が父上の耳に入った。そのせいで僕は『自分に仕えるメイドのトラブルも自分で解決できないのか!』と父上に怒られたんだ。しかも、『あれはアンナがやった』と言ったのに、『トラブルをアンナの方が早く把握している時点でダメだ』と言われたんだ」
「……」

 家臣も僕の言うことに反論出来ないだろう、黙ったままだ。
 それに気を良くして僕は続ける。

「それもこれもアンナが勝手に何事もやってしまうからだ。だから皆僕に言いにくいことは全部アンナに言っているし、アンナも本来僕がやることを勝手にやっているから有能に見えているのだろう。皆それに騙されすぎだ。お前も今後は気を付けろ」
「……分かりました」

 家臣が頷いたのを見て僕は満足する。
 最終的に分かってくれたのであればそれで良い。
 少し苛々したが、それは些細なことだ。

 何と言ってもこれから向かうアンドリュー家にはクラリスという二つ下の令嬢がいる。彼女は人形のように可愛く、しかもアンナと違って勝手に何かをすることもない。そのため僕は苛々したときはアンドリュー家との用事にかこつけて彼女に会いにいくのが日課になっている。
 彼女の愛くるしい笑顔を思い出すと苛々した気持ちも自然と吹き飛んでいくのだった。
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