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婚約破棄Ⅱ

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「全く、何だその恰好は。これから婚約相手の家のパーティーに行くというのに自覚はあるのか?」

 マリーの策略で着替えさせられた、見すぼらしい私のドレスを見た父上はそう言って溜め息をついた。

「父上、お姉様をあまり怒らないであげてください。先ほど私が淹れたコーヒーをお姉様がこぼしてしまったのでやむなく着替えたのです。私がコーヒーなど淹れなければ良かったのですが……」

 そう言ってマリーは反省するそぶりを見せるが、言うまでもなく彼女の言葉は嘘だ。しかも微妙に真実が混ざっているのが余計に性質が悪い。

「何を言う。そんなのこぼす方が悪いに決まっているだろう。いくつになってもそそっかしい。それではいくらオリバーが寛大な人物であっても愛想を尽かされてしまうぞ」
「……」

 オリバーの名前を出されて私は嫌なことを思い出してしまう。そもそも彼はとっくに私に愛想は尽かしているのだから関係ないが。
 そして父上の言葉にマリーはにやり、と笑みを浮かべた。この時はどういうことなのかよく分からなかったが、すぐに分かることになる。



 クローム公爵家に着くと、そこにはすでにたくさんの人々が集まっていた。お互い大きな家同士のつながりなので、たくさんの貴族を呼んでそのつながりをアピールしようということなのだろう。
 参列した貴族たちだけではなく、クローム家の使用人たちもひっきりなしに料理を運んだり会場の準備をしたりしていた。

 そんな中、私たちが歩いていくと一人の執事がやってきて頭を下げる。

「これはこれはエトワール公爵家の皆様、お待ちしておりました。さあエレナ様、オリバー様がお待ちです」

 そう言って執事はマリーの方を見る。
 するとマリーは勝ち誇った表情で言った。

「いえ、私はエレナではなく妹のマリーです。エレナはこちらですわ」

 そう言って彼女は私を指さす。その先にいる私の見すぼらしい恰好を見て執事は驚いた。おそらく悪意なく間違えたのだろうが、それが一番心にくる。

「こ、これは失礼いたしました。ではエレナ様、こちらでございます」

 そう言って執事は謝りながらも私の恰好にしきりに首をかしげた。
 こうして私たちはパーティー会場へと招かれる。

 オリバーは会場の真ん中にいて来賓の貴族たちに次々と挨拶している。私はそんな彼の元に案内される訳だが、今の見すぼらしい服装では満座の中で晒し者にされているようなものである。
 私の服装を見た貴族たちの中には失笑したり陰口を叩いたりしている者もいた。
 こんなことなら多少遅れてでもちゃんとしたドレスを着てきた方がまだましだったかもしれない、とも思うが遅れたら遅れたで晒し者になっていただろう。

 そこへオリバーが私に気づいてこちらへ歩いてくる。

「やあエレナ、待っていたよ」
 “何だその恰好は。さてはマリーの仕業か? それにしてもこんな恥ずかしい姿でうちのパーティーに来るなんて。その神経を疑うよ”

「いえ、お招きいただきありがとうございます」

 私は消え入りそうな声で言う。このまま今日は出会う人出会う人に辱めを受けなければならないのかと思うと心が折れてしまいそうだ。
 そんな私にオリバーは朗らかに言った。

「さて、主役も揃ったことだし始めようか」
 ”まあ何にせよ今日でこの関係も終わりだからな”
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