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最終編
アレクセイとメリアの破局
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イリスの書いた小説に出会ってからメリアは変わった。それまでのメリアは魔法の研究が第一で、研究費や設備のためにアレクセイに取り入っていたが、今では研究そっちのけでイリスの作品を探しては読みふけっていた。
一方のアレクセイは自分を悪役とした小説が出回り、しかもその内容を真に受けて王宮内での風当たりが強くなっていることに苛立ちが隠せなかった。さらに唯一の味方だと思っていたメリアまでがその小説にうつつを抜かしている。
「おのれメリアめ……誰か、メリアを呼び出せ!」
苛々したアレクセイはメリアを呼びつける。ここは一度ガツンと言っておかなければ。
しばらくして、見るからに嫌そうな顔をしたメリアが彼の前に現れる。
「一体何の用でしょうか、殿下」
「何の用か、ではない! 最近お前は小説にばかり夢中になってこの俺を軽んじていないか?」
「別に軽んじてはいません。役目はしっかりと果たしているはずです」
が、明らかにメリアの言葉は素っ気ない。
元々メリアがアレクセイと仲良くしていたのは出世のためだということをアレクセイは完全に見落としていた。だが、アレクセイは勝手にまるで恋人に裏切られたかのような怒りを覚える。
「大体あの小説はこの俺を愚弄するものだ! それなのにあの小説をおもしろがっているなど不愉快だ! 読むのをやめろ!」
「嫌です」
「は?」
正面から命令を拒絶されたアレクセイは驚きで目を白黒させる。
が、メリアは冷静になった。アレクセイは王子だし自分を可愛がってくれるからとりいったが、少なくとも小説を見る限り世の男はもう少し魅力的な者が多いだろう。それにこのまま彼にとりいって出世しても、このような性格だとどこかでボロが出るような気もする。
もちろんそういう男と都合よく出会ったり結ばれたりは出来ないかもしれないが、それなら小説を読むだけでもいいかという気持ちになる。
「職務に関することでしたらいくらでも命令は受けますが、プライベートでどのような書物を読もうと殿下に命令されるいわれはありません」
「この……絶対に許さない! 誰かこいつを捕えろ!」
可愛さ余って憎さ百倍とはいうが、今のアレクセイはまさにそんな心境であった。しかしさすがに王子の命令とはいえそれだけの理由で他人を捕えていいのだろうか、と周りの兵士たちも困惑する。
「いいのか? 僕に歯向かえばもう出世もさせてやらないし、研究費も出してやらないぞ!」
「どの道あの小説により私が殿下と癒着して出世したという風評が立っていたので、しばらくの間王宮を離れるつもりでした。ちょうどいいタイミングですのでこれにて私はお暇をもらおうと思います」
そう言ってメリアは形ばかりに頭を下げた。
今の取り乱しようを見るに、やはりアレクセイについていってもあまりいい結末があるようには見えない。メリアは自分の判断の正しさを確認する。
「この……これまでの恩を忘れやがって……」
アレクセイは怒りのあまり口をぱくぱくさせたが、もはやメリアにとって彼はただのうっとうしい権力者でしかなかった。
「これまでありがとうございました。それでは失礼いたします」
そう言ってメリアは王宮を出たのだった。
一方のアレクセイは自分を悪役とした小説が出回り、しかもその内容を真に受けて王宮内での風当たりが強くなっていることに苛立ちが隠せなかった。さらに唯一の味方だと思っていたメリアまでがその小説にうつつを抜かしている。
「おのれメリアめ……誰か、メリアを呼び出せ!」
苛々したアレクセイはメリアを呼びつける。ここは一度ガツンと言っておかなければ。
しばらくして、見るからに嫌そうな顔をしたメリアが彼の前に現れる。
「一体何の用でしょうか、殿下」
「何の用か、ではない! 最近お前は小説にばかり夢中になってこの俺を軽んじていないか?」
「別に軽んじてはいません。役目はしっかりと果たしているはずです」
が、明らかにメリアの言葉は素っ気ない。
元々メリアがアレクセイと仲良くしていたのは出世のためだということをアレクセイは完全に見落としていた。だが、アレクセイは勝手にまるで恋人に裏切られたかのような怒りを覚える。
「大体あの小説はこの俺を愚弄するものだ! それなのにあの小説をおもしろがっているなど不愉快だ! 読むのをやめろ!」
「嫌です」
「は?」
正面から命令を拒絶されたアレクセイは驚きで目を白黒させる。
が、メリアは冷静になった。アレクセイは王子だし自分を可愛がってくれるからとりいったが、少なくとも小説を見る限り世の男はもう少し魅力的な者が多いだろう。それにこのまま彼にとりいって出世しても、このような性格だとどこかでボロが出るような気もする。
もちろんそういう男と都合よく出会ったり結ばれたりは出来ないかもしれないが、それなら小説を読むだけでもいいかという気持ちになる。
「職務に関することでしたらいくらでも命令は受けますが、プライベートでどのような書物を読もうと殿下に命令されるいわれはありません」
「この……絶対に許さない! 誰かこいつを捕えろ!」
可愛さ余って憎さ百倍とはいうが、今のアレクセイはまさにそんな心境であった。しかしさすがに王子の命令とはいえそれだけの理由で他人を捕えていいのだろうか、と周りの兵士たちも困惑する。
「いいのか? 僕に歯向かえばもう出世もさせてやらないし、研究費も出してやらないぞ!」
「どの道あの小説により私が殿下と癒着して出世したという風評が立っていたので、しばらくの間王宮を離れるつもりでした。ちょうどいいタイミングですのでこれにて私はお暇をもらおうと思います」
そう言ってメリアは形ばかりに頭を下げた。
今の取り乱しようを見るに、やはりアレクセイについていってもあまりいい結末があるようには見えない。メリアは自分の判断の正しさを確認する。
「この……これまでの恩を忘れやがって……」
アレクセイは怒りのあまり口をぱくぱくさせたが、もはやメリアにとって彼はただのうっとうしい権力者でしかなかった。
「これまでありがとうございました。それでは失礼いたします」
そう言ってメリアは王宮を出たのだった。
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