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最終編
決意
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「お嬢様、ドレイク様がお越しです」
メイドの言葉を聞いて私はついに来たか、と思った。むしろ今まで何度も会っていてばれていなかったのが奇跡とも言うべきことだろう。
問題はそれを察したドレイクの反応だ。隠していたことを怒るのか、見つかったことを喜ぶのか。
「通して」
私は覚悟を決める。そこへ同じく緊張の面持ちをしたドレイクが案内されて自室にやってきた。
私は何といったらいいのか分からずに無言で椅子に座って待つ。ドレイクは私に向かい合って座ると意を決したように言う。
「やはりあなただったのですね」
その言葉に私はごくりと唾を飲み込む。
「どこまで知っているのでしょうか?」
「分かりません。ただ推測するにあなたはたまたま未来を予知し、聖女として名乗り出るとあの小説に書いてあるようにアレクセイ殿下に罪を着せられることを知った。それで名乗り出ることをやめていたのではないでしょうか?」
ドレイクの予想はおおむね当たっていた。前世と未来予知は少し違うけど、起こっていることで考えればそんなに変わらないだろう。
ドレイクの言葉が冷静だったからか、重大事がばれたというのに意外なほど私は冷静だった。私が黙っているとドレイクはなおも続ける。
「イリス殿。もしもイリス殿が聖女であるとおっしゃるのであればこの私が命に代えてもお守りします」
そう言って彼は真剣な目でこちらを見つめる。
ここまで真剣な表情で見つめられてしまえばもはや隠し通すことは出来ない。
「……分かりました。お察しの通り、小説に書いた話は私が罪を着せられるところまではおおむね事実です」
「やはりそうでしたか。ちなみに、予想だとその後はどうなるのでしょうか」
「その後私は食事に毒を混ぜられて死にます」
「それは酷い!」
私の言葉を聞いたドレイクは絶句した。
「なるほど、それでしたら今まで頑なに名乗り出なかったお気持ちもお察しいたします。分かりました、そういうことでしたら私が一肌脱ぎましょう。そもそも小説に書いてある通りだとすれば、アレクセイ殿下との婚約が冤罪の原因ではないかと思います。ですからそれさえなければ殿下もわざわざイリス殿を殺すことはないはずです」
「しかし聖女と王子が婚約するのは慣例だったはずです。それを止めることは出来るのでしょうか?」
「その辺は私が何とかしましょう。これでも聖騎士団長であれば多少の無理は効くものです」
「本当ですか!?」
これまで政略結婚というものは本人の意思ではどうにもならないと思っていたが、確かに聖騎士団長の言葉であればどうにかなるのかもしれない。アレクセイもメリアと結婚したかったから私を陥れただけで婚約者でなければ何もしてこないだろう。
もっとも、私と婚約しなかったからといってアレクセイがメリアと結婚出来るのかは知らないが。
「と言う訳でどうか私と共に名乗り出ていただけないのでしょうか」
「分かりました。でしたら全てをお話します」
私は意を決して全てを話すことにする。
聖女に名乗り出なかったものの、実はこっそり家で祈りを捧げていたこと。そしてそれを隠すために恋愛小説を書き始めた、という経緯を話す。
聞いている最中のドレイクは驚きの連続だったらしく、表情が次々と変わっていて真面目な話をしているのに少しおもしろかった。
そして話し終えた後にドレイクは改めて驚く。
「え!? あの小説は元から書いていたものではなく、最近書き始めたものだったのですか!? とても最近書き始めたものには思えませんでした!」
「ありがとうございます」
そう言われるのは悪い気はしなかった。
ドレイクはなおもしきりに感嘆の声をあげていたが、やがて
「しかしそのようなことがあったのに国のために祈りだけは欠かさずにいてくださり本当にありがとうございます」
と深々と頭を下げる。それを見て私はやはり彼はまじめな人なのだな、と思うのだった。
「いえ、当然のことをしたまでです。王子には恨みがあれど、国に滅びて欲しいとは思ってもいなかったので」
「分かりました。そのようなお心の方であれば余計にお守りしなければ、という思いになりました。それでは神殿の方に根回ししてまいりますのでしばしの間は正体を隠したままでお願いします」
「分かりました」
「では私はこれで」
そう言うと、ドレイクは慌ただしく部屋を出ていく。
私は一大決心をしたため、しばらくの間放心状態になってしまうのだった。
メイドの言葉を聞いて私はついに来たか、と思った。むしろ今まで何度も会っていてばれていなかったのが奇跡とも言うべきことだろう。
問題はそれを察したドレイクの反応だ。隠していたことを怒るのか、見つかったことを喜ぶのか。
「通して」
私は覚悟を決める。そこへ同じく緊張の面持ちをしたドレイクが案内されて自室にやってきた。
私は何といったらいいのか分からずに無言で椅子に座って待つ。ドレイクは私に向かい合って座ると意を決したように言う。
「やはりあなただったのですね」
その言葉に私はごくりと唾を飲み込む。
「どこまで知っているのでしょうか?」
「分かりません。ただ推測するにあなたはたまたま未来を予知し、聖女として名乗り出るとあの小説に書いてあるようにアレクセイ殿下に罪を着せられることを知った。それで名乗り出ることをやめていたのではないでしょうか?」
ドレイクの予想はおおむね当たっていた。前世と未来予知は少し違うけど、起こっていることで考えればそんなに変わらないだろう。
ドレイクの言葉が冷静だったからか、重大事がばれたというのに意外なほど私は冷静だった。私が黙っているとドレイクはなおも続ける。
「イリス殿。もしもイリス殿が聖女であるとおっしゃるのであればこの私が命に代えてもお守りします」
そう言って彼は真剣な目でこちらを見つめる。
ここまで真剣な表情で見つめられてしまえばもはや隠し通すことは出来ない。
「……分かりました。お察しの通り、小説に書いた話は私が罪を着せられるところまではおおむね事実です」
「やはりそうでしたか。ちなみに、予想だとその後はどうなるのでしょうか」
「その後私は食事に毒を混ぜられて死にます」
「それは酷い!」
私の言葉を聞いたドレイクは絶句した。
「なるほど、それでしたら今まで頑なに名乗り出なかったお気持ちもお察しいたします。分かりました、そういうことでしたら私が一肌脱ぎましょう。そもそも小説に書いてある通りだとすれば、アレクセイ殿下との婚約が冤罪の原因ではないかと思います。ですからそれさえなければ殿下もわざわざイリス殿を殺すことはないはずです」
「しかし聖女と王子が婚約するのは慣例だったはずです。それを止めることは出来るのでしょうか?」
「その辺は私が何とかしましょう。これでも聖騎士団長であれば多少の無理は効くものです」
「本当ですか!?」
これまで政略結婚というものは本人の意思ではどうにもならないと思っていたが、確かに聖騎士団長の言葉であればどうにかなるのかもしれない。アレクセイもメリアと結婚したかったから私を陥れただけで婚約者でなければ何もしてこないだろう。
もっとも、私と婚約しなかったからといってアレクセイがメリアと結婚出来るのかは知らないが。
「と言う訳でどうか私と共に名乗り出ていただけないのでしょうか」
「分かりました。でしたら全てをお話します」
私は意を決して全てを話すことにする。
聖女に名乗り出なかったものの、実はこっそり家で祈りを捧げていたこと。そしてそれを隠すために恋愛小説を書き始めた、という経緯を話す。
聞いている最中のドレイクは驚きの連続だったらしく、表情が次々と変わっていて真面目な話をしているのに少しおもしろかった。
そして話し終えた後にドレイクは改めて驚く。
「え!? あの小説は元から書いていたものではなく、最近書き始めたものだったのですか!? とても最近書き始めたものには思えませんでした!」
「ありがとうございます」
そう言われるのは悪い気はしなかった。
ドレイクはなおもしきりに感嘆の声をあげていたが、やがて
「しかしそのようなことがあったのに国のために祈りだけは欠かさずにいてくださり本当にありがとうございます」
と深々と頭を下げる。それを見て私はやはり彼はまじめな人なのだな、と思うのだった。
「いえ、当然のことをしたまでです。王子には恨みがあれど、国に滅びて欲しいとは思ってもいなかったので」
「分かりました。そのようなお心の方であれば余計にお守りしなければ、という思いになりました。それでは神殿の方に根回ししてまいりますのでしばしの間は正体を隠したままでお願いします」
「分かりました」
「では私はこれで」
そう言うと、ドレイクは慌ただしく部屋を出ていく。
私は一大決心をしたため、しばらくの間放心状態になってしまうのだった。
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※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
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