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最終編

ドレイクの悩み

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 そのころ、イリスの小説を読んだドレイクは唸り声を上げていた。

「この小説に出てくる主人公は言うまでもなくイリス殿だろうな。そしてヒーロー役の騎士ドルクはどう見てもわしのことではないか」

 そして二人がアレクを倒して王宮に戻った後、主人公は聖女に復帰し、ドルクと結婚している。恋愛小説の結末であると考えると特に不審はないが、元ネタにされていたドレイクはおだやかではなかった。
 別に勝手に元ネタにされたのが嫌とかではない。

 主人公がイリス、悪役が王子アレクセイと魔術師メリアという実在の人物が元ネタにされている小説に自分が登場したことで、イリスの意図を深読みしてしまわざるを得なかった。

「これはもしや……わしへの告白なのか? それとも自意識過剰なのか?」

 これまで恋愛に縁がなかったドレイクにはよく分からなかった。しかも相手は恋愛小説家だ。たまたま登場人物のモチーフとして良かったから使っただけという可能性も否定できない。

「そしてこの小説は妙なリアリティを感じるが、イリス殿はもしかして聖女なのだろうか?」

 もう一つの悩みはそこだった。勘違いでなければ、神託によるとこの周辺の貴族令嬢に聖女がいるという。ドレイクは自分が聖女を探しているから協力して欲しい、と彼女に告げたことがあるが、もし彼女が隠したいと思っているのであれば打ち明けない可能性もある。

 一度なぜ聖女が名乗り出ないのか原因を聞いてみたが、確か王宮の政治的なごたごたに巻き込まれるのが嫌だ、と言っていた。この小説の主人公も政治的なごたごた(実際は王子のわがままが原因だが)に巻き込まれていたが、それもイリスの本心の反映なのではないか。

 そしてドレイクにはさらにもう一つの疑問があった。

 確かに王子アレクセイはあまり人気がある人物ではないが、ここまで悪役にされるほどの悪事は働いていない。それなのに初期の彼女の小説(リリアが主人公のもの)でも悪役にされており、イリスの彼への敵意を感じる。いくら小説といえども何か理由がなければ一国の王子をここまで悪く書くことはないだろう。
 これまでの人生で接点があったとも思えないしどこでそこまでの恨みを抱いたのだろうか。また、魔術師メリアは王都周辺でも魔術師界隈以外ではそこまで有名な人物ではない。そのメリアを悪役の元ネタにしているのも引っ掛かる。

 まるで王子アレクセイが政治を動かし、メリアが本当に宮廷魔術師になった世界を見たことがあるかのようだ。
 そこまで考えてドレイクはふと突拍子もないことを思いつく。

「もしかしてイリス殿は自分が聖女になった後のことを未来予知したのか?」

 予知能力者はそんな頻繁に現れる存在ではないが、古の歴史を紐解けば大災害を予言して人類を救った予言者もいる、と伝説では書かれている。

 イリスが未来予知し、その際に小説内のようにアレクセイに嵌められて冤罪で投獄されたのであれば聖女に名乗り出ないことや、アレクセイとメリアに敵意を持っていることも納得がいく。
 そしてドレイクをモチーフにしたヒーローが彼女を助けるという描写はどうだろうか。
 もしかしたら彼女は聖女として名乗り出たいが、その際に小説内のように助けてくれる人物の出現を望んでいるのではないか。というか、ドレイクに助けて欲しいと願っているのではないか。

 ドレイクはそう解釈した。

「よし、そうと分かれば聖騎士団団長としてイリス殿を守ると誓おう」

 そしてドレイクは意を決してイリスの元へと向かったのである。
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