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最終編
自分の作品(2)
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どうにか城から脱出した私たちは早速味方集めを開始した。王子アレクのやり方には元々不満を持つ者がいたが、今回の聖女追放にはさすがに眉をひそめる者もいた。特に、神殿からは強い反発が上がり、神殿と関係の深い貴族たちもそれに同調した。
私たちは王都近くのとある神殿に隠れて味方を集めていたが、数日後に一人の神官が報告にやってくる。
「朗報です! ついに世論に押されて王宮にてどちらが正しいか対決する裁判が開かれることが決まりました!」
「本当か!?」
「やりました!」
それを聞いてドルクと私は喜び合う。正式な裁判さえ行われれば私たちの主張が正しいことは明らかになるだろう。
また、正式な裁判であればさすがのアレクも力ずくで身柄を拘束するということは出来ない。そのため裁判が開かれる時点で私たちの勝利はかなり濃厚であった。
当日、私たちは満を持して王宮に向かった。王宮には裁判の行方に注目する貴族や多数の有力者が集まっており、いつになく緊張に満ちている。そんな中、ドルクは片時も私の傍を離れずについてきてくれていた。
開始直前、私がお手洗いに向かった時もドルクがついてきたのはさすがに驚いてしまった。
「あの、守ってくださるのは嬉しいですが、これだけ人が多ければさすがのアレクも滅多なことは出来ないと思いますが」
「いや。あなたが本当は聖女であることは確実なことだ。となれば裁判に持ち込めば、アレク殿下は必ず負ける。ということはもし向こうが諦めてなければ裁判が始まる前にあなたを倒すしかないのだ」
「なるほど」
言われてみれば確かにそうだ。
私はドルクとともにお手洗いに入っていく。
その時だった。
突然、空をきるかすかな音とともに一振りのナイフがこちらに飛んでくる。
「せいっ」
ドルクは気合を入れると剣を振る。カツン、と甲高い音がしてナイフは床にたたきつけられる。
それを見て便器の後ろから黒い影のようなものが飛び上がり、こちらに向かってくる。が、ドルクは焦らずにその影に向かって的確に剣を振るう。
カキン、と金属同士がぶつかる音がしたかと思うと、次の瞬間には暗殺者の剣は彼の手から叩きとおされて床に転がっていた。
「動くな!」
そう言ってドルクは影に剣を突き付ける。
動きを止めた影を見ると黒ずくめの衣装をまとった小柄な男であった。身のこなしは素早く暗殺者としての訓練を受けていたのだろうが、ドルクには叶わず完全に動きを封じられていた。
「両手を挙げてその場に膝をつけ!」
ドルクが鋭い声で叫ぶ。
すると、彼は観念した表情を浮かべた後、突如苦悶をあげてその場に倒れた。
「ちっ、毒か」
ドルクは慌てて彼の口に手を突っ込み吐かせようとするが、彼が既に事きれていたために中断する。
全てが終わると私は安堵のあまりその場に座り込んでしまう。
そんな私にドルクは優しく手を差し伸べる。
「怖がらせて済まない。もう大丈夫だ」
「ありがとうございます」
お礼を言いつつ、やはりドルクの言ったことは正しかったのだ、と実感した。
そこへどたどたという足音とともに城の警備をしていた兵士たちが駆け込んでくる。
「何事だ!?」
「戦う音が聞こえたぞ!」
「見ての通りだ。もっとも、すでに事切れてはいるがな。さて、我らは後の予定が詰まっているので任せたぞ」
「は、はい」
ドルクは刺客を一人倒したというのに動揺することも興奮することもなく、淡々とその場を離れるのだった。
「アリス様、間もなく裁判が始まります!」
そこへ一人の男が少し焦った表情でこちらに走ってくる。
「何を言ってるんだ、こんなことがあったんだ。少しは遅らせるべきだろう」
「いえ、私は大丈夫です」
ドルクの配慮はありがたいが、別に私は負傷した訳でも自力で戦った訳でもない。それに、変に時間を空ければアレクがまた何か企まないという保証もない。
「そうか、ならば行こうではないか」
「はい」
こうして私たちは運命の裁判を行いに、王宮の広間へと足を踏み入れたのだった。
どうにか城から脱出した私たちは早速味方集めを開始した。王子アレクのやり方には元々不満を持つ者がいたが、今回の聖女追放にはさすがに眉をひそめる者もいた。特に、神殿からは強い反発が上がり、神殿と関係の深い貴族たちもそれに同調した。
私たちは王都近くのとある神殿に隠れて味方を集めていたが、数日後に一人の神官が報告にやってくる。
「朗報です! ついに世論に押されて王宮にてどちらが正しいか対決する裁判が開かれることが決まりました!」
「本当か!?」
「やりました!」
それを聞いてドルクと私は喜び合う。正式な裁判さえ行われれば私たちの主張が正しいことは明らかになるだろう。
また、正式な裁判であればさすがのアレクも力ずくで身柄を拘束するということは出来ない。そのため裁判が開かれる時点で私たちの勝利はかなり濃厚であった。
当日、私たちは満を持して王宮に向かった。王宮には裁判の行方に注目する貴族や多数の有力者が集まっており、いつになく緊張に満ちている。そんな中、ドルクは片時も私の傍を離れずについてきてくれていた。
開始直前、私がお手洗いに向かった時もドルクがついてきたのはさすがに驚いてしまった。
「あの、守ってくださるのは嬉しいですが、これだけ人が多ければさすがのアレクも滅多なことは出来ないと思いますが」
「いや。あなたが本当は聖女であることは確実なことだ。となれば裁判に持ち込めば、アレク殿下は必ず負ける。ということはもし向こうが諦めてなければ裁判が始まる前にあなたを倒すしかないのだ」
「なるほど」
言われてみれば確かにそうだ。
私はドルクとともにお手洗いに入っていく。
その時だった。
突然、空をきるかすかな音とともに一振りのナイフがこちらに飛んでくる。
「せいっ」
ドルクは気合を入れると剣を振る。カツン、と甲高い音がしてナイフは床にたたきつけられる。
それを見て便器の後ろから黒い影のようなものが飛び上がり、こちらに向かってくる。が、ドルクは焦らずにその影に向かって的確に剣を振るう。
カキン、と金属同士がぶつかる音がしたかと思うと、次の瞬間には暗殺者の剣は彼の手から叩きとおされて床に転がっていた。
「動くな!」
そう言ってドルクは影に剣を突き付ける。
動きを止めた影を見ると黒ずくめの衣装をまとった小柄な男であった。身のこなしは素早く暗殺者としての訓練を受けていたのだろうが、ドルクには叶わず完全に動きを封じられていた。
「両手を挙げてその場に膝をつけ!」
ドルクが鋭い声で叫ぶ。
すると、彼は観念した表情を浮かべた後、突如苦悶をあげてその場に倒れた。
「ちっ、毒か」
ドルクは慌てて彼の口に手を突っ込み吐かせようとするが、彼が既に事きれていたために中断する。
全てが終わると私は安堵のあまりその場に座り込んでしまう。
そんな私にドルクは優しく手を差し伸べる。
「怖がらせて済まない。もう大丈夫だ」
「ありがとうございます」
お礼を言いつつ、やはりドルクの言ったことは正しかったのだ、と実感した。
そこへどたどたという足音とともに城の警備をしていた兵士たちが駆け込んでくる。
「何事だ!?」
「戦う音が聞こえたぞ!」
「見ての通りだ。もっとも、すでに事切れてはいるがな。さて、我らは後の予定が詰まっているので任せたぞ」
「は、はい」
ドルクは刺客を一人倒したというのに動揺することも興奮することもなく、淡々とその場を離れるのだった。
「アリス様、間もなく裁判が始まります!」
そこへ一人の男が少し焦った表情でこちらに走ってくる。
「何を言ってるんだ、こんなことがあったんだ。少しは遅らせるべきだろう」
「いえ、私は大丈夫です」
ドルクの配慮はありがたいが、別に私は負傷した訳でも自力で戦った訳でもない。それに、変に時間を空ければアレクがまた何か企まないという保証もない。
「そうか、ならば行こうではないか」
「はい」
こうして私たちは運命の裁判を行いに、王宮の広間へと足を踏み入れたのだった。
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