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エレノーラ編

番外編 聖騎士ドレイク(2)

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「ドレイク様、周辺の貴族家に怪しい人物がいました!」
「何?」

 部下の言葉にドレイクはすぐさま反応する。
 あの日以来、ドレイクは神のお告げを信じて部下の騎士たちに近隣の貴族家を調査させていた。ばれたら顰蹙を買いかねない行為であるが、聖女探しという緊急事態の前ではそのようなことを構っていることは出来なかった。

「バイオレット男爵家のエレオノーラというご令嬢が最近、部屋にこもってこそこそしているという情報を掴みました」
「何だと? しかしこそこそとは具体的にどういうことだ」

 ドレイクの問いに部下は少し困った様子になる。

「分かりませんが……どうにも家族にも見られたくないことがある様子」
「そうか。それは本当に聖女と関係あるのか?」

 情報が曖昧過ぎてドレイクは困惑する。思春期の女子であれば家族に見られたくないことの一つや二つあるだろう。
 早めに報告してくれるのは嬉しいが、せめてもう少し絞ってから報告して欲しい。

「ここまで聖女が見つからないということは本人が隠しているという可能性が高いです」
「しかしなぜ?」
「例えば好きな相手がいて、聖女となると離れ離れになるのを嫌った、とか。エレノーラ嬢の婚約相手であるサムエル殿は女性に大人気の貴公子と聞きます」
「なるほど」

 確かに聖女となればその結婚相手は自分で選べない可能性が高い。聖女の結婚相手の家は出世することになるが、もし当人の恋愛感情でその家が選ばれればそれを嫉んだ他家に追い落とされるということもあるかもしれない。
 そのため、聖女になれば今の婚約相手とも別れさせられることになる可能性は十分にある。

「ならば早速調査してみよう」

 ドレイクは聖騎士ではあるが、聖騎士に抜擢される前には隠密任務に従事していたこともある。下級貴族の令嬢を探るぐらいは造作もない。

 そんな訳でドレイクは使用人に変装してバイオレット家に潜り込むと、さりげなくエレノーラの情報を探った。もはやばれたら大問題の行為であるがそんなことはお構いなしだ。

 そしてそんなある日のことである。エレノーラは涙ぐみながら手に何枚かの紙束を持って足早に帰宅する。そして自室に引きこもった。

「一体何があったんです?」

 ドレイクは他の使用人に尋ねる。すると彼も肩をすくめた。

「さあ……何でも、お友達のハイランダー男爵家のイリスお嬢様の元に最近よく遊びにいっているようですが」
「そうですか」

 あまり関係なさそうな気もするが、もしかしたら聖女になってしまった彼女は友達のイリスに、名乗り出るかどうか相談をしているのかもしれない。

 そう考えたドレイクは翌日、エレノーラが外出した隙に彼女の部屋に忍び込む。例の紙は机の引き出しに締まってあった。もし彼女が聖女について相談しているのならばこの紙に真相が書いてあるはずだ。
 そう考えたドレイクは罪悪感に苛まれながらも紙に目を通す。もしこれでただのプライベートな手紙や日記であれば、本当に申し訳なくなる。

 そして驚愕した。

「こ、これは……!?」

 そこに書かれていたのはエレノーラの日記のようであった。しかしよく見ると、机の中に入っている他の紙と筆跡が違う。とするとこれはイリスが書いた恋愛小説であろうか。

 これまで鍛錬と任務だけに生きてきたドレイクは恋愛小説という文化に触れたことはなかったが、今日初めてその文化を知った。

 そして……

「これはおもしろい! このようなものをイリス嬢が書いているのか」

 なんとどはまりしてしまった。これまで恋愛小説どころか自分の恋愛すらほぼなかったドレイクだが、この小説を読んでいるとまるで自分のことのように胸がどきどきする。

 エレノーラの部屋を離れても彼の興奮は冷めない。もっと他のものも読んでみたい、という痛烈な興味に襲われる。

「よし、もしかしたらイリス嬢も怪しいかもしれない。一応監視した方がいいかもしれぬな」

 こうして、ドレイクは職権を濫用してイリスに会いにいくことに決めた。
 もっとも、まったくの偶然ではあるが彼の選択は正解だったのだが、彼がそれに気づくのはだいぶ先になるだろう。
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