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エレノーラ編

エレノーラ編 作中作(1)

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(作品内、サムエル)

 その日のデートも雰囲気は悪くなかった。サムエルが予約したちょっとおしゃれなレストランに行き、一緒にご飯を食べて夜景を眺めた。

 なのに、それだけだった。途中エレノーラの方から手を差し伸べてくれたのにサムエルがそれを拒絶してしまったため、悲しんだエレノーラは食べ終わるとすぐに帰ってしまった。

 エレノーラが帰った後、一人になったサムエルはため息をつく。

「ああ、今日もエレノーラに触れることが出来なかった」

 サムエルとエレノーラは十歳のころからの許嫁関係にある。サムエルが初恋の人に振られて落ち込んでいたころ、優しく慰めてくれたのはエレノーラだった。家同士の都合で決められた関係だったが、二人はお互いのことが好きだったから内心その関係を憎からず思っていた。
 今日もエレノーラと会うのを楽しみにしていたサムエルだったが、結局会話するだけで手を握ることすら出来なかった。当然キスなど夢のまた夢である。

「ああ、僕はなんて情けないんだ」


 サムエルがこうなってしまったのは初恋の相手に理由がある。
 これはまだサムエルが七歳だったころの話である。サムエルはリセアという五つも年上の男爵令嬢に一目ぼれした。リセアはいつもきれいに着飾っていて、顔立ちも整っていてきれいだった。その上、笛を吹くときの彼女の姿は美しかった。
 当時読んでいた恋物語の影響を受けたサムエルはリセアに恋文を渡して思いを告げた。リセアがその時どんな気持ちでサムエルと付き合うことにしたのかは不明だったが、リセアは承諾の恋文を返し二人は付き合うことになった。それから二人は文通するようになった。

 事件が起こったのは忘れもしない初デートの時である。誘ったのはサムエルからで、彼は七歳なりに頑張ってリセアをエスコートし、いい風景の名所を案内し、貴族御用達の高級レストランにて夕食をともにした。二人はレストランに設けられたテラスできれいな星空を眺めながらとりとめのない話をした。
 これはいける、と七歳のサムエルは思った。話ははずんでいたし、雰囲気も悪くなかった。そして最近読んだ恋物語のようにリセアをそっと抱きしめると唇を奪おうとした。
 が、そこで事件が起きた。

「きゃあああっ!」

 突然リセアは悲鳴を上げるとサムエルを突き飛ばす。
 サムエルは呆然としてその場に倒れた。何が起こったのか分からない。そんな彼をリセアはゴミでも見るような目で見降ろす。

「全く、子供の遊びだと思って付き合ってみればこんなこと……汚らわしい」
「そんな……」

 リセアは吐き捨てるように言うと、サムエルが触れた部分をまるで汚れでも払うように手で払った。そして踵を返して去っていった。

「そんな、待ってくれ……」

 それ以来、サムエルは例え家族といえども気安く女性に触れることが出来なくなってしまった。触れようとするたびにこの時の光景がフラッシュバックし、激しい拒絶感に襲われる。



 が、エレノーラと別れ一人落ち込むサムエルの元へ近づいて来る一人の影があった。

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