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リリア編

リリアの頼み(2)

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「どうしよう……引き受けてしまったけど、リリアに読まれると思うと書けない……」

 リリアが帰った後、私はひたすら後悔していた。小説を書いていると思われること自体は聖女がばれることに比べれば全然ましだ。そして、小説を書くのもまあいい。
 しかし書いたものを知り合いに読まれるというのは恐るべき恥ずかしさではないだろうか。その時は下手ならリリアも諦めるだろう、と思ったけど冷静に考えると下手な作品をリリアに見られるのも嫌だ。

「お嬢様、どうしましたか? リリア様が帰られてからずっと上の空ですが」

 そんなことを考えていたらアリシアにも心配そうな目で見られてしまった。

「いや、次の小説の展開どうしようかなって」

 私は咄嗟に嘘をついたが、冷静に考えるとそこまで嘘ではない。引き受けた以上書かざるを得ないのだから。

「そうですか。それは失礼いたしました」

 アリシアがまずいことを聞いてしまった、というふうに謝る。「こいつそっとしておこう」みたいな反応もそれはそれで刺さるんだけど。
 そんな訳でこの日の祈りも雑念にまみれたものになっていた。そしてどれだけ書くのが嫌であろうと、一度思い切って書いて終わらせてしまうのが一番早い、という最初から分かっていた結論に辿り着くのに三十分を要した。

 そして心を決めてからようやく内容を考え始める。確かに幼いころに書いてはいたけど、最近では全く書いていないからいきなり書けと言われてもすぐにアイディアが浮かんでくる訳もない。
 こうなったら主人公はリリアをモデルにしよう。相手の男もリリアの婚約相手であるオルトでいいだろう。考えるのが楽だし、リリアもその方が喜ぶのではないか。

 問題はオルトの設定だ。さすがに可愛い女の子を見つけるために手当たり次第声をかけるような男は主人公の相手としては失格だ。とはいえオルトは顔はいいし、リリアと会えば色々気遣いを見せてはくれるらしい。全く別人にするのはリリアの要望に沿わないから、せめてそこは維持したい。
 その辺の内容を膨らませて私は話を考える。

 現実で他の女の子に手を出しているとなると、小説内では一途さを感じさせる方がいい。なぜなら主人公の前でどれだけ魅力的に振る舞ったとしても「どうせ浮気をごまかすためでしょ」と思わせてしまうからだ。

 となると男はヤンデレにしよう、と思い立つ。作中で主人公を偏執的に愛していれば浮気しているとは思わないだろう。リリアも一途に愛されたら喜んでくれるかもしれない。

 お祈りが終わると、早速私はそれで一場面書こうと思い立つ。ブランクがあるのにちゃんと書けるだろうか、と思ったがいざ書き始めてみると思ったよりも手はすらすらと動いた。


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