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Ⅳ
エピローグ
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それから一年が経ちました。
途中で色々なことがありましたが、まず隣国アルムガルド王国との通商条約が正式に成立し、お互いの国同士の行き来はさらに盛んになりました。
マリクさんの助けもあり、サリーはその後半年ほどでおお店を任せることになりました。彼女は私に薬の知識を教わるだけでなく、家ではマリクさんに商売のイロハを教わっていたため、すぐに様々な知識を身に着けました。私が最初にお店を開いた時に比べればサリーの方がよほど頼もしいです。というか、薬の知識を抜きにすれば私よりもよほど店主の知識や能力を持っていると思います。
他にもエレンや新しく雇った人も仕事を覚え始め、お店としても大きくなっていきました。最近は王都にも新規出店しようという話が出ているほどです。
私は屋敷で薬学の勉強をしながら、時々多めに作った薬をお店に売っていました。とはいえ、母上を完全に治せるような薬はいまだに研究中です。
そして。
「セシリア、久しぶりだけど元気かい?」
条約が成立してお互いの国の行き来が盛んになったため、特に大きな事件がなくてもエドモンド殿下はひんぱんに我が国に来てくださるようになりました。
そして公務の合間を縫って我が屋敷にも立ち寄ってくだるのです。もっとも、うちは小さい貴族なので殿下がやってくるたびにおもてなしをどうするかで大騒ぎしていましたが。
「はい、私の方は相変わらずです」
「お店の方もサリーに任せたんだってな」
「そうですね。私は薬を作るのが得意というだけで、別に店主としての才能がある訳ではないので」
私の言葉に殿下は首をかしげます。
「そうだろうか? 短期間であそこまで繁盛したのなら才能はあるんじゃないか?」
「それはそうですが……あれは殿下のおかげですよ」
「そうだったか?」
殿下のお墨つきをいただいてからお客さんが増えたのですが、殿下の方はそこまで覚えていないようです。確かに殿下はサインを一つ書いただけなので覚えてないのも無理はないのかもしれません。
「しかしあの時は色々ありがとうございました。お店が繁盛したのも殿下のおかげですが、クロードが倒れた時は私に罪が着せられてもおかしくない状況でしたので」
「そんなことはない。アディントン公爵はじめ、僕以外にもそなたの無罪を主張する貴族は数多くいた。だから無罪を勝ち取ることが出来たのはそなたの人徳のたまものだ」
そう言われると少しこそばゆいような気持ちになってしまいます。
「ありがとうございます」
「それに、紅熱病の時はそなたのおかげでアディントン公爵とも親しくなることが出来た。公爵と親しくなったおかげで後の交渉も色々うまくいったからな」
殿下は満足そうに言います。
あのあと、どうも公爵は殿下のために条約に反対する国内の保守的な貴族たちの説得を行ってくださったらしいのです。
おかげでその後両国の行き来は盛んになり、実は私のお店にも隣国に薬を売りにいくための商人がくるという好影響がありました。
「とはいえ殿下はこれほどたくさん我が国に来ていますが、国内のことは大丈夫なのですか?」
私が尋ねると、殿下は苦笑しました。
「まあ父上も健在だし今のところは父上が国政、僕が外交ということで役割分担は出来ている。もっとも、そなたに会うためにこちらの国に来る用件を作っているというところはなくもないがな」
「え?」
さらりと言った殿下の言葉を危うく聞き逃してしまいそうになりましたが、私に会うために用件を作っている?
すると殿下は少しだけ真面目な表情になりました。
「そうだ。この国に用件を作るために、結んだ方がいい条約や、今後こういう交流を盛んにしたいという提案を考えていたんだ。まあそのおかげで色々といい政策を思いついたのだがな」
「そうだったのですか!?」
最近は両国でよくとれる農作物を交換したり、職人や技術者を交換したりということがありましたが、それらの政策がそんな不純な動機から生まれたものだったとは。
「まあそういう訳だがこれからもよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして私と殿下の奇妙な縁は続いていくのでした。
途中で色々なことがありましたが、まず隣国アルムガルド王国との通商条約が正式に成立し、お互いの国同士の行き来はさらに盛んになりました。
マリクさんの助けもあり、サリーはその後半年ほどでおお店を任せることになりました。彼女は私に薬の知識を教わるだけでなく、家ではマリクさんに商売のイロハを教わっていたため、すぐに様々な知識を身に着けました。私が最初にお店を開いた時に比べればサリーの方がよほど頼もしいです。というか、薬の知識を抜きにすれば私よりもよほど店主の知識や能力を持っていると思います。
他にもエレンや新しく雇った人も仕事を覚え始め、お店としても大きくなっていきました。最近は王都にも新規出店しようという話が出ているほどです。
私は屋敷で薬学の勉強をしながら、時々多めに作った薬をお店に売っていました。とはいえ、母上を完全に治せるような薬はいまだに研究中です。
そして。
「セシリア、久しぶりだけど元気かい?」
条約が成立してお互いの国の行き来が盛んになったため、特に大きな事件がなくてもエドモンド殿下はひんぱんに我が国に来てくださるようになりました。
そして公務の合間を縫って我が屋敷にも立ち寄ってくだるのです。もっとも、うちは小さい貴族なので殿下がやってくるたびにおもてなしをどうするかで大騒ぎしていましたが。
「はい、私の方は相変わらずです」
「お店の方もサリーに任せたんだってな」
「そうですね。私は薬を作るのが得意というだけで、別に店主としての才能がある訳ではないので」
私の言葉に殿下は首をかしげます。
「そうだろうか? 短期間であそこまで繁盛したのなら才能はあるんじゃないか?」
「それはそうですが……あれは殿下のおかげですよ」
「そうだったか?」
殿下のお墨つきをいただいてからお客さんが増えたのですが、殿下の方はそこまで覚えていないようです。確かに殿下はサインを一つ書いただけなので覚えてないのも無理はないのかもしれません。
「しかしあの時は色々ありがとうございました。お店が繁盛したのも殿下のおかげですが、クロードが倒れた時は私に罪が着せられてもおかしくない状況でしたので」
「そんなことはない。アディントン公爵はじめ、僕以外にもそなたの無罪を主張する貴族は数多くいた。だから無罪を勝ち取ることが出来たのはそなたの人徳のたまものだ」
そう言われると少しこそばゆいような気持ちになってしまいます。
「ありがとうございます」
「それに、紅熱病の時はそなたのおかげでアディントン公爵とも親しくなることが出来た。公爵と親しくなったおかげで後の交渉も色々うまくいったからな」
殿下は満足そうに言います。
あのあと、どうも公爵は殿下のために条約に反対する国内の保守的な貴族たちの説得を行ってくださったらしいのです。
おかげでその後両国の行き来は盛んになり、実は私のお店にも隣国に薬を売りにいくための商人がくるという好影響がありました。
「とはいえ殿下はこれほどたくさん我が国に来ていますが、国内のことは大丈夫なのですか?」
私が尋ねると、殿下は苦笑しました。
「まあ父上も健在だし今のところは父上が国政、僕が外交ということで役割分担は出来ている。もっとも、そなたに会うためにこちらの国に来る用件を作っているというところはなくもないがな」
「え?」
さらりと言った殿下の言葉を危うく聞き逃してしまいそうになりましたが、私に会うために用件を作っている?
すると殿下は少しだけ真面目な表情になりました。
「そうだ。この国に用件を作るために、結んだ方がいい条約や、今後こういう交流を盛んにしたいという提案を考えていたんだ。まあそのおかげで色々といい政策を思いついたのだがな」
「そうだったのですか!?」
最近は両国でよくとれる農作物を交換したり、職人や技術者を交換したりということがありましたが、それらの政策がそんな不純な動機から生まれたものだったとは。
「まあそういう訳だがこれからもよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして私と殿下の奇妙な縁は続いていくのでした。
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