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セシリアの話

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「サリーさんはそもそもどこまで知っているのでしょうか?」
「そうですね、この一か月で色々聞きましたが所詮市井の噂なので……」

 そう言ってサリーが苦笑します。
 確かにお店をやっていると分かりますが、平民の方は(よく考えると貴族も変わりませんが)おもしろおかしい噂話を好むので、店内でも知り合い同士で会えば嘘か本当かどうかよく分からない話で盛り上がっていました。
 私の話も適当な尾ひれがついている可能性があります。

「でしたら改めて事の発端からお話しますね」

 そう言って私は元々クロードと婚約していて、幼馴染だと思っていたエリエとクロードに嵌められたことを話します。

 そこからこの街にやってきて、そこでのことは全てサリーも知ってのことだと思います。ただ、紅熱病の件で私が呼ばれた時に冤罪を晴らす機会があったこと、それを手放したけど結果的にその時の評判が今に繋がったことなどを話すと、サリーはその時にそんなことがあったのか、と驚いていました。

「すみません、私としてはその時は薬屋として生きていくつもりだったので、過去は封印するつもりでお話していませんでした」
「そうだったんですね」

 それから私はクロードが毒を盛られた事件とその真相について話します。
 クロード、カール、エリエ三者の嫉妬と愛憎が渦巻く人間模様を聞くとサリーもさすがに唖然としていましたが、無事犯人が特定されて私の冤罪疑惑が晴れたと聞いてほっと肩を撫で下ろしました。

「……ということがあったのですね」
「訳有りの方だとは思っていましたが、そんなことがあったなんて。ということはこの先このお店はどうなるのでしょうか?」

 サリーが少し不安そうに尋ねます。

「それなんですけど、しばらくは続けようと思います」
「それは良かったです」

 一瞬サリーはほっとしました。

「しかしどこかのタイミングでサリーにお店の経営は任せようと思っています」
「えぇ!?」

 サリーは驚きました。
 それはそうでしょう、知り合い(しかもその時は知り合いというほどの関係でもありませんでしたが)の手伝いで入ったつもりが、まさか店長まで任されるとは誰も思わないでしょう。

「大丈夫です、経営といっても私もほとんど薬を作って売るだけしかしていませんでしたし」

 それでも何とか利益が出ていたのは殿下が来点したことで評判が上がり、お客さんがたくさん来たことでしょう。
 また、調剤の知識がある方はまだまだ少ないので、薬を作って売るだけでも利益が出やすいという環境は元からありました。

「それにこの一か月の間、サリーさんだけでも店は回っていたのですよね?」
「まあそれはそうですが……そうは言ってもうまくいかないことも多かったので」
「薬は店を離れても自分の家で作ろうと思っています。ですからそれを売ってくれるだけで大丈夫ですよ」
「そんなものでしょうか?」

 サリーは半信半疑のようでした。

「さすがに薬のことを何も知らずにお店をやるのは大変なので薬のことは店を離れる前に色々教えようと思います」
「それはなかなか大変そうですね……」

 そう言ってサリーは苦笑します。

「すいません、急にこんなことを任せる形になってしまって」
「いえ、でも薬さえ作ってもらえるのでしたら私はやります」

 さすが、商会長の娘というだけあって彼女にもマリクさんの商人の血が流れているのでしょう、思ったよりも早くサリーは決断してくれました。
 私がいない間の一か月の経験も後押しになったようです。

「と言う訳で早速ですが、私は調合に入るので引き続き店番はお願いします」
「分かりました」

 こうして一時的にとはいえ、お店は以前のような日々に戻っていくのでした。
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