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繁盛

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 さて、殿下が帰っていくとそれと入れ替わりにたくさんの人が店内に入ってきました。これまでは一度に数人も入ってこれば混んでいると言える状況だったのですが、今はあまり広くない店内が瞬く間に一杯になっています。

「今いらしていたのはアルムガルド王国の王子様ですよね?」
「もしかして殿下に薬を売っているのですか?」
「オープンしたばかりと思っていましたが、実は名のある薬師の方なんですか!?」

 これまではただの「オープンしたばかりの薬屋」だったのに、殿下がいらしたことによってあっという間に「アルムガルド王家の方も利用する薬屋」にランクアップしてしまったのでしょう。

「えっと、今のは……」

 私がどう説明するか考えていると、お客さんたちは私の後ろに飾ってある先ほど殿下が置いていったサインを見つけて指さします。

「やっぱりあれはエドモンド殿下のサインだ!」
「先ほどいらしていたということは本物に違いない!」
「殿下とはどのような関係なのでしょうか!?」

 人々は目の色を変えて私に質問してきます。

「ちょっと皆さん、そんな一度に質問したらセシルさんも困ってしまいますよ」
「サリー!?」

 そう言って間に入ってくれたのはバーンズ商会の娘、サリーでした。
 サリーが間に入ると色めきたっていたお客さんたちもいったん落ち着きます。

「ありがとう」
「いえ、セシルさんのお店にエドモンド殿下がいらしていると聞いてやってきたのですが、予想外の騒ぎですね」
「実は……」

 ようやく落ち着いた私は数日前に執事が薬を買いにきたところからの経緯を語ります。そこで殿下の使用人の病状を診察し、そのお礼に先ほど殿下がやってきて、サインをくださりました。

「……と言う訳です」

 私が話し終えると、一斉にお客さんたちからどよめきが上がります。
 そして一番前にいた男が言います。

「ということは間違いなくお嬢ちゃんは将来大物になる。それなら今のうちに薬を買っておこうかな」
「ありがとうございます」
「俺も別に薬はいらないと思ってたけど、友達が最近風邪っぽいからこれをあげてみるよ」
「まだ薬を飲むほどじゃないと思ってたけど一応飲んでおこうかな」

 それから次々とお客さんたちが店内の薬を買っていきます。皆の言葉にあるように、元々薬を買うほどでもないという方もエドモンド殿下が訪れた店ということで買ってくれているようです。
 私は改めて殿下の影響力の大きさに驚くとともに感謝するのでした。

「大変だ、列が店の外まで伸びているぞ」
「本当ですか!?」

 外から聞こえてきた声に私は驚きます。幸いうちは同じ風邪薬でも何種類も調合していたので、商品がすぐになくなることはないのですが、店内は広くないので人でごった返しています。

「私が何とかしますね……並ぶ方は出入口を塞がないように一列にお願いします! 申し訳ないですが買い物を終えた方は速やかに退出お願いします!」

 サリーがお客さんの整理をしてくれたので、買い物を終えたお客さんが店の外に出ていき、ようやく外にいるお客さんが入れるようになります。
 列の整理が終わると、サリーは私のお会計も手伝ってくれるようになりました。

 こうして突然の盛況は夜遅くまで続き、最後のお客さんが出ていったときにはすでに周りは真っ暗になっており、店内の商品もほとんどが売り切れ、私の手元にはたくさんのお金がありました。

 本来なら喜ぶはずなのに、驚きと戸惑いの方が強いです。

「ふう、あまりに突然すぎて驚いてしまいました。あとサリーさん、ありがとう。来てくれなかったら今頃パニックになっていたと思います」
「いえ、私もまさかここまでとは思いませんでした。でも、何にせよ人を雇った方がいいと思います。お会計や接客もそうですが、セシルさんが薬を調合するタイミングもありませんし」
「本当だ……明日までに売り物を作らないと」

 私は空っぽの店内を見て青ざめました。このままでは営業出来ません。とはいえ、人を雇うならそちらの手配もしないと、とやることが山積みです。

 そこで私はふと思いついたことがあります。
 いけるのかは分かりませんが、だめ元で頼んでみることにします。

「あの、サリーさん、もし良ければお給料を出すから明日からここでお手伝いしてくれませんか?」
「え?」

 私の突然の提案にサリーは少し驚きました。そりゃあ誰でも急に「明日から働いてくれない?」などと言われれば驚くでしょう。

「分かりました、ではお父さんとも相談して、お返事はまた明日の朝伝えにきますね」
「はい、ありがとうございます」

 検討してもらえただけでも今の私にとっては嬉しいことです。こうしてサリーは遅くまで付き合わせてにも関わらず、笑顔で帰っていったのでした。
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