I forget. nothingness Avenger

栗蜜カカオ

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2話「実力の差」

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「……ゴミは良く燃えるな」




目の前で立ち上る炎を見て我は小さく呟く




「……回収しなければ」




ゴミが燃える様はいついかなる時も
美しく我の感情を昂らせるが
今はこの感情に浸ってる場合では無い





予め用意していた革製の巨大袋を
服のポケットから取り出し入口を広げる




「全く……手間をかけさせる」




愚痴を零しながら死体を雑に袋の中に詰め
袋の口を縛り燃えるゴミの山に踵を返す




「待……て…………」




「!」




目的は達成し邪魔者も排除し残るは帰還のみ。
少しだけ油断していた我の耳に声が入る




「まさか……這いずって来るとは……」




振り返るとゴミ山から先程吹き飛ばした
男が這いずりながら此方へ近付いていた










「何処に……行く気だ……」




意識が朦朧し足元が覚束無いが
足に力を入れて無理矢理立ち上がる




「兄さんを返せ……!」




「死に損ないが……下らない」




男は兄さんの死体が入った袋を脇に抱え
体の向きを正反対にし歩き出す




「お前の様なガキに構ってやってる暇は
我にはないのだ。お前はその身なりらしく
ゴミ山の中でゴミの様に死んでおけ」





右手を上げプラプラと揺らしながら
挑発し暗闇の中に消えようとする




「それにその腕のお前に何が出来る?」




「腕……?」




左腕を見てみると手の甲から肩にかけて
とんでもない大火傷を負っていた。
複数箇所の皮が垂れ見るに堪えないが
今の状況の方に集中してる為痛みを感じない




「……こんなの……痛くない……」




この先生き残れたとしてもこの後で
激痛に襲われるだうが関係ない




「もう一度言う。兄さんを返せ」




意識をハッキリさせただ真っ直ぐ
男の大きく離れた背中を見つめる




「言葉が通じないガキが。何度も言ってるが
我はお前に構ってやってる時間はないんだよ」




「だったら!」




左手を突き出し右足を1歩踏み出し頭の中で
ある形を思い浮かべる。すると左掌の真ん中に
赤光する円の中に星が描かれた模様が出現する




次の瞬間、掌から軌道は不安定だがかなり
スピードがある中サイズの炎球が3つ放出され
男の左頬を掠め壁に衝突する。
球が当たった壁には焦げた後だけが残る




「力づくで返してもらう……!」




「……ハァ」




男は深く大きい溜息を付くと
ようやく俺の方に振り返る




「鬱陶しいにも程があるガキだ……。
いいだろう。この我がほんの少しだけ
お前の相手をしてやろうじゃないか」




男は脇に抱えてた兄さんが入った袋を
俺の後ろにある建物の屋根に向かって
軽々しく投げ飛ばしてしまう




「さて……手早く終わらせてやる」




男が右指を鳴らすと男の背後に青色の
円星模様が横に何個も出現する




「んなっ……!?」




そんな光景に俺は誰がどう見ても動揺していた。
魔法というのはとても便利な物で
戦闘と日常生活どちらでも使い道はある。
しかし便利が故にデメリットも存在する




本来魔法は発動すると魔法が出てくる位置に
魔法陣と呼ばれる魔法の種類によって色が
変化する星型の模様が浮かび上がり
そこから魔法が放たれる。これが魔法の
簡単な説明。そして魔法には2種類存在する。
1つは魔法を自身の体の部位から発動する
"人体魔法"と事前に地面や壁に魔法陣を設置して
任意のタイミングで発動する
"設置型魔法"の2つ。だけど今この男が
使ってるのはどちらの魔法ではない。
体の部位からでも壁や地面からでもなく
魔法陣そのものが宙に浮いているのだ





「我を下等生物と同じにするな」





男の左指が鳴ると各魔法陣から無数の
小さな水の球が高速で放出される




普通ならありえない魔法陣の出現に
気を取られていた俺は対応が遅れるが
幸いにも命中精度はあまり良くないのか
ほとんどが空を切り壁や床に当たり
大きな破裂音と水溜まりを何個も残す。
それでも数の暴力で何発か体に直撃する




水球を受けた痛みで気を取り直すと
咄嗟に両足に魔力を集中させる。
両足裏が薄く水色に光ると
一瞬で透き通った水色の氷が
足裏から斜めに飛び出て俺を
囲う様に球体へと変化する




「んなもんぶっ壊してやるよ!」




奴の魔法は激しさを増し次から次へと
氷のドームに水球がぶつかり破裂する。
ドーム内に破裂音が響き渡り徐々に
氷に小さなヒビが入り始める




「スゥ……フゥ……なんなんだあいつは……」




ドームが守ってくれてる間に息を整え
水球が当たった箇所を見ると少しだけ
腫れている。ほんの数発だったから
良かったものの全て当たってたと
考えるとただの怪我じゃ済まなかった




そんな事よりもあいつの魔法だ。
普通ならありえない魔法陣の出現位置。
人体魔法でも設置型魔法でもなかった。
それに指を鳴らすだけで発動していたのと
疲れが無さそうな事を加えると
相当使い慣れている




「あいつは……ただの生物じゃない……?」




男の事を考えれば考える程何故か汗が吹き出て
心拍数が上がり体が震える。今の俺を
包むのは怒りでも恨みでもなく恐怖。
奴の素性、力量、思考、魔法の技術。
どれをとっても不明瞭で不気味で恐ろしい




「…………ッ!?」




思考を巡らせていると気が付けば水球は
止んでおりいつの間にか俺を囲うドームを
更に囲むようにドームより少しだけ大きい
炎の渦が小さな夜空を残し視界を奪っていた




「無駄な事を考えてる場合じゃない……!」





男について考える事を放棄し対策を考える。
自分で作ったドームと炎の渦で外の様子が
これっぽっちも分からない。男が何処に
居るのかも不明で何より氷が溶けだしてる




「ホント……殺り合ってる最中に
考え事するなんざ自殺行為だぞガキ」




焦っていると何処からか男の声が聞こえる




「上だよ上!」




「上!?」




声の通りに上を見てみると月に被さった
男の影が小さいながらもハッキリ見えた




男の影は大きくなりながら落下してくると
俺の真上にある氷の上に片膝を着いて着地する




「自分で逃げ道を塞ぐなんて力づくで
返してもらうとか吐かしてた割には
頭も力も何もかも足りてないな」




男は両手を氷に着けると右に赤、左に紫色の
魔法陣を掌に出現させる




「力の使い方を教えてやるよ」




次の瞬間男の右掌から放たれた太い炎の柱が
氷を突き破り炎が地面に広がり
残りの氷も渦の炎の熱によって溶ける。
それに合わせて両手に青い魔法陣を
出現させ瞬時に水の球体で自身を包むと
バックステップで地面に着地した男から
距離を取りつつ炎の渦から抜け出す




「っぶな……水……?」




右足が先に地面に着くと同時に渦の中から
俺の足元にかけ水が流れてるのに気付く




「強い奴は相手の物すらを利用する」




両足を着き体勢を整えたその時。
渦の中から紫色をしたギザ状の雷が
足元の水を伝って足に触れそこから
全身へも伝い痺れと痛みが発生し
全身から力が抜け尻もちを付く




「……満足したか?」




「チィ……!まだ……!」




炎の渦が止み右手に途切れ途切れだが
雷を纏わせた男が歩み寄ってくる。
距離を取り反撃しようとするも
体が痺れて言う事を聞いてくれない




「手間かけさせやがって……」




男の左手が伸び俺の首を力強く掴むと
ゆっくり、ゆっくりと体が宙に浮く




「カッ……カハッ……ガァ……!」




「この身の程知らずがっ!」




「ゲフッ!?」




首を締められ息が続かない中
容赦なく腹に男の膝がめり込む




「大人しく死んどきゃ良かったものを!
雑魚の癖に我の邪魔をしやがって!」




身動き1つ取れず好き放題に殴られ
蹴られ続ける。このままやられ続けまいと
左手だけ動かし掌に薄青の魔法陣を
出現させると小さな小さな氷の針が
男の頬を掠め地面に当たり砕け散る





「はぁ~……救いようがない」




男の手が首から離れ体が宙に浮き安堵した瞬間
右頬に男の強烈な蹴りが炸裂し吹っ飛ぶ





「カヒュー……コフッケフッ……」




「もういい加減諦めろ。お前が足掻こうが
何をしようがお前に出来る事は無いんだよ」




地に這いつくばり何度も深呼吸を繰り返す
俺の真横を通り過ぎる男の足首を掴む




「それに……そろそろ近いだろ?」




「なに……が……?」




魔力過剰使用オーバーロード




「ッ……」




魔法を使うにおいて1番危険な事。
それはを魔力過剰使用オーバーロード"だ。
これは魔力を使い過ぎたり魔力量に似合わず
大規模の魔法を使用すると起きる現象で
個人差はあるが魔力過剰使用が起きると
一般的には魔法をつかえなくなったり
体を動かせなくなったりする他にも
使った魔法に応じて体がその魔法に似た性質を
持ち始め最悪死に至る可能性がある




「そろそろ時間だ」




俺の手を軽く振り払うと男はたった1回の
跳躍で袋がある屋根まで飛んでしまう




「ま……だ……終わってな……い……!」





「まだ勝てると思ってるなら大間違いだ」




男が手を軽く叩くと目の前に巨大な
薄青円星模様が地面に現れる




「こいつで十分だ」




そして魔法陣が上に上がっていくと共に
大きな人に似た体が出来上がっていく




「ぁ……ぁあ…………」




出来上がったのは顔が無い氷の巨人。
付近にある建物よりも高くその見た目だけで
勝てるはずがないと嫌でも悟ってしまう




いや、最初から分かっていたが目を背けた。
今の今までまともな魔法を使った事が無い俺が
未知の魔法を使う大人相手に勝てるハズが無い
埋める事が出来ない圧倒的実力と経験の差



「一つだけ我からアドバイスしてやろう」




迫り来る巨人を見上げる事しか
出来ない俺に男が話しかけてくる




「お前に魔法は向いていない。大人しく
体術や剣術を学ぶ事をオススメする」




そんな言葉を残し男は暗闇に消えてしまう




「ァ……ハァ……ハァ……ッグゥ!?」




何とか立ち上がった直後巨人の右手が
俺を鷲掴みにして持ち上げ壁に叩き付ける




そして巨人は左拳を握りしめると
大きく振り被りその拳を突き出すのだった
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